第468話 五感
<古野白楓季視点>
私は倒れてしまったけれど、武上君は?
この異能を受けたの?
それに、幸奈さんと武志君は?
「うぅ……」
やっぱり、上手く動けない。
早く感覚を戻さないと、このままじゃ危ない!
まだ!
アンチUPはまだなの?
「くっ!」
1秒が何分にも感じられる。
途方もない時間に感じてしまう。
……と、薄っすらとした光が?
よかった!
少しずつ視力が戻ってるわ。
まだモノクロみたいで、目を細めた視界以下のもの。
手足の感覚も僅か。
でも、耳はかなり聞こえる。
これなら、すぐに!
……。
……。
えっ、ここまで?
これ以上回復しない?
改良型でも、ここまでの効果しかないなんて……。
「ん? 見えるのか?」
「研究所が開発した対異能のあれですよ」
「なるほど……」
少し効果は出ているけど、この状態じゃ大した抵抗もできない。
「てめぇ、卑怯な真似を!」
武上君?
「無駄だ」
「くそっ!」
どうしたの?
よく見えない!
分からない。
「!?」
誰かが近寄って!
えっ?
これ、触られている?
吾妻?
「やめて! 古野白さんから離れて!!」
「姉さん、出ちゃ駄目だ!」
「そんな、古野白さんと武上君が!」
「僕たちが結界から出たところで、何もできないだろ」
「でも……」
「今は、自分の身を護ることだけを考えてくれよ」
「……」
武志君、結界を再構築したのね。
だったら、幸奈さんを護れるはず。
あとは、私と武上君が……。
「こいつがそうだな?」
「だと思います」
何?
「……」
「持ち帰った方がいいですよ、吾妻さん」
まさか、アンチUP!?
駄目!
それが無いと異能に抵抗できない。
「貴重な異能具ですから」
「必要ない」
ガシャーーン!!
「ああ……吾妻さん」
嘘!
アンチUPが破壊された?
私の耳にその音が響いた次の瞬間……。
消失!!
光が消え、音が消え、匂いが消え、手足の感覚も消えてしまった。
「武上君!」
「古野白!」
喋ることはできる。
でも、聞こえない。
武上君も同じはず。
「……」
「……」
さっきとは比べ物にもならない。
無音、無臭の闇の中。
地面に触れているという感覚すらない。
外界から完全に遮断され、自分の内側しか感じ取れない状態。
今まで経験したことのない世界。
想像すらしたこともない世界。
五感を閉ざされると、こんなに……。
……。
……。
より所がない。
頼れるものがない。
自分の存在が確認できない。
ただ、儚くなって……。
「こいつら、どうしましょう?」
「壬生たちは戻してやれ」
「研究所のふたりと、結界の中のふたりは?」
「放置しておけばいい。また、この空間に戻って来るのだからな」
「そうですね。今は時間もありませんし」
「ああ」
「では、一度戻りましょ……んん?」
「どうした?」
「地下室に誰かいます」
「女史じゃないのか?」
「壬生女史じゃありません。見知らぬ男です」
「……」
「女史は玄関にいるみたいですね」
「……予備は玄関だったな」
「はい。メインは地下室に、予備は玄関に設置しています」
「なら、玄関につないでくれ。見知らぬ男に割く時間はない」
「分かりました」
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「!?」
武上が倒された!
いや、敵の異能者と接触する前に自分で倒れたのか?
ここまでは決して負けていなかったのに?
っ!
古野白さんも倒れている。
いったい何が起こったんだ!
ふたりの身に何が?
外からじゃ、よく分からない。
けど、これは……。
遠隔攻撃、または何らかの異能によるもの?
なら!
幸奈と武志は……無事だ!
敵から距離を取り、身を護っている。
よかった……。
とはいえ、状況は危機的なもの。
古野白さんと武上の身には危険が迫っている。
すぐに中に入らないと、取り返しのつかないことになってしまう。
それなのに、まだ媒介物が見つからない。
あの空間に入ることができない!





