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30年待たされた異世界転移  作者: 明之 想
第9章  推理篇
470/701

第466話  攻防 5


<古野白楓季視点>




 バァァン!!


 小気味よい快音とともに決まったボディーブロー。

 その衝撃で吾妻の体が浮き、武上君の右拳がついに解放された!


「……」


「……」


 追撃はない。

 拳と手のひらという接点を消失したふたりに距離ができる。



「これは、想像以上だな」


「そっちこそ、なんちゅう反応だ」


 武上君の左拳が吾妻の脇腹を直撃。

 私の目にはそう映ったのに……。


 ギリギリのところで、右手で防いだの?

 体が浮いたのも、自分で跳んだだけ?

 あの体勢から?


 ……信じられない。


 それでも、吾妻の脇腹を打ち抜いたのは事実よ。

 右手の上からとはいえ、きっとダメージを与えているはず。

 その証拠に、武上君の右拳は自由になっているのだから。


「でもよぉ。こういうの、悪くないぜ」


「……悪くない、か」


「ああ、面白え!」


 武上君……。


 息が詰まるような私の思いに反して、武上君の顔には心から嬉しそうな笑みが浮かんでいる。


「しっかし、あんたみたいな強化者がいたなんてなぁ」


「異能者など、掃いて捨てるほど存在するが?」


「そこらの奴らとは違うだろ。強化系で、ここまで体を使いこなしてんだ。しかも、その細い体でよ」


「……」



 喜色を浮かべたままの武上君とは対照的に、吾妻の表情は能面のよう。


 戦闘中とは思えない。

 脇腹に打撃を受けたとは思えない。

 それほどに凪いでいる。


 攻防の最中、わずかに見せた苦悶の表情が錯覚だったのかと思えてしまう。


 ……。


 まさか!

 まったく痛んでない?


 いえ、そんなわけないわ。

 痛みを隠しているだけ。

 そうよ。

 そうに違いない。



「壬生側に付いてるのが残念だぜ」


「……」


「ん? 違うか? 味方だったら、遠慮なく戦えねえもんなぁ」


「そこまでして……」


「うん?」


「戦いたいのか?」


「はっ、答えるまでもねえ! ってことで、2回戦開始だ!」


 開戦の言葉とともに飛び出す武上君。

 今回も先手はこちら。


「……」


 対する吾妻は棒立ちじゃない。

 さっきまでと違い、防御の体勢で迎え撃とうとしている。


「だぁ!」


 右拳の一撃。

 続けて、左拳の正拳。

 強烈でありながら流れるように放たれる連撃の拳。


 受ける吾妻は、前回と異なる対応。

 腕と体を巧みに使い、連撃を躱しきった。


「りゃあぁ!!」


 そこに、さらなる追撃。


 右!

 左!

 左!

 右!


 目にも留まらぬ速さで、武上君の拳が繰り出され続ける。

 けど、決まらない。


 吾妻が見事な動きで、避け、躱し、いなしていく。


「おらぁぁ!!」


「……」



 一呼吸でどれだけの攻防があったのだろう?

 良く分からない。

 その速さと激しさに、最後まで目が付いていけなかったから。


 ただひとつ明らかなのは、武上君の拳が当たっていないということ。



「ちっ!」


 呼吸が続かなくなった武上君が数歩後退。

 吾妻は無表情のまま、その場を動かない。


 ……。


 ……。


 ここまでは武上君が押しているように見える。

 それなのに!


 どうしても良い状況とは思えない。

 不安が拭い切れない。


 まだ攻撃を仕掛けてこない吾妻。

 それが防戦による余裕の無さゆえのものなら、問題はないだろう。

 ただ、そうでないなら……。


 私も加勢すべき?



「今のを全部防ぐかよ」


「……ギリギリだ」


「はっ! 涼しい顔で、よく言うぜ」


「……」


「お前、さっきは本気じゃなかっただろ?」


「君に合わせただけだな」


 やっぱり、そうなのね。

 だったら。


「武上君!」


「……必要ねえぞ」


「そんなこと言ってる場合じゃないわ」


「問題ねえ。大丈夫だ」


「……」


「こっからは全力でいくからよ! もう少し任せてくれ」


「……状況によっては動くわよ」


「まっ、しゃあねえな」


「……」


 危険だと思ったら、すぐ動くから。

 覚悟して。


「で、後ろは大丈夫か?」


 そうね。

 今のうちに現状の確認を……。


 武上君と私の20メートルほど後方では、武志君と幸奈さんが待機中。

 怪我ひとつないように見える。

 異能者が近づいていないのだから当然ね。


「問題ないわ」


 対する壬生側。

 3人の異能者は、依然として意識を失ったまま地に伏している。

 残るは、吾妻と空間異能者だが……。


 手が空いているはずの空間異能者は、意識を失った3人の介抱をする様子もなければ、幸奈さんに手を伸ばす素振りも見せない。ただ、武上君と吾妻の攻防を眺めているだけ。


 不自然に思えるけれど、私と壬生兄の交戦中も眺めているだけだった。

 つまり……。


 壬生兄の言葉通り。

 あなたたちも一枚岩じゃないってことね。

 壬生たち3人と吾妻たちの間には溝があると。


 ふふ……。


 おもしろい!



「吾妻さん、こっちももう?」


「……分かっている」


「お願いしますよ」


「ああ」


 頷く吾妻に納得したのか、遠ざかる空間異能者。

 武上君と吾妻の攻防に巻き込まれたくない、その思いが透けて見える。


「おう、やっと本気になったか」


「まあ……そういうことだ」


「じゃあ、3回戦といこうぜ!」


「……」


 おそらく、最大の身体強化を施した武上君。

 今日一番の動きで地を蹴りつける。

 転瞬、間合いに入り。


「どりゃあぁ!!」


 最速、最高の右ストレートを顔面に。


「……」


 右に頭を振り、紙一重のところで躱した吾妻。

 初めての反撃。

 カウンターの右ストレートを放った!


「っ!」


 武上君も頭を振り、回避に成功!


 強烈な右ストレートの打ち合いという体勢上、ふたり共に上半身が右に流れている。

 そこからの動きは簡単じゃない。


「……」


 今度は吾妻が先!

 振り抜いた右腕を強引に左に回し、右フックの要領で武上君の首を巻き込もうとしている。

 首を絞めようとしている!


 危ない!!





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― 新着の感想 ―
[良い点]  二人の一騎打ち……どうなるか!  ところで吾妻さんの性別が気になりますね。場合によっては三角関係も有りえますね(笑)
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