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30年待たされた異世界転移  作者: 明之 想
第9章  推理篇
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第460話  攻防



「姿を現わしたらどうだ、壬生少年」


「……」


 俺の背後。

 1階に通じる扉のすぐ側に現れたのは壬生伊織。

 複数の異能を操る超常の異能者。


「はぁ~」


 気付かれたことに驚いたのか、珍しく苦々しい顔をしている。

 幼い容姿にその表情は全く似合っていないな。


「よう!」


「……まいりますよ、有馬さんには」


「そっちこそ、相変わらずたちが悪い」


「ひどいなぁ」


 珍しいと思ったのも束の間のこと。

 既にその顔には、いつもの余裕が浮かんでいる。

 さすが、調子を取り戻すのも早い。


「ぼくみたいないたいけな子供に何てこと言うんです。ホント酷いですよ、有馬さんは」


「いたいけな少年は気配など消せないが?」


「何のことです?」


 白々しいことを。


「今さらだぞ」


 霧のように消えたり現れたりする姿を何度も見ている。

 鑑定を使って、その異能も理解している。


「まあ、そうですよね。ぼくと有馬さんの仲ですし」


「……」


「でもそうかぁ、すぐに見つかっちゃうんだ。せっかく強化したのに……」


 気配がさらに希薄になっていると思ったら、やはり強化していたのか。


「うん、有馬さんが凄いだけか。ホント、何者なんです? って、答えてはくれないですもんね」


 いや、答えてやるよ。


「ただの大学生だ」


「はは。ただの大学生が、ぼくに気付ける? そんなわけないでしょ」


「ただの少年が背後にいるだけなら気付けるな」


「……」


「まっ、そんな話はどうでもいい。分かってるだろ、壬生少年」


「え~と、その壬生少年っていうの、やめてもらえます? なんだか記号みたいで嫌なんですけど」


「壬生家の一族は多いからな。区別がつかなくなる」


「それじゃあ、壬生兄に壬生姉、壬生父なんて呼ぶんですか?」


「そうなるな」


「あはっ、ホント記号じゃないですか」


「……」


「壬生家の他の者は記号でもいいですけど、ぼくだけはやめてくださいね。ぼくと有馬さんの仲なんですし」


「特別な仲じゃない」


「忘れたんですかぁ! 死闘を繰り広げて休戦した仲じゃないですか。ある意味、恋人よりも深い仲ですよ」


 駄目だ。

 こいつと話していると調子が狂ってくる。

 その上、時間まで無駄に。


「それに、ぼくには伊織という名前もありますしね」


「中身の名前は違うだろ」


「えぇ? 何言ってるか分からないなぁ??」


「……名前の話はもういい」


 壬生少年と話している間も、膜の向こうでは戦闘が行われている。

 その無音の世界の中、依然として戦況は悪くない。

 ただ、それも武志の結界が皆を護っているから。

 結界が破壊されると、どう転ぶか分からない。


「今問題なのは、この空間!」


「……」


「これは異能が創り出したものなのか? どういう構造になっている? いや、それより侵入方法だ!」


「……」


「知っているんだろう。この空間への侵入方法を」


「有馬さん、あれを認識できるんですね?」


「ああ。だが、入る方法が分からない」


「凄い! 本当に凄いなぁ。普通じゃないですよ!」


「……」


「あいつの創り出した空間を認識できるなんて! さすがです、有馬さん」


 確かに、一般人が知覚できるもんじゃない。

 魔力を眼に集中させないと、俺だって見ることができないのだから。

 そうは言っても。


「君も認識できるんじゃないのか?」


「まあ、何となくですけどね。で、有馬さんはどんな風に知覚してるんです? 教えてくださいよ!」


「……」


 これは、詳しく伝えない方が良さそうだな。


「こっちも漠然と知覚しているだけだ」


「漠然って、どんな感じなんです?」


「君と同じだと思うぞ」


「……そうなんですね」


 なぜ気落ちする?

 いや、だから、そんなことより。


「君は侵入方法を知っているのか?」


「どうでしょうねぇ」


 やはり、知っているな!


「知っているなら教えてくれ」


「うーん、困るなぁ。ぼくにも家との関係がありますから、そう簡単にはねぇ」


「家とは敵対しているんだろ?」


「敵対まではしてませんよ」


 簡単には教えられないと。


「……」


 壬生少年の立場を考えたら当然のことか。

 とはいえ、こっちも譲れない。

 時間もない。

 いつまで結界がもつのか分からないのだから。


 どうすれば……?


 っ!?


 あれは!

 結界に亀裂が?


 まずい!

 もう交渉してる場合じゃない。


「借りは必ず返す。知っているなら教えてくれ!」





********************


<古野白楓季視点>




 ドン!

 ガン!

 ドガッ!


 結界表面に打ちつけられる異能。

 その激しさは増すばかり。


「武志君、結界は大丈夫!?」


「まだまだ平気ですよ」


「……助かるわ」


 この余裕。

 結界持続時間の心配はなさそうね。

 あとは、敵の攻撃にどこまで耐えることができるか?


「武志、本当に平気なの? 無理してない?」


「大丈夫だって。結界は使い慣れてるからさ。さっき姉さんに説明しただろ」


「そうだけど。武志が異能を使えるなんて知らなかったし……」


「それは、ごめん。ちょっと話せなかったんだよ」


 和見家には色々と問題がある。

 このふたりの関係も複雑だ。

 それでも、このふたりなら大丈夫。

 そう信じている。


「こっちは準備万端だ! いつ結界解除してくれてもいいぞ」


「でも、姉さんが」


「問題ねえ。オレが護ってやらぁ」


「武上君、甘く見ちゃだめよ。敵は5人いるのだから」


 ドガン!

 ガン!


「こんな攻撃、今までと変わらねえだろ」


 確かに、そう。

 結界に対する異能攻撃は、これまで見てきた異能と変わりはない。


「まったく問題ねえな。5人いても同じだぜ」


 私たちふたりだけで複数の異能者を捕らえた経験もある。

 この壬生家相手にも……。


 ただ、今回は容易くないのよ。






明日も更新予定ですが、

本業の都合上、更新できない可能性も……。

その際は、お許しください。

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― 新着の感想 ―
[良い点]  壬生少年の借りは軽くない気が……
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