第465話 攻防 4
<古野白楓季視点>
痛みで対応が遅れてしまった私に向かってくる左の拳。
凄まじい勢いで胸部に迫る正拳の突き。
完全に避けることは、もうできない。
正面から受けたら終わってしまうのに!
「っ!」
少しでも衝撃を減らすべく後ろへ!
跳びながら強張る私の体。
くる!!
衝撃を覚悟した、その瞬間。
「させるかよ!」
武上君!?
飛び込んで来た武上君が、その拳で敵の正拳突きを横から打ちつけ!
ドゴン!!
拳と拳が衝突。
とんでもない音を立てて敵の左拳が弾かれる。
正拳突きが逸れていく!
その隙に、私も回避に成功。
そのまま武上君とともに距離を取る。
「……」
「……」
恐ろしい連続攻撃だった。
速度も威力も尋常じゃなかった。
私ひとりなら、最後の一撃でやられていただろう。
「助かったわ」
「おう……ありゃ強化系だな」
敵の異能者。
雰囲気からは強化系に見えなかったけれど、今の攻撃が素の動きだとは到底思えない。
一連の連続動作は強化系そのもの。
「……ええ」
よくないわね。
相手が強化系の異能者となると。
「アンチUPは役に立たないわよ」
強化系異能とは相性が悪いから。
「はっ、面白え!」
不敵に笑う武上君。
「力と力の勝負ってこった」
「……」
「ずっと待ってたんだぜ。こういう力勝負をよ!」
「武上君……」
異能者の戦闘は、異能に頼った戦いになる。
遠距離攻撃、近距離攻撃、特殊攻撃。
種類が何であれ、異能特化の戦いを身に付けているのだから当然だ。
そんな異能者の戦いで、強化系の戦闘を目にすることは少ない。
ましてや、強化系同士の肉弾戦なんて私は見たこともない。
武上君自身も初めてだと思う。
「嬉しいよなぁ」
「……」
これまで経験した数々の異能戦、武上君は物足りなかったのだろう。
肉体だけを使って真正面から正々堂々と渡り合う。
それが彼の理想なのだから。
ただ、ここは絶対に負けられない局面。
私も手を出させてもらうわよ。
「拳を拳で打つ、か」
対する敵異能者、吾妻は……。
無表情だった顔に微かな笑みが浮かんでいる。
「興味深い発想だな」
「だろぉ。次はよ、そいつをお前にぶちこんでやらぁ!」
言葉も終わらぬうちに、一足で距離を詰める武上君。
吾妻は動かない。
目で追うのがやっとのスピードで吾妻に接近した武上君が渾身の右拳を!
「だぁ!!」
真正面から放った!
強烈な一撃。
でも、正直すぎる。
吾妻の反応速度なら、避けられてしまう。
そう思ったのに!?
避けない!
「……」
吾妻は棒立ちをやめ、左足を後ろに引き左手を前に。
拳ではなく、大きく開いた手のひら。
それを、武上君の拳に合わせるように突き出した!
バシィィ!!
異空間に響き渡る乾いた音。
刹那、薄白い煙が!
煙が立ち込める!
そんな錯覚にさえ陥ってしまう、ふたりの激突の結果は……。
「!?」
嘘でしょ?
武上君の拳を受け止めている。
その場から全く動くことなく、吾妻の手のひらが拳を抑え込んでいる。
駆けながら放ったあの右ストレートを左手のひらで。
「……」
信じられない。
理解できない。
「ここからだぜぇ!」
「……」
「うおぉぉ!!」
けど、まだだ。
まだ攻撃は終わっていない。
拳を掴まれたまま、武上君が右足を前に!
「おりゃあ!!」
そして、右拳を振り抜いた!!
「!?」
拳を掴んだままの吾妻が初めて見せる苦悶の表情。
足の踏ん張りがきかず、地面を滑っていく。
武上君が押していく。
それでも拳は離さない。
武上君も右拳で押し続ける。
「りゃあぁ!!」
「っ!」
攻防が続きながらも、ある種の膠着状態。
この状況……。
分かってる。
私が魔法を使うべきだ。
いつでも炎を使えるように、もう間合いにも入っている。
けど……。
「古野白ぉ、邪魔すんなよ!」
「……」
「……」
少しだけ。
少しだけ待ってあげる。
だから。
「早く決めなさい!」
「おうよ!」
嬉しそうな顔しちゃって……。
っと!
「おおぉぉ!!」
笑顔を浮かべていた武上君が重心を後ろに!
右の拳を引き戻そうとしている。
吾妻はそれを許さない。
ただ、今まで押されていた方向とは正反対の力を受け、僅かにたたらを踏んでしまう。
「っ!」
そこに武上君の左拳!
右拳を掴まれたまま、左のボディーブローが吾妻を襲う!
至近距離での一撃。
バランスを崩している吾妻は避けられない。
それでも、右手で拳撃を防ごうと!
バァァン!!
左拳が吾妻の脇腹に炸裂した!!





