第476話 3回戦?
<古野白楓季節視点>
「がぁぁぁ!!」
咆哮が自身の周りの空気を切り裂き、渦巻き、異空間すら貫いていく!
そんな錯覚に陥るほどの咆哮……。
「あぁぁぁ!!!」
「っ!」
総毛立つ身体を抑えることができない。
それは、幸奈さんも武志君も同じ。
武上君すら、顔を歪めている。
「……」
咆哮が収まり、静寂が戻った空間。
もちろん、武志君の張った結界に問題はない。
けれど……。
「野郎、とんでもねえ」
「……ええ」
この感覚、すぐには治まってくれない。
数秒にも満たない、一瞬のこと。
そんな僅かな時間なのに、あらためて吾妻の恐ろしさを思い知ってしまう。
「動き出してるぜ」
「……」
多少ぎこちなさは残っているものの、しっかりと手足を使えているようだ。
ただ、その身は傷だらけ。
そうよ、吾妻も無事じゃない!
「もう3回戦か」
「……どうかしら? 炎を何回も受けたのよ。さすがに、今すぐは戦えないでしょ」
「そうかぁ? 敵はあいつだぞ」
「吾妻でも無理よ。多分……」
「だとしたら、また消えちまうかもな」
その可能性は低くないと思う。
「いずれにしろ、こっちは休めるわ」
「ああ……。ところで、さっきのは何だったんだ?」
吾妻が動きを止めたのは……。
「幸奈、さん?」
幸奈さんの声が響き渡った直後に動きを止めた吾妻。
その声に何かがあるの?
「その、実は……」
「姉さんも異能を使えるらしい」
えっ!?
「ホントかよ?」
幸奈さんが異能を?
そんなこと?
異能が使えないから、これまで色々と問題があった。
そう耳にしていたのに!
「僕も今聞いたばかりで信じられなかったんだけど……。結果は見ての通り」
「……」
本当なのね。
「動きを止める異能か? そいつは、すげえ!」
「あっ、でも、まだ不完全なんです。使えない時もあるし、あの人ももう動き出しているし……」
「それでも大したもんだぜ。だよな、古野白」
「ええ!」
「古野白の炎、武志の結界、オレの拳、そこに動きを止める力が加わったんだ。次こそは、いけるぞ!」
「……」
可能性は高まったと思う。
でも、武上君も私も満身創痍なのよ。
この体で、倒せるという自信までは持てないわ。
それに……。
傷を負っているとはいえ、吾妻には何か底知れないものを感じる。
壬生伊織も動くかもしれない。
こちらに害意を見せていない彼も、場合によっては……。
まだまだ楽観できる状況じゃない。
それは武上君も理解しているはず。
理解していても。
「勝ったも同然だ。はは、腕が鳴るぜ」
あなたはそういう人よね。
「……武上君、今は身体を休める時間なの。しっかり回復させなさい」
「はっ、オレならもう動けるぜ」
「いいから、休みなさい」
あなたにも私にも、吾妻から受けた異能と打撃の影響が残っているのだから。
次の戦いに備えて、休める時に休まないと。
「分かった、分かった」
「……」
武上君はすっかり忘れているんでしょうね。
時間がとっても重要だってことを。
時間が私たちに味方してくれるかもしれないということを。
そう。
彼が和見家に来るはずなのよ。
もちろん、和見の屋敷にやって来たとしても、この異空間に入ることは簡単ではないと思う。
ただ、常識の通用しない彼なら。
有馬君なら……。
ドゴン!
ドガン!
ガン!
ドガン!
「あいつ、もう仕掛けてきたぞ」
「……」
火傷は痛まないの?
「あのひと、休まなくて平気なんですか?」
「……そうみたいね」
「信じられない」
ホント、私も信じられないわ。
恐ろしい異能を持っている上に、このタフさなんて。
でも、これが現実。
既に攻撃が始まっているの。
「それじゃ、3回戦といこうぜ! 準備はいいか?」
「「はい」」
「……ええ」
こうなったら戦うしかない。
本音を言うと、もっと休憩が欲しいけど。
この体で戦うのは難しいと思うけれど。
もう、戦うしか!
ガン!
ドガン!
ドゴン!
結界からは凄い音。
吾妻の攻撃の激しさが増している。
今回もそう長くは保たない。
だから。
「武志君、合図と同時に解除おねがい。それと同時に、幸奈さんは異能を」
「了解!」
「頑張ります!」
「武上君は、そのあとよ」
「分かってらぁ!」
結界を破壊される前に動く。
こっちから先に仕掛ける作戦。
「いくわよ。5、4……」
今にもカウントがゼロになる。
作戦が始まる。
まさに、寸前!
キィーーーン!
「!?」
奇妙な高音に、思わず声が止まってしまう。
「何だ、これ!?」
空間に歪みが!
私たちのいる結界と壬生弟が立っている位置の中間。
吾妻の背後の空間が揺れている。
刹那。
いびつに揺れる空間に亀裂が走って……。
そして……。
「……」
「……」
「……」
「……」
希望が舞い降りた!





