表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
30年待たされた異世界転移  作者: 明之 想
第9章  推理篇
465/701

第461話  根拠



 この状況で、壬生家の5人を相手にすることが簡単なわけがない。

 武志君の結界は、自ら解除しても破壊されても、再構築に時間がかかってしまう。

 戦闘中、すぐにできるものじゃないのだから。


「ふたりを護って戦うのは易しくないわ」


 武上君、分かってるでしょ。

 もし結界が消えてしまったら、幸奈さんは当然のこと武志君も護らないといけなくなるの。


「攻撃される前に倒せばいいだけだ」


「相手は手練れよ」


 纏う空気が違う。

 とても並の異能者とは思えない。

 それは、この異空間を創り出している異能者の腕を見ても分かること。

 5人の中には初見の者もいるけれど、全員を凄腕の敵と考えた方がいい。


「関係ねえな」


「関係あるわ!」


「空間異能者を除けば4人。手練れだろうと敵は4人だぜ。オレたちなら大丈夫だろ」


「武上君……」


「こうサッとな、パッとやってやりゃいいんだ」


「……」


 武上君のことは充分に理解しているつもり。

 それでも、彼の思考にはまだ慣れることができない。

 まだじゃなくて、これからも無理かもしれないわね。

 思考じゃなく、考えなしなんだから。


「それによぉ、どうせ戦うしかねえんだぜ」


 まあ、それは……。


「あの、わたしと武志のことは気にせず戦ってください。ふたりでなんとかしますから」


「姉さんの言う通り。自分の身は自分で護ります!」


 幸奈さんと武志君を護らなくていいなら楽になるけれど、そんなこと!

 ただ、少しの時間でも許されるなら……。


「……」


「ふたりもこう言ってんだ。なら、こっちは敵を倒せばいいだけ」


 ホント、簡単に言ってくれるわね。


「オレと古野白が一緒に戦えば、問題なんてねえ」


「……」


 考えなしは嫌い。

 本能で戦う人は苦手よ。


「そうだろ、古野白!」


 でも、彼の信頼は嫌じゃない。

 認めたくないけれど、その気持ちだけは確かに存在する。


「……分かったわ。ただし、しばらくは結界の中にいるわよ。作戦を考えましょ」





********************





「頼む、知っているなら教えてくれ!」


 武志の結界に入った亀裂が広がっている。

 今にも破壊されそうなんだ。


「そんなに慌てて、どうしたんです? 何かあったんですか?」


 何がって、この結界の状態を見て焦らないわけがないだろ。

 聞くまでも……ないことじゃない?


 そうか。

 壬生少年は異空間の存在は知覚できても、中の様子までは分からないんだな。


「有馬さん?」


 この表情。

 間違いなさそうだ。


「……」


「あれ? もう落ち着きましたね」


 落ち着いてなどいない。

 君に知られたくないだけ。


 それに、まあ……。

 武志の結界が消えたからと言って、すぐにやられることはないはず。

 古野白さんと武上がいるのだから。


 ただ、問題は。


「この空間の中にいる壬生家の者は腕利きなのか? どんな異能を持っている?」


 ここからじゃ異能者の能力が分からない。

 異空間の中を鑑定できないんだ。


「そんなこと簡単にはねぇ。でも、有馬さんが何に焦っていたか教えてくれるなら、考えなくもないですよ」


 異空間の中が見えているという事実。

 それを知られても、情報を得るべき?


「……」


 いや、違うな。

 引き換えにするなら、侵入方法だろ。

 中に入りさえすれば、鑑定も使える。

 ここで異能者5人の情報を得る必要もない。


「侵入方法と交換だ。それなら教えてやる」


「はは、そうきましたか」


「空間に入ることが何より重要だからな」


「まあ、そうですね。でも、異能者の情報もあった方がいいでしょ」


「5人の情報など、この空間に入れないのなら意味はない」


「なるほど、なるほど。有馬さんは、5人だと認識しているんですね」


「……」


 失言だ。

 こいつのペースに乗せられて。


 まずいぞ。

 状況は何も変わっていないのに。

 空間の中では武志の結界も……!?


 なっ!!


 俺の目の前。

 膜の向こうで武志の結界が……。

 砕け散ってしまった。





********************


<古野白楓季視点>




 パリーーン!!


 耳を貫くような破裂音が鋭く響き渡る。


と同時に鼻腔をつく強烈な臭気。

 武志君の結界の中では感じることのなかった瘴気ともえいる不快な空気がまとわりついてくる。


「「「「……」」」」


 僅かな沈黙。

 そして。


「武上君!」


「おう、行くぞ!」


 その言葉と同時に走り出す武上君。

 強化済みの体が高速で飛び出していく。


「……」


 作戦なんてあったもんじゃないわね。

 仕方ない。

 フォローするわよ。


「古野白さん!」


「幸奈さん、武志君、少しだけ耐えてちょうだい」


「はい」

「分かりました」


 ふたりを残して前に出るのは不安だけれど。

 ここは何としても先制を決めたい。


 先行した武上君の後ろを追いかけ接敵。


「やっと出てきたな」


 私の前に立ち塞がるのは壬生の長兄。


「あなた、どうやって出てきたの?」


 研究所に捕らえられていたはずなのに。


「どこにでも抜け道は存在する」


「……」


「どこにでもだ! 一枚岩なんて幻想なのだよ」


 壬生と繋がっている者が機関にいると!

 だから、今回のことも。

 考えたくなかったけど、やっぱりそうなのね。


「お前たちが何をしても無駄ってことだな」


「……」


「大人しく降参した方がいい」


 無駄?

 降参?


「おらぁ!」


 ドゴン!!


「たぁ!」


 ガン!!


「……」


 違う。

 ここを突破すれば、先が見えるはず。


「だぁ!!」


 そうよね、武上君。


「おりゃ!!」


 前方で戦う武上君を見ていると、根拠のない自信を持ててしまう。

 ふふ、今まで馬鹿にしてきたけれど……。


 根拠がないって強いことなのね。






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
小説家になろう 勝手にランキング ここをクリックして、異世界に行こう!! 小説家になろうSNSシェアツール
― 新着の感想 ―
[良い点]  古野白さんと武士のコンビもいい感じですね!  さて有馬はどう登場するのか………楽しみです!
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ