第492話 邪狼狗
「功己さん!」
飛びつかんばかりの勢いで駆け寄って来る幸奈に、思わず後ずさってしまう。
「化け物はどうなったんです?」
「……彼らが倒してくれた」
「功己さんは?」
「何も……今回は見ていただけだ」
「……そうなんですね」
残念といった表情を見せる幸奈。
俺の心配をしながらも、活躍を期待してたのか。
異形との手合わせは俺も望むところだったというのが本心だけれど……。
「おう、里村ぁ。オレが倒してやったぜ!」
そんな感慨も武上少年の熱を帯びた声であっさりと霧散。
「もう、みんなの力での討伐でしょ」
「オレの一撃でとどめを刺したんだって」
「それでも、みんなで倒したんだよ」
「最後はオレだ」
「しつこいよ、大志君」
「ホントだからだろ!」
こいつら、ホントに仲がいい。
俺のいた世界とは大違いだ。
「もう~、しつこいなぁ」
「ふたりとも、それくらいにしなさい」
「……」
「……」
騒がしいふたりのもとに近づいてきたのは古野白さんと鷹郷さん。
鷹郷さんは俺に一瞥くれた後、すぐ視線を里村少年に向け。
「里村、今からできるか? 今回の処理人数は少ないが……」
「はい、すぐにでも記憶消去できます。でも、どこに一般人が?」
「路地裏に隠れてもらっている」
「そうなんですね。じゃあ、ここで消しましょうか」
「頼むぞ」
鷹郷さんの指示で路地裏に足を運んだ植物系異能者が、隠れていた一般人3人を連れて戻ってきた。
その中のひとりが驚きの表情で見つめる先には里村少年。
「えっ、晴海??」
「母さん!?」
「晴海、あなたがどうしてこんな所に?」
どうやら、一般人の中に里村少年の母親もいたようだ。
そういえば、実家がこの近くだと里村は言っていたな。
「どうして?」
「……」
戸惑う里村少年に鷹郷さんが顔を寄せ。
「……はい」
耳打ちを。
「……そうですね。今すぐ消します」
頷く里村少年の横には困惑したままの母親。
まだ呆然と立ち尽くしている。
「いったい? どういうことなの?」
「あなたたち、何なの?」
里村少年の母親だけじゃない。
一般人の女性ふたりも色を失った顔で、見るからに動揺している。
「……」
異形を見たのか?
簡単には見えないはずの異形の姿を……。
「私たちをどうするつもり?」
「触らないで!」
「大丈夫です。落ち着いてください」
「何が大丈夫なの!」
「それは……」
見るからに厄介な状況だ。
ただ、ここには里村少年がいる。
記憶消去の異能があれば、問題はないはず。
「里村」
「了解です」
表情を消した里村少年。
まずは母親に手をかざそうとした、その時!?
「!?」
「っ!!」
「えっ?」
「これは!?」
「何!?」
一斉に動きを止める異能者たち!
「……」
この空気を感じ取ったのなら当然だ。
「あれは!?」
「何なんだ!?」
巨大蜘蛛が砕け散った落とし穴の中。
そこに、蜘蛛以上の威圧感を発する化け物が現れたのだから。
「異形……」
「また異形が……」
どこからともなく姿を現したのは、耳と2つの尻尾を持つ人型の異形。
巫女のような衣装に、美しい銀の毛並みの尻尾と耳という和風獣人のような姿をしている。
「「「「……」」」」
体躯は普通の女性と変わりはない。
見た目は、2つの尻尾を持つ狼系女性獣人そのもの。
ただ、その身から発する圧力が尋常ならざる者だと告げてくる。
『フフ、ハハ *〇&……』
「えっ! 頭の中に?」
「笑い声?」
「あの異形か!」
「あいつが笑ってんのか?」
『フフ……$%@ 解放してくれた 〇%& おぬしたち □&』
所どころ聞こえない箇所があるが、異形が言葉を話している!
いや、これは脳に直接?
テレパシーなのか?
『感謝 #&〇 なるまいな』
解放に感謝?
何を言ってるんだ?
『が、封じたのも *@□%〇#!』
「「!?」」
「「っ!」」
「……」
威圧感が増した!
「……言葉を、扱えるのか?」
圧力を受けて、鷹郷さんの声もかすれている。
『人語 $#*、容易いもの』
「……里村、皆さんを連れて後ろへ」
「分かりました! 母さん、皆さん、それに幸奈さんも、こっちに来てください」
「晴海!?」
「説明は後でするから、とりあえず今はこっちに来て」
女性たちの混乱が増している。
そんな3人と幸奈を連れ後退して行く里村少年。
『無駄な 〇@&。皆殺しの運命は #:@□&#$』
「……我々も少し退くぞ。退いて態勢を整える」
「「「「はい」」」」
『無駄だと言って &%$』
銀狼の異形が穴の中から跳躍。
一瞬で後退する鷹郷さんたち5人の面前に!
「「「「……」」」」
『土蜘蛛を下すとは □*‘$#。おかげで封も解け、〇%‘&□』
「……蜘蛛の中に封印されていたと?」
『そう 〇$*;@の祖によって 〇&*+ の中にな』
「数百年……まさか、邪狼狗!」
『久しぶりに聞く □@*』
「邪狼狗……」
「鷹郷さん、それ何なんです?」
「異能者の先達が数百年前に封印したとされる大異形だ」
「封印、大異形??」
「詳しい資料は残っていないが、こいつが普通の異形でないことだけは確かだろう」
「「「「……」」」」
大異形邪狼狗!
俺の鑑定でも、そう表示されている。
ただ……。
邪狼狗
???
???
???
HP 215
SP ???
STR ???
AGI 181
INT ???
<スキル>
???
不明な点が多すぎる。
それでも、HP(生命力)とAGI(敏捷性)を見るだけでも並じゃないことは明らか。
AGIなんてノワールに匹敵しているのだから。
発する気も相当なものがある。
さっきの巨大蜘蛛とは比べ物にならない。
これはもう、強大な力を持つ異形と考えるべきだ。
とはいえ、異世界の超常と比べたら……。
トトメリウス様の神気には遠く及んでいない。
それどころか、エビルズピークの悪意と比べても数段劣っている。
「……」
ステータス上不明な点は多いものの、気配から単純に判断すると……。
あちらの世界の達人であれば、単独で征圧可能なレベルだろう。
「鷹郷さん?」
「……」
『封緘の恨、解放の謝恩。どちらが上 %$‘@』
凄惨妖艶な銀狼の笑みに、異能者たちが息を飲んでいる。
『〇*@、苦しまずに送って $□:%』
邪狼狗の戦意が上がった!
「っ! 古野白、武上、お前たちは退け!」
「そんな! 私たちだけ……」
「見習いのお前たちには荷が勝ちすぎている。里村と共に退くんだ!」
「鷹郷さん!」
「オレは逃げねえぞ!」





