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30年待たされた異世界転移  作者: 明之 想
第9章  推理篇
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第456話  電話



 電話機の点滅にセレス様の予感。


「……」


 関係などないはずなのに。

 不吉なピースがはまっていくような……。


 淡々と明滅を繰り返す電光。


 作為的な光が、重い翳りを生み出していく。

 浸食してくる。

 傷痕を抉り出すようにゆっくりと。


 ……。


 ……。


 いやいや。

 大丈夫だ。


 あんなこと、何度も起きるもんじゃない。

 この録音の内容も何の変哲もない、ありふれた伝言に違いない。

 きっと、そう。


「ふぅ」


 立ち止まったまま、息苦しさを抑えている俺の前。


 プルルル、プルルル、プルルル。

 着信を告げる電子音。


 あまりのタイミングに、押さえつけていた不安がまた這い上がって来る。


「っ!」


 違う。

 ただの着信だろ。


 そう言い聞かせて手に取った受話器から。


『有馬君! 有馬君ね!!』


 聞こえてきたのは古野白さんの焦ったような声音。

 冷静沈着な古野白さんとは思えないこの声。


 肌が粟立って……。


『有馬君じゃないの?』


「……有馬です」


『有馬君! やっと捕まえたわ』


「……」


『あなた、ポケベルは見てないの! 留守電も無視なの!』


「すみません……。遠出していたもので」


『遠出って、ポケベルも見れないほど?』


 見れない。


『っ、今はそれどころじゃないわね』


「何かあったんですか?」


『ええ、大変な状況よ。今すぐこっちに来てちょうだい』


 もっと詳しく説明してくれ。


「どういう状況なんです?」


『和見家が幸奈さんを壬生家に売ったの。それを阻止しようと武志君が幸奈さんを守っているわ』


 あの父親が幸奈を売った?

 武志が守っている?

 幸奈は?


「幸奈は無事なんですね」


『大丈夫、無事よ』


 よかった!

 幸奈が無事なら、何とでもなる。


 その一言に、粟立ちがおさまっていく。


「それで、今はどこで、どう守っているんです?」


『和見の家にいるはず。そこで能力者から幸奈さんを守っていると連絡があったから』


 ふたりとも和見家にいるんだな。


「古野白さんたちは和見家に向かっているんですね」


『ええ、今向かっているわ』


「……」


 和見の父が幸奈を壬生家に売り、壬生家が異能者を引き連れて幸奈を奪いにやって来た。

 それを武志が防いでいる。

 事情を知った古野白さんたちが和見家に急行中。

 そういう状況か。


 けど、武志には。


「隠していたんじゃないんですか?」


 幸奈と父親との関係は、武志には伝えていない。

 武志も自分の持つ結界の異能を家族に秘密にしているはず。


『詳しいことは分からないけど、知ってしまったようね』


「その上、武志の異能も彼らに知られたと?」


『幸奈さんを守っているということは、そういうことになると思う』


 武志が事実を知り、武志の異能も知られて……。

 状況が一変してしまった。


「厄介なことになりそうですね」


『そうね』


 壬生家の少年伊織が沈黙を守ることで保っていた均衡。

 それが、ここで。

 ここで崩れてしまった。



『でも、今はふたりを助けることが先決よ』


「分かってます」


 当然だ。

 幸奈と武志を助けてから。

 全てはそれからのこと。


 しかし……。


 なぜ彼らはこんな蛮行を?

 機関が幸奈を保護している事実を、今は認識しているはずなのに。


 和見家も壬生家も、国家権力と正面から戦うつもりなのか?

 幸奈にそこまでの価値を認めていると?

 幸奈の異能も知らない彼らが?


 それとも、他に何か考えがある?



『っ!?』


「どうしました?」


『何でもないわ。もう到着するから切るわよ。有馬君も急いで』


「分かりました」





***********************


<フォルディ視点>




「コーキ殿が離れるということですが、我らはこのままで?」


「ふむ。黒と白を認定した以上、我らの行動は決まっておる」


「黒と離れてもよろしいと?」


「二度と戻らぬわけでもない。()の者の回復手段を見つけ次第、戻ってくるはずじゃからの」


 長老の館の一室。

 エンノアの幹部が集まり会議が開かれている。

 議題は、言うまでもなくコーキさん。


「視力を戻す手段を探るなど、難しいのではありませんか?」


「容易ではなかろうの」


「とすると、長期間離れることになると思いますが……」


「「「ゼミア様?」」」


 コーキさんと離れることに不安を抱く者は多い。

 長期間ともなれば、なおのこと。


「スぺリスも皆も、心配は無用じゃ」


「預言……でしょうか?」


「……」


 口にしなくても、祖父のあの表情が雄弁に語っている。


「何も問題はない。エンノアはワディンとともに歩む。今はそれで良い」


 預言の詳しい内容となると口をつぐむことの多い祖父。

 皆も当然理解している。


「不服か?」


「いえ、そういうことでは」


 不服とまでは言わないが、やはり知りたくはなる。

 ここにいる皆も同じ思いだろう。

 とはいえ、長老の言葉は重い。


「……委細承知いたしました」


「ふむ。皆も良いか?」


「「「「はっ」」」」


 頷くしかない。


「して、フォルディよ」


「何でしょう?」


「お主はコーキ殿の傍から離れぬように」


「同行は断られましたが」


 申し込んだ際、やんわりと断られてしまった。


「オルドウに行くのは自由であろう。彼の地でコーキ殿の近くにいれば良い」


「……」


「任せたぞ」


「……はっ!」






いつもお読みいただき、ありがとうございます。


申し訳ありませんが、明日の更新は休ませてもらうかもしれません。

もちろん、余裕があれば更新いたします。


明後日からは通常更新となります。

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― 新着の感想 ―
[良い点]  更新ありがとうございます! 無理はなさらないでくださいね!  コーキを監視!? まさか、カウントが……
[一言] やっぱり大変なことに(;´Д`)
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