第462話 攻防 2
<古野白楓季視点>
私の目の前には壬生家の長兄。
重力操作という恐ろしい異能の持ち主。
性格はアレだけど、逃げ場のないこの空間では面倒な相手だ。
「どうした? 降参するなら、考えてやるぞ」
「おあいにく様。あなた達と手を組む気はないわ。代わりに、捕縛してあげる。何度だってね」
「ふっ、馬鹿なことを」
「それは、どうかしら」
馬鹿なのはあなたよ。
それと……。
「だぁ!」
ドゴン!!
「うりゃ!」
ガン!!
すぐそこで戦っている武上君。
まっ、種類は違うけれど。
「どうだぁ!!」
「うわぁ!」
勇気をくれるのはありがたいわよ。
でもね、少しはこっちを見なさい。
大変なんだから。
「……」
はぁ~。
ホント、好きに戦ってくれちゃって……。
「後悔するぞ」
「……しないわ」
するわけがない。
「そうか。しないか」
当然ね。
「ふふ、ははは」
鳥肌が立ちそうな嫌な嗤い。
そんな嗤いを顔に貼り付けたまま、後退する壬生兄。
「逃げるの!」
「逃げなどしない。直接手を下すまでもないだけだよ」
代わって前に出てきたのは長身の異能者。
念動力の使い手だ。
「……」
他の3人の異能者はというと。
ひとりは武上君と交戦中。武上君が押しているわね。
残るふたりは、こっちを眺めているだけ。
片方は空間異能者だろうから理解できるけど、もう一方は……。
さっきから全く動くこともなく、表情を崩しもしない。
能面のようなその表情を映すのは、20代後半の男性と思しき端正な顔立ち。
俳優にも劣らぬ整い具合……。
ただし、血の通わない作り物のように見えてしまう。
秀麗な容姿が、逆にぞっとさせる何かを感じさせてくる。
「……」
けど、どうして?
動かない?
何も仕掛けて来ない?
私の後ろにいる幸奈さんと武志君を放置したまま……。
っと、今はそっちじゃないわ。
私の相手は念動の異能者。
「……」
今まさに壬生兄の前に進み出て、無言でこちらを睨みつけている。
そんな敵を認識した瞬間。
発声もなく異能が発現された!
飛来するのは、小石サイズの鉄球だ!
「っ!」
素早く反応して左に跳躍、回避に成功。
この至近距離でも、予測していれば問題はない。
と、そこに2発目の鉄球が!
「無駄よ」
もう一度左に跳躍、したところに3発目!
着地地点に飛来する鉄球の速度はこれまで以上。
「くっ!」
着地した脚を折るようにして左に回転。
転がった私の上を鉄球が通り過ぎていく。
一回転しても視線は外さず片膝立ちの私に、さらなる鉄球!
4連続攻撃!
これじゃ、きりがない。
それなら。
右脚を軸にして、回し蹴りの要領で左脚を一閃させる。
ガン!
狙い通り、強化靴にヒット。
蹴り返した鉄球が、勢いを増して念動者のもとへ!
「っ!」
鉄球は敵に直撃とはいかなかったものの、頬を掠めたようだ。
思わぬ反撃に怯む異能者。
敵が攻撃の手を緩めたその隙に、整えた体勢から。
「炎弾!」
今度はこっちの番。
炎の弾をお見舞いしてあげる。
「っ!」
「炎弾!」
「くそっ!」
必死に回避する念動者。
攻守逆転ね。
「炎弾!」
「炎弾!」
逃がさない。
ここで決める。
「炎弾!」
「うぐっ」
やったわ。
直撃よ。
けど、まだ倒せていない。
だから、とどめを!
「災厄の惨重、昏み眩みて真闇の地に墜ちよ! 極重禍!」
そう思ったのに、壬生兄の重力操作が!
「っ!」
体の自由を奪い取りに来る。
片膝をついてしまう。
いきなり、切り札。
超重化……。
「ふふ、無様な姿だ」
「……」
この感覚。
一度体験しているとはいえ、慣れるような重さじゃない。
改良型アンチUPを使っているのに、これなのだから。
でも……装備しておいて良かった。
これがなかったら、どうなっていたことか。
「無様な貴様に、もう一度だけ慈悲を与えてやろう」
改良タイプと言ってもまだ試作品。
使用には制限があるし、異能を完全に無効化できるわけでもない。
ただ、重力操作のような持続型異能に対しては、それなりに効果を発揮してくれる。
だから、この状態でも……。
「どうだ、降参するか?」
「……しないわよ」
前回は極重禍の前で動けなかったけれど、今回は違う。
今の私は動けるのだから。
「体の自由が利かないというのに、愚かなことだ」
動けないんじゃない。
少しずつ慣らしているのよ。
だから、ちょっとだけ待ってなさい。
「……」
そんな私と壬生兄の間には、念動の異能者。
「ううぅ」
地に倒れ伏している。
壬生兄と私の間に立っていた彼の身も壬生兄の異能を受けてしまったんだ。
武上君は……大丈夫。
そっちには影響ないみたいね。
だったら、ここは私が!
私が壬生兄を倒せばいい。
「……」
そろそろね。
両脚に力を入れ。
ゆっくりと膝を上げ……。
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まずい!
古野白さんが膝をついてしまった。
直前までは、操炎の異能で敵を圧倒していたのに。
いったい、何が起こったんだ?
相手は念動力者、じゃない。
なら……。
「でも、どうして5人だと認識できたんです? 感覚で分かるものじゃないでしょ?」
こいつの相手をしている時間はない。
「あれ、あれ? また焦った顔になってますよ」
武上は他の異能者と交戦中。
古野白さんは膝をついている。
幸奈と武志は後方で待機。
予断を許さない状況なのに!
「有馬さーん、どうしたんですかぁ?」
もういい。
今は余計なことを考えている場合じゃない。
「侵入方法を教えてくれ! 今すぐだ!」





