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30年待たされた異世界転移  作者: 明之 想
第10章  位相編
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第488話  24時間



「有馬さんでしたよね……あなた、いったい何者なんです?」


「そうだ、何者だ!? 異能を使わずにあれはおかしいだろ」


「異能を使わず大志君を圧倒して圧勝する実力に、身分証明用のカード。どう考えても、お兄さんは普通じゃないですよ」


 武上少年がショックから立ち直ったのか、束になって俺の傍にやって来た若い異能者3人。


「おい、里村。圧倒、圧勝ってなんだ! 馬鹿にしてんのか!」 


「馬鹿になんて、とんでもない」


「さっきのは……オレの惜敗で、そいつの辛勝だ!」


「さすがに、惜敗はないなぁ」


「ええ、それはないわね」


「おまえら……」


 異能者と言っても、まだ中高生。

 言動はやはり子供っぽい。


「ありゃ、どう考えてもギリギリだろ!!!」


 いや、武上は20歳でも同じようなものだったか。


「武上君、うるさい。大声出すのはやめてちょうだい」


「そうそう、そんなことより大事なことあるでしょ」


「ちっ!」


「ということで……、お兄さんは何者なんです?」


「鷹郷さんに会えたら事情を話す、と伝えたはずだが」


「楓季ちゃん、そうなの?」


「……承諾はしてないわ」


 なるほど。

 15歳でも、位相世界でも、古野白さんは古野白さんってわけだ。


「武上君、君とは約束もしたよな」


「……どういうこと?」


「模擬戦で負けたら鷹郷さんに会わせてくれると、武上君が約束してくれたんだよ」


「……」

「……」

「……」


「約束を守ってもらえるかい?」


「……分かった、会わせてやるよ」


「ちょっと、何言ってるの! 勝手に決めないで!」


「約束なんだ、仕方ねえだろ」


「そんな約束、誰も許可してないでしょ!」


「約束は約束だ。それに、カード持ってる奴を無視なんてできねえだろうが」


「確かに、それはそうだよねぇ」


「里村君!」


「うーん、別にいいんじゃないかなぁ。鷹郷さんに会っても何も問題なさそうだし。大志君は怒られるかもだけど」


「……」

「……」


「大志君、楓季ちゃん、それに有馬さんと……その可愛い妹さんかな? 今から鷹郷さんに会いに行こうよ?」


「わたし、妹ではないです」


「じゃあ、有馬さんの何なの?」


「それは……子供の頃からの知り合い、のような」


 幸奈が言葉に詰まったように、今のふたりの関係は説明が難しい。

 まあ、知り合いと言っておけば問題はないだろう。


「幼馴染?」


「……はい」


「へえ~、幼馴染かぁ」


「……」


「いいなぁ」


 里村少年が、にやにや顔でこちらに視線を送ってくる。


「幼馴染っていいですよねぇ、有馬さん」


「……」


 おまえ、そんなやつじゃなかったよな。


「里村、くだらねえ話すんじゃねえ。さっさと行くぞ」


 話を断ち切るように勢いよく出口に向かって歩き出す武上少年。


「ちょっと、大志君!」


 と、そこに。


 プルルルル……。


 響き渡る電子音。

 電話の着信音か?


「えっ! 鷹郷さんから?」


 古野白さんが手に持っているのは携帯電話じゃない。

 5年後に俺が借りることになる、あのポケベルだ。


「いいタイミングだぜ」


「……ちょっと待っててくれる。電話してくるから」


「おう、早くしろよ」


 武上少年の返事を聞く前に既に駆け出していた古野白さんが扉から姿を消してしまった。残された俺たち4人は……。


「あ~、模擬戦でもして待ってるか?」


「……」


 武上なら、そう言うと思ったよ。


「大志君、もういいでしょ。何度やっても勝てないって」


「勝てる! 何度かやれば勝てる!!」


「無理、無理。モニターで見れば、動きの違いは明らかだったんだから」


「モニターじゃ、分かんねえ事もあんだよ」


「モニターで分かんなきゃ、何で分かるのさ?」


「それは……感覚だろ」


「もう~。そんな非科学的な根性論は研究所には不要だって、みんな言ってるのに」


「……」


 里村少年のおかげで、2度目の手合わせは回避できそうだ。


 しかし、この里村晴海は……。

 武上や古野白さんと違い、俺の知っている20歳の里村とはまったくの別人に思えてしまう。


 異能者として能力開発研究所に所属。

 15歳の時点で、武上や古野白さんと親しい関係にある。

 その上、性格まで微妙に違っている。


 別人と思えるのも当然、か。


 里村が別人である世界。

 俺のいた世界そっくりに見えるが、5年前の世界ではないのだろう。

 やはり、ここは位相世界……。


 となると、この幸奈と俺の世界の幸奈は異なる経験をしている可能性もある。

 父親との関係も、あの不気味な液体も……。


「……」


 考えて答えの出るようなものじゃないな。

 今はこの世界ですべきことをするだけ。

 そして、少しでも早く元の世界に戻るだけ。


 猶予は……。


 この位相世界と元の世界との時間関係など全く分からない。

 ならば、24時間。

 吾妻が回復するまでの24時間と考えた方がいい。


 24時間という短時間で、元の世界に戻る。

 時間的な余裕はなくなったってことだ。


 ただし利点もある。

 ここが過去の世界じゃないなら、タイムパラドックスを心配する必要がない。

 過去改変など気にすることなく、ある程度自由に行動できる。

 露見も……問題ないだろう。

 仮に俺の力を見られたところで点滅で済むはずだからな。



「異能なんていう超常の力を扱ってんのに、科学、科学ってよ。ほんと、うるせえやつらばかりだぜ」


「仕方ないでしょ。そういう時代なんだから」


「ちっ、科学じゃ測れねえものが異能にはあるってんだ」


「まあねぇ、ボクもそう思うけどさ……あっ、楓季ちゃんだ」


 訓練室の扉が開け放たれ、古野白さんが入ってきた。


 ん?

 顔色が良くないぞ。


「鷹郷さんから緊急招集よ。すぐに出るから、急いで準備して!」





すみません、今が忙しさのピークです。

来週中には本業の方も落ち着くと思いますので、

通常更新はもう少しお待ちください。


上手くいけば、来週中頃に通常更新に戻せると思います。

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