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30年待たされた異世界転移  作者: 明之 想
第9章  推理篇
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第465話  攻防 4


<古野白楓季視点>




 痛みで対応が遅れてしまった私に向かってくる左の拳。

 凄まじい勢いで胸部に迫る正拳の突き。

 完全に避けることは、もうできない。


 正面から受けたら終わってしまうのに!


「っ!」


 少しでも衝撃を減らすべく後ろへ!

 跳びながら強張る私の体。


 くる!!

 衝撃を覚悟した、その瞬間。


「させるかよ!」


 武上君!?


 飛び込んで来た武上君が、その拳で敵の正拳突きを横から打ちつけ!


 ドゴン!!


 拳と拳が衝突。

 とんでもない音を立てて敵の左拳が弾かれる。

 正拳突きが逸れていく!


 その隙に、私も回避に成功。

 そのまま武上君とともに距離を取る。


「……」


「……」


 恐ろしい連続攻撃だった。

 速度も威力も尋常じゃなかった。

 私ひとりなら、最後の一撃でやられていただろう。


「助かったわ」


「おう……ありゃ強化系だな」


 敵の異能者。

 雰囲気からは強化系に見えなかったけれど、今の攻撃が素の動きだとは到底思えない。

 一連の連続動作は強化系そのもの。


「……ええ」


 よくないわね。

 相手が強化系の異能者となると。


「アンチUPは役に立たないわよ」


 強化系異能とは相性が悪いから。


「はっ、面白え!」


 不敵に笑う武上君。


「力と力の勝負ってこった」


「……」


「ずっと待ってたんだぜ。こういう力勝負をよ!」


「武上君……」


 異能者の戦闘は、異能に頼った戦いになる。

 遠距離攻撃、近距離攻撃、特殊攻撃。

 種類が何であれ、異能特化の戦いを身に付けているのだから当然だ。


 そんな異能者の戦いで、強化系の戦闘を目にすることは少ない。

 ましてや、強化系同士の肉弾戦なんて私は見たこともない。

 武上君自身も初めてだと思う。


「嬉しいよなぁ」


「……」


 これまで経験した数々の異能戦、武上君は物足りなかったのだろう。

 肉体だけを使って真正面から正々堂々と渡り合う。

 それが彼の理想なのだから。


 ただ、ここは絶対に負けられない局面。

 私も手を出させてもらうわよ。



「拳を拳で打つ、か」


 対する敵異能者、吾妻は……。

 無表情だった顔に微かな笑みが浮かんでいる。


「興味深い発想だな」


「だろぉ。次はよ、そいつをお前にぶちこんでやらぁ!」


 言葉も終わらぬうちに、一足で距離を詰める武上君。

 吾妻は動かない。


 目で追うのがやっとのスピードで吾妻に接近した武上君が渾身の右拳を!


「だぁ!!」


 真正面から放った!


 強烈な一撃。

 でも、正直すぎる。

 吾妻の反応速度なら、避けられてしまう。


 そう思ったのに!?

 避けない!


「……」


 吾妻は棒立ちをやめ、左足を後ろに引き左手を前に。

 拳ではなく、大きく開いた手のひら。

 それを、武上君の拳に合わせるように突き出した!


 バシィィ!!


 異空間に響き渡る乾いた音。

 刹那、薄白い煙が!

 煙が立ち込める!


 そんな錯覚にさえ陥ってしまう、ふたりの激突の結果は……。


「!?」


 嘘でしょ?


 武上君の拳を受け止めている。

 その場から全く動くことなく、吾妻の手のひらが拳を抑え込んでいる。

 駆けながら放ったあの右ストレートを左手のひらで。


「……」


 信じられない。

 理解できない。



「ここからだぜぇ!」


「……」


「うおぉぉ!!」


 けど、まだだ。

 まだ攻撃は終わっていない。

 拳を掴まれたまま、武上君が右足を前に!


「おりゃあ!!」


 そして、右拳を振り抜いた!!


「!?」


 拳を掴んだままの吾妻が初めて見せる苦悶の表情。

 足の踏ん張りがきかず、地面を滑っていく。

 武上君が押していく。


 それでも拳は離さない。

 武上君も右拳で押し続ける。


「りゃあぁ!!」


「っ!」


 攻防が続きながらも、ある種の膠着状態。


 この状況……。


 分かってる。

 私が魔法を使うべきだ。

 いつでも炎を使えるように、もう間合いにも入っている。


 けど……。


「古野白ぉ、邪魔すんなよ!」


「……」


「……」


 少しだけ。

 少しだけ待ってあげる。

 だから。


「早く決めなさい!」


「おうよ!」


 嬉しそうな顔しちゃって……。


 っと!


「おおぉぉ!!」


 笑顔を浮かべていた武上君が重心を後ろに!

 右の拳を引き戻そうとしている。


 吾妻はそれを許さない。

 ただ、今まで押されていた方向とは正反対の力を受け、僅かにたたらを踏んでしまう。


「っ!」


 そこに武上君の左拳!

 右拳を掴まれたまま、左のボディーブローが吾妻を襲う!


 至近距離での一撃。

 バランスを崩している吾妻は避けられない。

 それでも、右手で拳撃を防ごうと!


 バァァン!!


 左拳が吾妻の脇腹に炸裂した!!






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― 新着の感想 ―
[良い点]  吉と出るか凶とでるか……  次話が楽しみです!
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