第493話 邪狼狗 2
「オレは、逃げねえ!」
「何を言ってる! 退くんだ、武上!」
「……」
「今すぐ下がれ!」
「……」
「武上!」
鷹郷さん、どうあってもふたりを遠ざけるつもりだな。
ただ、ふたりが下がると3人で邪狼狗の相手をすることになる。
大丈夫なのか?
……大丈夫なわけがない。
危険を承知した上で、3人で戦う。
未成年のふたりの身を守る。
先輩異能者としての矜持、異能者のルール。
そういうことなんだろう。
「この異形は危険すぎる。お前たちは撤退するんだ!」
「危険だから、一緒に戦うんだって! そうでしょ、鷹郷さん!」
「……」
「私も戦います!」
「退くのは里村だけでいい。オレと古野白は戦います。勝つにはそれしかない!」
「……」
武上少年と古野白さんは、鷹郷さんの意図を理解してなお退くつもりはないようだ。
命令に反しても戦う、か。
「こうなったら、もう5人でやりましょ」
「仕方ないですよ、隊長」
「お前たちまで……」
土系異能者と植物系異能者の先輩ふたりが参戦に同意したとなると。
「……古野白、次弾は可能なのか?」
「はい!」
「武上、拳は問題ないんだな?」
「もちろんですよ!」
「……そうか」
「「鷹郷さん」」
「「隊長」」
「……分かった。皆、いくぞ!」
「「「「了解!」」」」
戦闘決定だ!
『無駄な #&@□』
「フォーメーションはC。古野白は必中を狙え!」
「はい!」
鷹郷さんの指示で、一瞬で戦闘の態勢を整える5人。
敵の威圧感の影響など全く感じさせない見事な動きだ。
『@&●□%』
里村と幸奈は既に退避済み。
戦闘を前にして、一般人と共に後方に下がっている。
俺はといえば巨大蜘蛛戦と同様、数メートル後ろで待機中。
ただし、参戦の準備は万端。
今すぐでも戦闘可能だな!
フォーメーションが完成した異能者5人。
対する邪狼狗は自然体。
嫌な笑みを浮かべている。
『*□&#+!』
数秒の対峙のあと。
「ウインド!」
邪狼狗戦の火蓋が切られた!
「ウインド!」
「ウインド!」
「バインド!」
「たあぁぁ!!」
鷹郷さんの牽制から、拘束の根茎、武上少年の打撃へと流れるように攻撃が続いていく。
序盤は一方的に攻めている状況。
ただ、邪狼狗にはひとつも当たっていない!
「ウインド!」
「だぁ!」
『%$#〇@+*』
不明な点が多い邪狼狗のステータス。
鑑定を使っても、生命力と敏捷性しか知ることができなかった。
それでも、ある程度の推測はできる。
やつの推定ステータスから判断すると、5人が邪狼狗を制圧できる可能性は……。
……。
……。
異能者の戦闘は単純にステータスだけで決まるわけじゃない。
特に今回は5人が連携しての戦闘なのだから、異能の相乗効果や相性など多くの点が勝敗に関係してくる。
もちろん、多勢が有利なことに変わりはない。
とはいえ、この異形を簡単に倒せるとは考えない方がいいだろう。
苦戦は必至、か。
「……」
本来なら、俺も即時参戦すべきなんだろうな。
ほんと、判断が難しい。
『 %$*□。遊びは終わり 〇*!』
ここまで防戦一方だった邪狼狗の目の色が変わった。
動きも!
「ウインド!」
「バインド!」
異能攻撃を軽く躱すと、勢いよく地を蹴り跳躍。
宙を駆けるように頭上を越え、右後方に位置する植物系異能者の背後に着地。
「なっ? ぐっ!」
驚き振り返る異能者に手刀を一閃。
一撃で昏倒させてしまった。
邪狼狗は、地に伏す異能者に追撃を加えることなく再度跳躍。
「サンドウォール!」
土系異能者が創り上げた土の壁を越え。
「うっ!」
またもや一撃で異能者を圧倒。
たった数秒で、ふたりの異能者を戦闘不能状態に!
「たぁぁ!」
そこに飛び込んで来たのが武上少年。
強化した腕と脚で邪狼狗に襲いかかる。
『〇#□%』
右拳、左拳の突きから中段蹴りと文句のつけようがない攻撃を続けるが、どれも当たらない。
「だぁ!」
さらに連続攻撃。
それでも、当たらない。
「おりゃあぁ!!」
ここで武上少年の速度が上がった。
今日一番の速さだ。
渾身の右拳が邪狼狗の顔面に!
惜しい。
顔を掠めたぞ。
今は紙一重で避けられたが、最高速の攻撃は十分に通用している。
「……」
武上。
5年前のお前は大したものだよ。
『@&$●#!』
武上少年の連続攻撃を受け、邪狼狗の顔からはいつの間にか余裕が消えている。
「だぁぁ!」
絶えることのない連撃に対し、動きを止めて対処する邪狼狗。
その背後から。
「ウインド!」
「炎弾!」
「ウインド!」
鷹郷さんと古野白さんの連携異能。
白炎を撒き散らし進む烈火が、邪狼狗の背中に!
一直線に!
『!?』
跳躍回避しようとする邪狼狗。
左腕を武上少年が掴んだ!
邪狼狗は逃げられない。
『△¥$●!!』
的中!
古野白さんの炎弾が敵を捕らえた!
「よし!」
「やったか?」
「……」
その身にまともに炎弾を喰らった邪狼狗。
だが、倒れない。
『◎△+*@#!』
悶えながらも武上少年の腕を振り払い跳躍。
距離を取る。
そして……。
炎が消えた瞬間。
『オオォォォ &◎$□!!』
宙を斬り裂くような咆哮が響き渡る。
『△*¥ ォォォォ!!』
と同時に襲ってくる強烈な圧迫感。
「っ!」
「何だぁ!」
「うぅ!」
さっきまでは、勝利を掴んだかのように見えた3人。
僅か数秒で形勢は一変。
鷹郷さん、古野白さん、武上少年が地に膝をついてしまった。
申し訳ありません。
通常更新に戻るまで、もう少しだけお待ちください。
3章の表紙絵が完成しました。





