第467話 攻防 6
<古野白楓季視点>
躱された拳を左に回し、首を絞めようと迫る吾妻の腕。
武上君も反応しているけど、間に合わない。
やられる!
思わず駆け出した私の目に入ってきたのは……頭を突き出す武上君?
「だっ!」
バシッ!
えっ?
前頭が吾妻の右腕に激突……。
これは、頭突き?
防御じゃなく、攻撃?
頭突きで吾妻の右腕を叩き落としたの?
「……」
想定外の攻撃に私の足が止まってしまう。
それは吾妻も同じだったよう。
その僅かな隙を逃さず、重心を整える武上君。
高速で右の下段蹴りを相手の左脚へ。
吾妻は右ストレートから変化させた右フックの体勢を戻せていない。
重心は右に残った状態。
回避は困難。
必然。
バシィィィ!!
下段蹴りが吾妻の左脚をとらえた!
「っ!」
吾妻の表情に変化が現れている!
浮かぶのは痛苦、それとも驚愕?
そんなこと、武上君は気にもかけていない。
ただ先へ。
次の攻撃へ。
「おりゃあ!!」
左のストレート!
避けられてしまった。
右のフック!
躱された。
左の中段蹴り。
これも駄目。
流れるような三連撃を華麗にさばく吾妻。
脚に蹴りを受け、腹部も傷んでいるはずなのに、防御に陰りは見えない。
むしろ動きが良くなっている。
いくら身体強化しているとはいえ、武上君の筋肉質の体に比べたら数段見劣りする細い体。その体で武上君にまったく力負けしないなんて……。
強化の質が高い。
そういうことなの?
……。
……。
っと!
ふたりの攻防はまだ続いている。
「だぁ!!」
「っ!」
おそらくは、ふたりとも最大の出力。
私の目じゃ、把握しきれないレベルの攻防。
「……」
あらかじめ決められた殺陣のように、美しい舞踊のように、拳と脚が重なっていく。
「……」
皆の意識がふたりの戦いに吸い寄せられていく。
時間も空間も集約される。
そんな攻防。
終わりが見えない攻防。
……。
……。
……。
でも、永遠に続く戦いなど存在はしない。
「どりゃあ!!」
「っ!」
蹴りを躱しながら武上君の懐に入り、身を屈め軸足に手刀を繰り出す吾妻!
武上君は避けられない。
踏ん張り切れない。
「ちっ!!」
手刀を受けバランスを崩した武上君の胸に、さらなる一撃!
吾妻の掌底が襲い掛かって!
「危なっ……!」
バァーン!
入ってしまった。
掌底が武上君の胸に……。
「ぐぉぉぉ!!」
けど、倒れない。
すごい!!
凄まじい気合いを全身から発し、掌底を放った吾妻の腕を両手で掴み取っている!
「おおぉぉぉ!!」
力任せに吾妻の腕を持ち上げ、反転。
その体を背負うようにして担ぎ上げ!
投げ飛ばした!?
異空間を切り裂く勢いで飛んでいく吾妻。
放物線を描き、数メートル先に落下……。
じゃない。
着地だ!
地面寸前で体勢を入れ替えた吾妻が、両足で見事に着地している!
「武上君!」
もう駆け出して?
脚と胸は平気なの?
武上君を追いかけ、私も吾妻の近くへ。
「吾妻さん、そろそろ時間です」
「……ここまでか」
棒立ちに戻っている吾妻。
あのぞっとするような無表情を張り付けて、無造作に立っている。
そこに武上君が急接近。
「終わりだぁぁ!!」
放つのは助走の勢いを乗せた右拳。
決まる!
今度こそ決定打になる!
そう思いたいのに、この不安は?
「……loss of five Senses」
「!?」
「!?」
なに??
「っ!」
「あっ!」
突然のことに、駆けていた足が絡まり倒れ込んでしまう。
「……」
「……」
目が見えない。
手と足の感覚がない。
音が聞こえない……。
異能?
吾妻の異能?
2つも異能を持っている?
そんな……。
吾妻はダブルなの!?
「……」
確かなことは分からない。
でも、これが異能によるものならアンチUPで!
そうよ。
すぐにアンチUPの効果が出るはず。
「……」
「……」





