第463話 媒介物
「教えてくれ!」
「ふーん、取り繕うこともしませんか」
だから、そんなことをしている場合じゃないんだ。
「知っているんだろ、侵入方法を!」
「……」
「どうなんだ!」
「そんな様子を見せられちゃあ、会話を楽しむこともできませんよ。はぁ~、仕方ないなぁ、もう」
やはり、侵入方法を把握しているんだな!
「でも、分かってますよね?」
「……ああ、借りは返す」
「さすが有馬さん、いい返事です」
「……」
壬生少年に借りを作るなんて、決して褒められたもんじゃない。
そんなこと分かっている。
けど、今はこうするしかないだろ。
「それで?」
「……媒介物ですよ」
何?
「空間異能者が使用した媒介物を探してください」
「どういうことだ?」
「うーん、ぼくも詳しくはないんですけどね。あそこは、この世界に重なるようでいて決して交わることのない異質な空間らしいんですよ」
「異能者が創り出した固有の異空間ってことか?」
「固有かどうかは定かじゃありません。うん? そもそも創り出したものなのかな?」
「……」
「それすら怪しいですねぇ」
異能者が創ったんじゃない?
「創造したのではなく、そこに入り込んだだけ……? やっぱり、良く分からないなぁ」
「……」
「とにかく、こことは別の場所に存在している空間。異なる位相ってかんじです」
「位相空間……」
「そうそう、そんなイメージですね」
分かったような、分からないような。
が、そんなことより。
「媒介物とは何なんだ?」
「異なる位相に移動する際、こちらに戻るための経路を残す必要があるんですよ。それがないと、上手く戻れない。永遠に位相を漂うことになるみたいです」
「……」
「異なる位相は無限に存在するらしいので」
新たに創ったのか、元々存在したのか分からないが、無限に存在する位相空間の中の1つに移動したと。そこから、元の世界に戻るためには経路が重要だと。
「経路確保に必要なのが媒介物。異能者の所有物であるそれを目印にして道を確定するようですね」
「つまり、その媒介物を使えば、ここからも位相空間に渡れるってことだな?」
「多分?」
多分!
「渡れないのか?」
「どうなんでしょ? ぼくも試したことはありませんから。それに、媒介物の使い方も知りませんし」
壬生少年も渡る方法を知らない。
成否も分からない。
「……話が違うぞ」
「えっ? ぼくは最初から何も断定してませんけど」
「……」
「やだなぁ、そんな怖い顔しないでくださいよぉ。多分、大丈夫ですから」
「……」
「有馬さんなら、できますって」
成否は分からない。
けど今は、媒介物を使うしか術はない。
それを試すしかない。
「で、その媒介物はどこにある?」
「……さあ?」
それも不明なのか!
「この屋敷のどこかにあると思いますけどね」
広大な和見家の屋敷全て!
屋敷内にある無数の物品から媒介物を探し出す!
無理だ。
それじゃ、間に合わない。
目の前の位相空間では、危険な状態が続いているというのに……。
「ああ、ヒントはありますから」
「……」
「位相はこちらとは異なる世界。色々違いがあるんです。それなら、その違いを探せばいいと思いません?」
何を言っている?
「この屋敷内に本来存在するはずのない位相の痕跡。それがある場所が位相との接点。つまり……」
「そこに媒介物が存在する」
「ご名答」
異なるモノ!
痕跡を探せばいいんだな。
「ほんと、ぼくは親切だなぁ」
「……」
「でも、これは貸しですよ。忘れないでくださいね」
「……位相空間に渡れたらな」
「ふふ、大丈夫ですって」
「……」
「さて、そろそろ時間です」
っ!
既に、足下が消えている。
「待て!」
まだ話が残ってるぞ!
「今日も楽しかったですよ、有馬さん」
「ちょっと待て!」
「また会いましょう……」
そう言い残して。
「……」
完全に消えてしまった。
地下室から去ってしまった。
もう気配も残っていない。
……。
……。
いいだろう。
ここからは、ひとりで何とかしてやる。
まずは、痕跡。
和見家に残る異常、異質なモノ……。
迷うまでもない。
この肌を刺すような違和感、瘴気だ。
最も濃密にそれを感じさせるのは地下室。
この部屋に媒介物が存在するってことだろ。
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<古野白楓季視点>
ゆっくりと立ち上がり、体を確認。
「……」
さすが改良型アンチUP。
まだ体は重いけれど、手も足も動く。
異能も。
「なっ、何?」
立ち上がった私の眼前には、倒れ伏したままの念動力者と驚愕の表情を浮かべる壬生兄。
「お前、動けないはずじゃ!」
「前回はそうだったわね」
「あの男だけじゃなく、お前まで……」
改良前のアンチUPでは上手く動くことができなかった前回、武上君だけは動けていた。
改良型の今回、武上君はもちろん。
私も動けるのよ!
「だから言ったでしょ」
「……」
「あなたを捕縛するって」
「馬鹿な!」
馬鹿、馬鹿って、そればっかり。
あなた、分かっているのかしら?
それこそ、馬鹿のひとつ覚えというものよ。
「あり得ない……」
「どう、降参でもする?」





