第471話 六感?
<古野白楓季視点>
確かに感じるこの気配。
「幸奈さんなの?」
『っ! 良かった! 喋れるんですね』
腕を伸ばして、幸奈さんに触れて……いるか分かるわけもないか。
『体も動くんですね!』
でも、そこに幸奈さんがいる。
きっといる。
そう思えるだけで、失いかけていた自分を取り戻すことが……っ!?
「幸奈さん、離れて! 敵がいるのよ!」
そうよ!
近くに吾妻がいる。
幸奈さんに危険が!
『……』
「早く離れて!」
っ!
幸奈さんの気配が消えない。
私の声が聞こえないの!
それとも、私の錯覚?
そこにいない?
『……大丈夫です』
違う。
幸奈さんは、まだ傍にいる!
どうして?
「……吾妻は?」
『もういません』
「吾妻と他の異能者は?」
『ですから、もういません』
「幸奈さん、大丈夫? 大丈夫なの?」
『……』
「怪我してない? 武志君は?」
『まさか……聞こえないんですか!?』
もちろん、声なんて聞こえない。
ただ、この感じは……。
幸奈さんは、危険を感じていない?
『見えないんですか!』
「安全なのね?」
『……』
何が起こっているのか分からない。
吾妻が考えていることも理解できない。
でも、危険がないのなら……現状を伝えないと。
「感覚を、五感を失っているから……」
『えっ!?』
「……」
幸奈さんが私の声を聞いているのか?
会話が成り立っているのかどうか?
全てが不明な中。
今は一方的に話すしか……。
「……喋ることはできるのだけれど、幸奈さんの声は聞こえない。姿も見えない。触れても感じることができないの」
『そんな!』
「幸奈さんは平気なのよね? もし危険があるなら、自分のことだけ考えて!」
『古野白さん……』
「私は大丈夫。異能の効力が切れれば元に戻るはずだから」
きっと、すぐに五感は回復する。
吾妻が異能を使わないのなら、大丈夫。
でも、異能を使わないなんて?
この状況で安全だなんて?
やっぱり、信じられない。
いったい、どういうことなの?
「……」
まったく……。
見当もつかないわよ。
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<和見幸奈視点>
「古野白さんと武上君、敵の異能で五感を失っているみたい」
「うん。五感を全て奪う異能か……」
そんな異能、考えたこともなかった。
「どうすればいいと思う?」
「待つしかないよ。異能の効力なんて、そう長くは続かないはずだし」
「敵が戻ってきたら?」
「僕が結界で守る」
「……」
「姉さん、ごめん。他にできることがないんだ」
「武志は何も悪くないわ!」
謝らなきゃいけないのは、わたしの方。
「でも、僕に攻撃手段があれば……」
「凄い結界を使えるじゃない! こうして無事でいられるのは、武志のおかげなのよ。本当に感謝してるの」
心からそう思う。
だから、そんな顔しないで。
「姉さん……」
「安心して! わたしも頑張るから」
「えっ? 頑張るって、何を?」
「敵と戦うわ!」
「やめてくれよ。危ないだけだって」
「大丈夫。姉を信じなさい」
「それは無理な相談だね」
良かった。
いつもの武志に戻ってくれた。
「姉さんは、結界の中で大人しくしてればいいんだからさ」
「ありがと」
「じゃあ、僕は結界の準備をするから」
「うん、お願い」
発動までに数分はかかるらしい結界。
それを張るため、集中を始めた武志。
「……」
結界さえあれば、古野白さんと武上君を守ることができる。
敵が現れても、しばらくは何とかなる。
でも、その後は?
この空間を脱出するためには敵を倒さないといけないのよ。
あの異能者を倒すには、どうすれば?
やっぱり、わたしの異能で敵を止めるしか……。
……。
……。
「よし!」
武志の結界が完成したみたい。
これで、ひとまずは安心だ。
「姉さん!!」
ひとつ安堵の息を吐いたわたしの目の前。
空間が僅かに歪んでいる。
「来たわね」
「ああ、あいつらだ」
敵が再びここに……。
現れた!
「今回は3人だけか」
さっきより2人減っている。
壬生がいない!
今回現れた異能者はさっきの2人と、あと1人は……ベースボールキャップを被った少年。
この少年……セレスさんの記憶の中に存在している。
壬生の弟だ。
壬生家の者でありながら、こちらに害意を向けていない奇妙な少年……。
「やつら、また結界を張ってますよ」
「破壊すればいい」
「まあ、吾妻さんならすぐですよね」
「……」
「では、お願いします」
「ああ」
古野白さんと武上君を倒した異能者が近づいてくる。
相変わらずの無表情でゆっくりと。
そして……。
攻撃が始まった。





