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30年待たされた異世界転移  作者: 明之 想
第10章  位相編
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第494話  邪狼狗 3


<古野白楓季視点 (現在)>




「……去ってしまったわよ」


「ああ、またいなくなっちまったな」


 有馬君が消えた後、しばらくはこの異空間に留まっていた吾妻達。

 何やら深刻に話をしていると思ったら、こちらに目を向けることもなく消え去ってしまった。


「これで、わたしたちだけになるのは2度目ですね」


「……ええ」


「前回と違って、今回は長くなりそうだぜ。聞こえてきた話からすっと、24時間は放置されるかもな」


「24時間もですか?」


「ん? 武志は聞こえなかったのか?」


「僕は結界に集中していたので……」


「おう、そうだったな。あいつらの話だと、吾妻が回復するまで時間がかかるってよ」


「だから、24時間なんですね」


「そういうこった」


 有馬君との戦闘で結構な内傷を負ったみたいね。

 その有馬君も、今はここにいないんだけど……。


「しっかし、敵がいねえと、どうしようもねえなぁ」


「再戦に備えて、まずは休まなきゃいけないわ」


「そりゃ、そうだ」


 吾妻たちは必ず戻って来る。

 その時のために、準備をしないと。


「けどよぉ、飯もねえのに24時間だぜ」


「……」


「水もねえしよ。ちっ、15歳の頃の事件を思い出しちまうよな、古野白」


「……そうね」


 5年経った今でも忘れることができない、あの邪狼狗との戦い。

 こうして生き残っているのが不思議なくらいのものだった。


「あれに比べりゃ、ましか」


「……」



「わたし、500mlのペットボトルなら持ってます。1本だけですけど……」


「おっ! そうなのか?」


「はい。有事の際には水が必要だと、功己に何度も言われていたので」


「それでペットボトルを持っているのね」


 助かるわ!


 ここにいるのは武上君、幸奈さん、武志君に私の4人。

 決して満足できる量ではないけれど、何もない状態と比べれば雲泥の差よ。


「少しですけど、チョコと飴も」


 本当に!


「素晴らしいわ、幸奈さん」


 チョコと飴に水。

 それだけあれば、24時間を凌ぐことができる。


「いえ……」


「姉さん、いつの間にそんな物まで用意してたんだ?」


「いつも鞄に入れてるだけよ」


「兄さんに言われて?」


「それもあるけど、わたしも色々経験してるから」


「経験って、姉さんが? 異能に関わったのは最近なんだから、危険なんて経験してないはずだろ」


「……色々あるのよ」


「色々って何だよ?」


「それは……」


「何かあったのか?」


「……」


「武志、やめとけ。姉弟喧嘩なんかすんじぇねえ」


「喧嘩じゃないですよ。姉さんに聞いてただけだから……」


「喧嘩じゃなくてもだ。女に話を無理強いするってのはなぁ、野暮の極みだぜ」


「……」


「姉さんにも、色々あんだよ。武志も男なら、察してやれ!」


「……」


 きつく言い過ぎよ、武上君。

 武志君が黙ってしまったじゃない。


 けど……。

 たまには良いこと言うわね。



「ってことで、ゆっくり待つとしようぜ」


「あのぅ……わたしたちだけで脱出はできないんでしょうか?」


「そいつぁ、難しいなぁ」


「そうね。異能者が創造した異空間から脱出するのは容易なことじゃないわ。24時間では、とても……」


「でも、功己は? 功己は入ってきましたよね?」


「有馬君は……ちょっと特別だから」


「脱出より侵入の方が難しいんだぜ。だってのに、難なく入ってきやがって。何もんだ、あいつ!」


 ホント、いつも想像を超えてくれるわ。


「って、待てよ。有馬がいたな」


「……そうね」


「吾妻たちの前に、あいつが戻ってくんじゃねえか」


「有馬君なら、戻ってきてすぐに脱出方法も見つけるかも……」


「おうよ! こりゃあ、24時間もかからねえぞ」





********************





『ォォォォ……』


 身を刻み付ける凶器のような叫声が消えていく。


 終わった?

 咆哮が終了した。


「……」


 面倒な獣声だったな。

 っと、みんなは?


「っ!」


「何っ!」


「動けねえ!」


 叫声を近距離で受けた3人。

 地に膝をついたまま動けずにいる。


 身体の自由を奪われたのか?


「くそっ!」


 この状況……。

 邪狼狗の咆哮には、敵を威圧し戦意を削ぐ力があるようだ。


 おそらくは、異世界の魔物ホーンベアーの咆哮と同種の効力。

 初見では、容易に対処できない厄介なスキル。


 とはいえ、咆哮の効果は麻痺の類ではない。

 上手く動けないという状態に陥るのみ。

 実際、鷹郷さん、古野白さん共に手足も頭も動かせている。


 武上少年にいたっては……。


「だぁぁ!!」


 気合一閃。

 立ち上がっているのだから。


「この野郎、ふざけた真似しやがって!」


『立ち上がる @$#?』


 立ち上がった武上少年が、まだ膝をついたままのふたりを庇うように前に出て、邪狼狗を睨めつけている。


「さあ、続きを始めようぜ」


『愚かな!』


 強気な態度を見せているものの、内実は強化した身体で無理やり動いているだけ。

 まともに戦える段階ではないはず。


 ただし、万全じゃないのは邪狼狗も同じ。

 煤だらけになったその身には、古野白さんから受けた炎弾のダメージが濃く残っているだろう。


 そう思っていたのに……。


『□$*+!』


 まずい!

 邪狼狗が武上少年に向かって飛び込んでくる!

 速度も先刻以上だぞ。


「っ!」


 攻撃を躱しきれない!


「ぐぁ!」


 そのまま蹴り飛ばされて……。


「武上!」


 腹部に受けた蹴りは尋常じゃない威力。

 強化された身体でなければ、内臓に損傷を受けるレベルだ。

 武上少年は?


「くっ! うぐっ……」


 呼吸もままならない状態。

 けど、あれなら……。


「武上君!」


 いまだ立ち上がれない古野白さんが、這うようにして近づいていく。


「行くな、古野白」


「ぐっ……来んじゃねえ!」


「何言って……!?」


 古野白さんの後ろを追うように、ゆっくりと歩み寄る邪狼狗。


『フフ、ここまで □%*、人の子よ』


「あっ!?」


 邪狼狗が古野白さんの髪の毛を掴んで引っ張り上げた!


「「古野白!」」


「……」


 もう我慢も限界だ。





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― 新着の感想 ―
[良い点]  これは現在の時間軸にリンクして……  むむむっ! どうなる!?
[一言] 現代でも邪狼狗…… うーむ、謎( ̄▽ ̄;)
感想一覧
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