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30年待たされた異世界転移  作者: 明之 想
第9章  推理篇
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第468話  五感


<古野白楓季視点>




 私は倒れてしまったけれど、武上君は?

 この異能を受けたの?


 それに、幸奈さんと武志君は?


「うぅ……」


 やっぱり、上手く動けない。

 早く感覚を戻さないと、このままじゃ危ない!


 まだ!

 アンチUPはまだなの?


「くっ!」


 1秒が何分にも感じられる。

 途方もない時間に感じてしまう。


 ……と、薄っすらとした光が?


 よかった!

 少しずつ視力が戻ってるわ。


 まだモノクロみたいで、目を細めた視界以下のもの。

 手足の感覚も僅か。

 でも、耳はかなり聞こえる。


 これなら、すぐに!


 ……。


 ……。


 えっ、ここまで?

 これ以上回復しない?


 改良型でも、ここまでの効果しかないなんて……。


「ん? 見えるのか?」


「研究所が開発した対異能のあれですよ」


「なるほど……」


 少し効果は出ているけど、この状態じゃ大した抵抗もできない。


「てめぇ、卑怯な真似を!」


 武上君?


「無駄だ」


「くそっ!」


 どうしたの?

 よく見えない!

 分からない。


「!?」


 誰かが近寄って!


 えっ?

 これ、触られている?


 吾妻?


「やめて! 古野白さんから離れて!!」


「姉さん、出ちゃ駄目だ!」


「そんな、古野白さんと武上君が!」


「僕たちが結界から出たところで、何もできないだろ」


「でも……」


「今は、自分の身を護ることだけを考えてくれよ」


「……」


 武志君、結界を再構築したのね。

 だったら、幸奈さんを護れるはず。


 あとは、私と武上君が……。



「こいつがそうだな?」


「だと思います」


 何?


「……」


「持ち帰った方がいいですよ、吾妻さん」


 まさか、アンチUP!?


 駄目!

 それが無いと異能に抵抗できない。


「貴重な異能具ですから」


「必要ない」


 ガシャーーン!!


「ああ……吾妻さん」


 嘘!

 アンチUPが破壊された?


 私の耳にその音が響いた次の瞬間……。


 消失!!


 光が消え、音が消え、匂いが消え、手足の感覚も消えてしまった。


「武上君!」


「古野白!」


 喋ることはできる。

 でも、聞こえない。

 武上君も同じはず。


「……」


「……」


 さっきとは比べ物にもならない。


 無音、無臭の闇の中。

 地面に触れているという感覚すらない。

 外界から完全に遮断され、自分の内側しか感じ取れない状態。


 今まで経験したことのない世界。

 想像すらしたこともない世界。


 五感を閉ざされると、こんなに……。


 ……。


 ……。


 より所がない。

 頼れるものがない。


 自分の存在が確認できない。


 ただ、儚くなって……。






「こいつら、どうしましょう?」


「壬生たちは戻してやれ」


「研究所のふたりと、結界の中のふたりは?」


「放置しておけばいい。また、この空間に戻って来るのだからな」


「そうですね。今は時間もありませんし」


「ああ」


「では、一度戻りましょ……んん?」


「どうした?」


「地下室に誰かいます」


「女史じゃないのか?」


「壬生女史じゃありません。見知らぬ男です」


「……」


「女史は玄関にいるみたいですね」


「……予備は玄関だったな」


「はい。メインは地下室に、予備は玄関に設置しています」


「なら、玄関につないでくれ。見知らぬ男に割く時間はない」


「分かりました」





**********************





「!?」


 武上が倒された!

 いや、敵の異能者と接触する前に自分で倒れたのか?

 ここまでは決して負けていなかったのに?


 っ!


 古野白さんも倒れている。


 いったい何が起こったんだ!

 ふたりの身に何が?


 外からじゃ、よく分からない。


 けど、これは……。

 遠隔攻撃、または何らかの異能によるもの?


 なら!

 幸奈と武志は……無事だ!


 敵から距離を取り、身を護っている。

 よかった……。


 とはいえ、状況は危機的なもの。

 古野白さんと武上の身には危険が迫っている。

 すぐに中に入らないと、取り返しのつかないことになってしまう。


 それなのに、まだ媒介物が見つからない。

 あの空間に入ることができない!




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― 新着の感想 ―
[良い点]  まだ入ることが出来てない……  突破の鍵は何処に!?  壬生女史が持ってたらキーッ! [一言]  更新ありがとうございます!
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