第478話 侵入 2
どうだ!
これで、上手くいくか?
……。
……。
体にまとわりつく奇妙な感覚が消え。
目に入ってきたのは。
地面以外に何もない。
果ての見えない無限の空間……。
「……」
よし!
入ることができたぞ。
しかし……。
臭い!
臭気と瘴気!
異空間に移動したことによる若干の目眩と相まって、くらくらしてしまう。
「……」
って、そんなこと気にしてる場合じゃない。
現状は……。
結界は無事。
4人も結界の中に隔離したまま。
地下室で見た状況に変わりはない。
よかった!
これで、一安心だ。
となると、あとは異能者を倒せばいいだけ。
「気をつけて、有馬君!」
古野白さん……。
地下室からはあまりよく見えなかったが、こうして同じ空間にいるとはっきり分かる。
かなり酷い状態じゃないか。
「古野白さん……遅くなってすみません」
隣にいる武上も満身創痍。
俺がもう少し早く侵入できていれば……。
けど、もう大丈夫だ。
ふたりとも、結界の中で休んでいてくれ。
ここからは、俺の出番だから。
「有馬ぁ、油断すんなよ! 吾妻は身体強化と五感を奪う異能を持ってんぞ」
複数持ち!
しかも、五感を奪う異能だって!
そんなものをこの異能者が使える……。
そうか。
古野白さんと武上が倒された原因はそれだったのか。
「……」
これは、想像以上に厄介な異能者だぞ。
「五感を奪われる前に何とかしろよ!」
複数持ちの異能者を相手にした戦いで、異能発動前に倒しきる。
「……」
容易なことじゃないな……。
「大丈夫だ。五感の方は発動前に長い詠唱をすっから、そこで一撃喰らわせてやれ!」
「異能に長い詠唱?」
「ああ、かなり長い詠唱だぜ。とんだキザ野郎なんだよ、そいつぁ」
異能者が長い詠唱を口にする姿なんて見たこともない。
ただ、それが本当なら……。
「有馬なら、詠唱が始まってからでも十分倒せる!」
「……何とかなりそうだな」
「おうよ、問題ねえ!」
「吾妻の身体強化は高いレベルだし、五感を奪う異能は強力無比よ。本当に恐ろしいダブルだけど、有馬君が慎重に戦えば大丈夫。私もそう思うわ」
「……そうですか」
吾妻という異能者が厄介な相手であることに変わりはない。
ただ、こうして話を聞けたのは大きいぞ。
知らずに戦うのとは、まったく違ってくる。
古野白さん、武上。
おかげで、かなり楽になったよ。
「……」
しかし、詠唱発動の異能か。
まるで異世界の魔法だな。
アナログなやつもいたもんだ。
まっ、とりあえず鑑定を。
……。
……。
なるほど。
アナログとはいえ、これはとんでもない。
恐ろしい異能だよ。
古野白さんと武上が手こずるわけだ。
詠唱無しで使われると、危なかった……。
っと、きたか!
うん?
そっちから仕掛ける気はないと?
そういえば、武上との戦いでも守りから入っていたな。
「……」
「……」
では、遠慮なく先制させてもらおう。
まずは、こいつだ?
武上より少し速度を上げた正拳。
それを真正面から放ってやる。
「っ!」
おお、これを避けるか。
なら、次はこれ。
「ぐっ!」
こいつも躱すと。
素晴らしい反応速度だよ。
じゃあ、もう一段上げて。
蹴りも加えて。
「うぐっ!」
拳は躱せたものの、蹴りは避けられなかったようだな。
「っ!」
この蹴り、結構効くだろ?
「……」
蹴りを受けた衝撃からか、逃げるように後ろに跳躍。
そのまま数歩後退する吾妻。
まっ、ここらが適正レベルってことか。
「身体強化の異能者が2人もいるとは聞いてないぞ」
「そんなの、私も知りませんでしたよ」
「伊織、お前はどうなんだ!」
「知るわけないでしょ」
壬生少年は……動く気はない、か?
「……」
一応、揺魂の異能対策はトトメリウス様のもとで済ませている。
レベルアップした俺の力も以前とは比べ物にならない。
そういうわけだから、ここで揺魂を使われても問題はないはず。
とはいえ、壬生少年が以前と同じとは限らない。
やはり、手を出されると面倒だな。
なっ!?
あいつ、ウインクしてきたぞ。
「……」
ああ、分かったよ。
静観するってことなんだろ。
ひとまずは、信じてやるよ。
「ちっ! 仕方ない」
壬生少年については、こいつを倒してからのことだな。
「全力を見せてやる」
「……」
「いくぞ!」
おっ!
今度はそっちから攻めると?





