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30年待たされた異世界転移  作者: 明之 想
第9章  推理篇
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第469話  離脱


<壬生伊織視点>




 瘴気漂う和見家の地下室を離れ玄関に向かう足は軽い。


「……」


 今回も悪くなかった。

 いや、むしろ想定以上。


 こんな場所で有馬に貸しを作ることができたし、その能力の一端を垣間見ることもできたのだから。


「……」


 有馬功己。

 異能者ではない超越者……。


 橘の瞬間移動や銃撃を一蹴してしまう身体能力に加え、揺魂に耐える精神力。

 耐えるだけじゃない、揺魂に近いものを使うことすらできる。


 さらには、位相の空間を正確に知覚する能力。

 おそらく、まだ見せていない力も……。


 いったい、どれだけの力を隠し持っている?

 本当に恐ろしい男だよ。


「……」


 諦められるわけがないな。

 あんな才能の塊、見逃すことなどできるわけがない。


 ならば、手に入れるだけ。

 有馬功己もその力も!


 今すぐは無理でも、いつか必ず!


「……」


 幸いなことに、時間は私の味方だ。

 ゆっくり、その時を待てばいい。


 今はそう。

 有馬があの空間にどう対処するのか?


「……」


 位相侵入など普通はできるものではない。

 もちろん、私にも不可能なこと。


 有馬といえども、さすがに侵入は……。


 いや、相手はあの有馬だ。

 やってしまうかもしれない。

 やりそうな気がする。


 ふふ……。

 興味深いじゃないか!



「しかし……」


 今位相に入れば、吾妻と遭遇するだろう。

 となると、衝突は避けられないはず。

 ここで、ぶつかるのか……。


 この段階での衝突は想定外。

 とはいえ、予定が早まるのは決して悪いことじゃない。


「吾妻と有馬の対決……」


 どうしても心が惹かれてしまう。

 地下室に戻りたくなるというもの。


「……」


 今は無理だな。

 彼女との約束があるのだから。


 それに、私の力ではあの位相空間に入れない。

 中の様子を見ることもできない。

 中に入るには、空間異能者の能力が必要になる。


 面倒なことだ。


 が、場合によっては力を借りればいい。

 それだけのことだよ。



 有馬功己。


 有馬さん……。


 ふふ、ふふふ……。


 ぼくは期待してますよ。

 いろいろとね。



 そんなことを考えながら廊下を抜け、玄関を出たところで。


「あら、屋敷の中に入っていたのね?」


「……ええ」


 玄関先に立っていたのは壬生の姉と、配下の異能者数人。


「姉さんは、いつこちらに?」


「少し前に到着したのだけれど、和見の家にはあまり足を踏み入れたくないのよ」


「……」


「伊織君は平気だったのかしら?」


「まあ、何とか」


 確かに、和見の家に漂う空気は気持ちいいものじゃない。

 ただ、この暑さの中を外で待つのも……。


「暑くはありませんか?」


 いつも通り黒衣で全身を覆っている姉の姿を見ていると、こちらが暑くなってくる。

 後ろに並ぶ異能者連中も暑そうだぞ。


「ふふ、心配してくれるの? 今日は優しいわね、伊織君」


「……」


「でも、大丈夫よ。お兄様と吾妻さんも、すぐに出てくるでしょうし。そうすれば、車に戻れるのだから」


「状況次第では、中に入ることになりますよ」


「状況? 伊織君は、てこずると思っているのかしら?」


「可能性の話です」


「あの吾妻さんがいるのに、問題などないわ」


「……」


 その通り。

 吾妻が研究所の異能者に後れを取るとは思えない。

 だが、有馬さんが中に入っているとしたら?

 可能性は低いものの、無い話じゃない。


「ほうら、もう出てくるわよ」


 姉の言葉に目を向けると、玄関横の空間が僅かに歪んでいる。

 その歪みが大きくなり。


「……」


 吾妻と空間異能者が現れた。

 後ろに続くのは、壬生の兄と2人の異能者。


「皆様、お疲れ様ですわ」


「ああ……」


「あら、あら、お兄様、その様子はどうしたのかしら?」


「……何でもない」


「そうですの?」


「問題ないと言っている。信じないのか!」


「ふふ、もちろん信じますわよ」


「……」


「それで、幸奈さんはどうしたのでしょう? おに……吾妻さん?」


「中にいる」


 相変わらずの無表情。

 それていて、あの異能。

 何とも気味の悪い男だ。


「空間の中に捕らえていますの?」


「そうだ! 幸奈も研究所の馬鹿どもも捕えている。問題はない」


「……」


「何も問題などない!」


「ええ、問題などありませんわ、お兄様」


「我々の勝利だ!」


「ええ、ええ、その通りですわね」


「お前、分かっているのか!」


「もちろん、お兄様のお力によるものだと重々承知しております。ですが、かなりお疲れの御様子。少し車で休まれてはいかがでしょう?」


「……そうしよう。もう充分に働いたからな。そうだろ、吾妻さん!」


 本当にどうしようもない。

 こいつが、この体の兄だとは……。

 深く考えたくないものだな。


「……うむ」


「ということだ。事後処理は、お前がやっておけ」


「お任せください。お兄様はごゆるりと」


「……ああ」


 2人の異能者を引き連れ、この場を離れていく。

 これで、愚かな邪魔者はいなくなったと。



「さて、吾妻さん、説明していただけますかしら?」


「……4人を捕えている」


「それは聞きましたわ」


「空間に戻って、ここに連れてこよう」


「今すぐでしょうか?」


「吾妻さん、壬生さん、ちょっと待ってください」


 慌てた様子の空間異能者。


「何ですの?」


「少し休まないと、上手く力を使えませんよ」


「ならば、少し休むとしよう。空間に戻るのは、そのあとだ」





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[良い点]  コーキは間に合ったのか、それとも……  次話がきになりますね!
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