第455話 知見
予知で未来が見えたから。
自身の無事な姿を確認したから。
だから、しばらくは危険などない。
今はそれぞれ大切なことのために行動すべき。
そう言い切るセレス様に反論もできないまま、別れの時を迎えてしまった。
が……これでいいのか?
本当に危険はないのか?
予知で見た未来は確定の事実だと?
そもそも、セレス様が俺を安心させようと偽りの言葉を口にしている。
その可能性だって……。
……。
……。
やはり別行動には、抵抗を感じてしまう。
どうしても不安を拭い切れない。
とはいえ、このまま日本に戻らないわけにも。
幸奈のことも、もちろん心配なんだ。
ただ、日本とこちらでは命の重さが違う。
命に関わることなんて、日本ではそうそうあることじゃない。
あの和見家だって、幸奈をみすみす危地に追いやることなどしないだろうから。
……。
……。
よし。
幸奈の安全を確認した後は、セレス様の様子を見るために一度エンノアに戻ろう。
それからのことは、その時のこと。
状況次第だ。
「コーキさん、聞いてますか!」
「えっ? あっ、はい」
しまった。
ちゃんと聞いてなかったぞ。
「嫌な予感がするんです。幸奈さんに何かが!」
「!?」
嫌な予感?
幸奈に?
どういうことだ?
「それは予知でしょうか?」
「予知ではありません。ただ、何となく感じるんです。おそらく、幸奈さんと入れ替わったことが影響しているのではないかと」
世界を跨いで感じる?
そんなことが?
いや、でも、世界を渡って入れ替わったふたりだ。
通じるものがあってもおかしくはない、のか?
「……幸奈の身に危険が迫っているのを感じるんですね」
「危険かどうかは分かりません。ですが、嫌な感じがするんです」
「……」
危険と決まったわけじゃないが、幸奈の近くで何かが起きて!
セレス様の感覚が正しいなら、そういうことになる。
「ですから、早く!」
「分かりました」
急ごう。
幸奈のもとへ。
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<メルビン視点>
「そろそろ、我らもこの地を去るとしよう」
「……コーキさんがエンノアを出たからですよね」
「……」
言うまでもない。
「まあ、あの人がいないんじゃ、面白味も半減するからなぁ」
「今後はエビルズピーク、ミルトの調査になる」
「はあ~、また屋根なし生活かよ」
「テントなんだから屋根はあるでしょ」
「そういうことじゃねえって。エレナは機微ってものを勉強した方がいいぞ」
「なっ、ランセルの言いたい事くらい分かってるわよ。あなたこそ、皮肉にも気づけない頭をどうにかしなさい」
「お前のそれは皮肉じゃねえだろ!」
「あんた、分かんないの!」
「分かってらぁ!」
元気なやつらだ。
本当にいいムードメーカーだよ。
朝っぱらじゃなければな。
「それくらいにしとけ」
すぐに出発する。
長く滞在したここを引き払う時間も、それなりに必要だ。
「四半刻後にここを出る。各自、用意してくれ」
「「「「「「おう」」」」」」
エレナとランセルはまだもめているが、他のやつらは準備に取り掛かっている。
「おめえら、早くしねえと間に合わねえぞ」
「っとに、仲いいよな」
「もう結婚しろよ」
「なっ! こいつとは、そんなんじゃねえ!」
「そうよ、誰がこんなバカと」
「バカはエレナだろ」
「あんたよりマシでしょ」
「俺のが上だ!」
「分かった、分かった。仲がいいのか分かったから、先に準備しろって」
「……」
「……」
去るとなっても、いつもと同じ。
戦闘でも調査でも変わりはない。
余程のことがない限り、揺らぐこともない。
頼もしい連中だ。
ボスの眼鏡にかなうだけのことはある。
ただ、この騒々しさだけは……。
都度都度これじゃあ、疲れてしまう。
何とかならないのか?
こっちはイリアルじゃない。
うるさいのは苦手なんだ。
イリアルと違って……。
あいつ、カーンゴルムでしっかりと働いているんだろうな。
まさか、遊び呆けているんじゃ?
イリアルなら、あり得る。
特に今回はローンドルヌ、トゥレイズ、テポレンと忙しく駆けずり回った後だ。
伸ばした羽根が戻らない可能性も十分。
はぁ。
黒都に戻るのが億劫になってくる。
……。
……。
まあ、今回は。
この案件については悪くなかったか。
エンノアの地で、収穫を得ることができたからな。
たいした動きをすることもなく、これだけの知見を得たんだ。
最上とは言えずとも、優良と考えてもいいだろう。
しかし……。
死を避ける存在。
いや、死が避ける存在か。
そんなものが実在するなんて、ボスの言葉でも信じられなかったが。
こうして目の当たりにしてしまうと、信じざるをえないな。
もちろん、強硬な手段に対しても同じだけの回避力が発揮されるかというと?
それは定かじゃない。
とはいえ、もう充分。
ボスも納得してくれるだろう。
***********************
「異世界間移動!」
久しぶりの感覚。
僅か数瞬感じるだけだというのに、この安心感。
不思議なものだ……。
「ふぅぅ」
戻ってきたのは自室。
ひとり暮らしの部屋。
ここにも懐かしさを……。
そんなものを感じるほど、ここで暮らしていないのに。
「……」
と、そんなことより。
幸奈はどうしているか?
それが問題だが……和見家を訪れる前に電話かな。
まずは電話をするべく、受話器を取ろうとしたところ。
点滅している。
伝言を預かる留守番電話機能。
この時代の俺にとっては重要な連絡手段。
ただ……。
……。
この光を見ていると、記憶の蓋をこじ開けられてしまう。
思い出してしまう。
幸奈が倒れたというあの伝言を。
今まさに幸奈に連絡を取ろうと思っている、この瞬間。
セレス様の嫌な予感。
……。
……。
……。
この作品とは全く違うテイストになっている短編ですが、
手に取っていただけると大喜びしますので!!
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