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30年待たされた異世界転移  作者: 明之 想
第9章  推理篇
478/701

第474話  認めてあげる

今日も遅くなってしまいました。

申し訳ありません。


<古野白季楓視点>




「だぁ!」


「……」


「うりゃあ!」



 もう何度目になるか分からない武上君と吾妻の近接戦。

 やっぱり武上君が攻め、吾妻は防御に徹している。


「おらぁ!」


「……」


 ただ、これまでと異なるのは武上君の動き。

 攻撃の速度も、一撃の威力もかなり落ちている。

 明らかに精彩を欠いている。


「……その程度か?」


「うるせえ」


 何度攻撃を仕掛けても当たらない。

 軽々とさばかれてしまう。


「そんな動きでは、私に触れることもできないぞ」


 対する吾妻は余裕に満ちている。

 相変わらず無表情だけれど、溢れ出すそれを隠してもいない。


「黙りやがれ」


 武上君……。

 声にも、いつもの覇気が感じられない。


「いーや、黙らせてやらぁ」


 それも当然のこと。

 あの異能を身体に受けたのだから。


 正直、こうして戦っているだけでも凄いことだと思う。

 私なんて手足が痺れて、まだまともに動けないのに。


「だぁ!」


 ほんと、あなたは……。

 こんなにボロボロになりながら、みんなを護るために戦って……。


「おりゃ!」


「……」



 考えなしの戦いぶりは好きじゃないの。

 勝手な行動も多すぎる。


 だから、あなたのことは認められない。

 認めたくない。


 けど、今は……。


「はぁ」


 認めるしかないわね。


 今だけ。

 今だけはヒーローとして認めてあげる!




「もはや手を合わせる意味など、ないようだな」


「こっから、意味を分からせてやらぁ」


「……」


「うりゃあ!」


「……」


「たぁ!」


「……」


 認めてはあげたけれど、分が悪すぎるわよ。

 これじゃ、長くは……。



「駄目だな」


「……」


「意味がない」


「ちっ! 古野白っ、いけるか?」


 武上君?

 そんな声、初めて聞いたわ。


 でも、そうね。


「……もちろん」


 その声を聞いたら、やるしかないでしょ。

 まだまだ痺れは残っているけど……。


 こういう時は、気合を入れればいいのよね。


「無理ならいいぞ」


「無理じゃないわ」


 少し待って……オーケー!

 いくわよ。


「……炎弾!」


「ほう、そっちも動けるか」


 炎弾を避けながら笑ってる?


「……やはり改善の余地があるようだ」


「炎弾!」


 改善でも何でもしなさい。

 研究所に監禁されながらね。


「炎弾!」


「……」


「はあ、はあ……」


 簡単に避けてくれるわね。

 こっちは一撃だけでも大変だというのに。


「助かるぜぇ」


「……そう」


 武上君も私もギリギリのところで戦っている。

 心と体の均衡が少しでも崩れたら、きっと動けなくなる。

 薄氷上の戦いみたいなもの。


 それでも、止まるわけにはいかない!



「大したものだ。が、もういいだろう」


「!?」


 何!?

 吾妻のスピードが上がった?

 これまでとはレベルが違う!


「だぁ!!」


「……終わりだ」


「武上君!」


 攻撃を避けた吾妻の拳が武上君のみぞおちに!


「ぐっ……」


 そんな!

 武上君が倒れてしまう。


 まずい、まずい!


「っ! 炎弾!」


「そっちも眠ってもらおうか」


 速い!

 避けられない!


「痛ぅ!!」


 私も、みぞおちに!


「うぅ……」


 く、苦しい。

 立ってられな……。


「古野白さん!!」


 幸奈さんの声?


 聞こえる。

 まだ意識は失っていない。

 私も武上君も、意識は残っている。


 でも、これ以上もらえば……。



「君たちには、本当に驚かされるな」


「う、るせえ!」


「……」


「その健闘に敬意を表して、安らかな睡眠をプレゼントしよう」


「くそっ!」


 駄目。

 もう攻撃に耐えられない!


「っ!」


 近づいて来る。

 武上君ではなく、私の方に。


 カツン、カツン、カツン……。


 吾妻の足が止まる。

 手が振り上げられる。


 そして……。


「やめてぇ! とまれ、止まれぇぇ!!!」


 これは!?


 幸奈さん?

 幸奈さんの叫び声?


 声が空気の塊となって、こっちに……。





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― 新着の感想 ―
[良い点]  「幸奈、頑張る」ですね。コーキ、早く来ないと出番が無くな……あ、美味しいとこを持っていく感じか(笑)
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