第474話 認めてあげる
今日も遅くなってしまいました。
申し訳ありません。
<古野白季楓視点>
「だぁ!」
「……」
「うりゃあ!」
もう何度目になるか分からない武上君と吾妻の近接戦。
やっぱり武上君が攻め、吾妻は防御に徹している。
「おらぁ!」
「……」
ただ、これまでと異なるのは武上君の動き。
攻撃の速度も、一撃の威力もかなり落ちている。
明らかに精彩を欠いている。
「……その程度か?」
「うるせえ」
何度攻撃を仕掛けても当たらない。
軽々とさばかれてしまう。
「そんな動きでは、私に触れることもできないぞ」
対する吾妻は余裕に満ちている。
相変わらず無表情だけれど、溢れ出すそれを隠してもいない。
「黙りやがれ」
武上君……。
声にも、いつもの覇気が感じられない。
「いーや、黙らせてやらぁ」
それも当然のこと。
あの異能を身体に受けたのだから。
正直、こうして戦っているだけでも凄いことだと思う。
私なんて手足が痺れて、まだまともに動けないのに。
「だぁ!」
ほんと、あなたは……。
こんなにボロボロになりながら、みんなを護るために戦って……。
「おりゃ!」
「……」
考えなしの戦いぶりは好きじゃないの。
勝手な行動も多すぎる。
だから、あなたのことは認められない。
認めたくない。
けど、今は……。
「はぁ」
認めるしかないわね。
今だけ。
今だけはヒーローとして認めてあげる!
「もはや手を合わせる意味など、ないようだな」
「こっから、意味を分からせてやらぁ」
「……」
「うりゃあ!」
「……」
「たぁ!」
「……」
認めてはあげたけれど、分が悪すぎるわよ。
これじゃ、長くは……。
「駄目だな」
「……」
「意味がない」
「ちっ! 古野白っ、いけるか?」
武上君?
そんな声、初めて聞いたわ。
でも、そうね。
「……もちろん」
その声を聞いたら、やるしかないでしょ。
まだまだ痺れは残っているけど……。
こういう時は、気合を入れればいいのよね。
「無理ならいいぞ」
「無理じゃないわ」
少し待って……オーケー!
いくわよ。
「……炎弾!」
「ほう、そっちも動けるか」
炎弾を避けながら笑ってる?
「……やはり改善の余地があるようだ」
「炎弾!」
改善でも何でもしなさい。
研究所に監禁されながらね。
「炎弾!」
「……」
「はあ、はあ……」
簡単に避けてくれるわね。
こっちは一撃だけでも大変だというのに。
「助かるぜぇ」
「……そう」
武上君も私もギリギリのところで戦っている。
心と体の均衡が少しでも崩れたら、きっと動けなくなる。
薄氷上の戦いみたいなもの。
それでも、止まるわけにはいかない!
「大したものだ。が、もういいだろう」
「!?」
何!?
吾妻のスピードが上がった?
これまでとはレベルが違う!
「だぁ!!」
「……終わりだ」
「武上君!」
攻撃を避けた吾妻の拳が武上君のみぞおちに!
「ぐっ……」
そんな!
武上君が倒れてしまう。
まずい、まずい!
「っ! 炎弾!」
「そっちも眠ってもらおうか」
速い!
避けられない!
「痛ぅ!!」
私も、みぞおちに!
「うぅ……」
く、苦しい。
立ってられな……。
「古野白さん!!」
幸奈さんの声?
聞こえる。
まだ意識は失っていない。
私も武上君も、意識は残っている。
でも、これ以上もらえば……。
「君たちには、本当に驚かされるな」
「う、るせえ!」
「……」
「その健闘に敬意を表して、安らかな睡眠をプレゼントしよう」
「くそっ!」
駄目。
もう攻撃に耐えられない!
「っ!」
近づいて来る。
武上君ではなく、私の方に。
カツン、カツン、カツン……。
吾妻の足が止まる。
手が振り上げられる。
そして……。
「やめてぇ! とまれ、止まれぇぇ!!!」
これは!?
幸奈さん?
幸奈さんの叫び声?
声が空気の塊となって、こっちに……。





