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30年待たされた異世界転移  作者: 明之 想
第10章  位相編
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第483話  15歳



 和見の父が、異能を発現させるために行ってきた非道な仕打ち。

 幸奈をおぞましい液体に放置するだけじゃなかった。


 他家から招き入れた異能者に力を使わせ、幸奈に異能を浴びせるという蛮行!

 それも、意識を失うほどに強力な異能を何度も何度も……。


 苦痛の中で異能発現を促すという常軌を逸した行為。

 和見の父は、日常的にそれを強要していたんだ。

 精神的にも肉体的にも耐えがたい苦痛を幸奈に!


「……」


 異能家門の詳しい事情も和見家の実際の親子関係も、俺は理解しているわけじゃない。

 けど、こんな暴虐を許していいのか!

 そんな訳ないだろ!!


「……」


 この世界が過去の世界なのか?

 俺の過去とは異なる位相なのか?

 それとも幻想のような世界なのか?


 推測はできるが、本当のところは分からない。

 現時点では、真実を知る術など存在しない。


 それでも、今も目の前で静かに嗚咽を漏らしている幸奈は……。

 彼女は俺の知っている幸奈だ!

 どこの世界であっても、大切な幼馴染なんだ!!




「うっ、うっ、うぅ……」


 幸奈……。


「うぅ……」


「……」


「……」


 数分は続いたであろう嗚咽の後、少しずつ落ち着きを取り戻していく幸奈。

 小刻みに震えていた肩も今はおさまりつつある。


「……」


「……」


「……ごめん、なさい」


「謝ることはない。幸奈は何も悪くないんだから」


「でも、わたし……」


 戸惑いと羞恥、後悔と自責が赤く腫れた瞳に表れている。


「こんなこと話して……」


「聞けて良かった。俺はそう思っているよ」


「……ほんとに?」


「ああ。勇気を持って話してくれたことに感謝している。心からそう思う」


「……よかった」


 戸惑いはまだ残っているものの、ようやく微かな光が見えてきた。


「でも、これからどうしたら? お父様の言いつけを無視して出てきちゃったから……」


「問題ない。俺が何とかする」


「何とかできるの?」


「もちろん! 任せてくれ」


「……うん」


 正直、何とかなると言い切れることじゃないが、ここで曖昧な返事なんて口に出せない。


「うん、うん……」


 嬉しそうに何度も頷く幸奈。

 光が戻ったその瞳には、まだ僅かに雫が残っている。


「……嬉しい」


「……」


 この華奢な身体に計り知れない苦悩を内包している15歳の幸奈。

 当時の俺はそんなこと露とも知らず、ただ異世界だけを夢見て武道に明け暮れていた。

 幸奈の抱える悩みを聞くこともなく。

 自分のことだけを考えて……。


 はぁぁ、駄目な男だな。


 15歳の俺も40歳の俺も、異世界でも日本でも、何も分かってない。

 何も見えていない。

 結局、自分のことばかり。

 本当に情けない。


 けど……。


 今は違う!

 幸奈のために動くことができる。

 やり直すことができる。


 和見家の事情?

 異能家門の事情?


 知ったことじゃないな。

 どんな事情があろうと、俺はここにいる15歳の幸奈を助ける!

 それが偽善だとしても、過去の改変になったとしても!


「……」


 確かに、過去の改変は未来に歪みを生む危険がある。

 タイムパラドックスという問題もあるだろう。


 それでも、この状況を見ながら見ぬふりをして元の世界に戻るなんて。

 もう、あり得ないんだよ。





「……ありがと、功己、さん?」


「功己でいい」


「でも、15歳の功己もいるし……」


「……」


「5つも年上だし……」


 俺の現在の容姿で15歳と言い張るのは無理があり過ぎる。

 それに、固く閉ざされていた幸奈の口から事情を聞き出すには、こっちの事を黙っているわけにもいかなった。


 そういう理由で、少し脚色を入れながら手短に経緯を説明したのだが、幸奈は少し不思議そうな顔をしただけで、すぐに納得してくれた。


「やっぱり、功己さんでいいですか?」


「……好きに呼んでくれ」


「うん、功己さん!! なんだか、頼りになるお兄さんみたい」


 幸奈に兄と言われると、妙な気分になってしまう。


「ほんとの妹の香澄ちゃんには悪いんだけど」


「……」


「でも、20歳の功己って、こんな感じになるんだなぁ。嬉しいような、悔しいような……」


 さっきまで泣いていた顔が嘘のように、今は晴れやかなものに変化している。

 何というか……。


 調子が狂いっぱなしだ。


「ところで、20歳のわたしって、どんな感じなんですか?」


「自分の未来は知らない方がいい」


「まあ、そうですよね」


「ただ……悪い未来ではないと思う」


 オーバードーズが待つ5年後。

 そんな未来は過去とともに改変してやる。


「えっ! 嬉しい!」


「……疑わないんだな」


「何をです?」


「何もかもだよ」


「うーん……。確かに不思議なことだけど、異能があるんですから時間移動があってもおかしくないかなぁって。それに功己なら、功己さんなら何でもできそうだし」


「……」


「わたし、功己も功己さんのことも信じてますから」


「……どうして?」


 どうして、俺のことをそこまで?


「ふふ。理由はですねぇ、信じることができると信じてるからです」


「……」


 この当時の俺は、幸奈に信用してもらうことなんて何もしていないのに?


「……15歳の俺は素っ気ないだろ」


「ちゃんとした理由があるから。功己はわたしと違ってしっかりした目的を持って生きているから。だから、平気なんです。って、本人を前にして何言ってるんだろ、わたし」


 15歳の幸奈は、そんなことを考えていたのか。

 異世界一辺倒の俺を信じて……。


「それに、一緒に梅も観に行ってくれたし。何より、今日もこうして助けに来てくれたから」


「さっき話した通り、この世界に来たのは偶然だ」


「偶然なんて存在しないんですよ」


 満面に笑みをたたえながら断言する幸奈。

 ほんと、調子が狂ってしまう。


「何だか不思議だなぁ。お兄さんな功己さんには何でも話せそう」


「……」


「あっ、でも、あんまり喋ったら未来のわたしに怒られるかな? うん、これくらいにしときますね」


「……」


「それで……これからどうするんです? 功己さん?」


「ん? ああ、異能の専門家を訪ねようと思っている」


「そんな人いるんですか?」


「東京の能力開発研究所という場所に行けば、おそらく」


 この世界、この時間にも鷹郷さんという専門家がいるはずだ。






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― 新着の感想 ―
[良い点]  一体どうなる!?  続きが楽しみです!
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