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30年待たされた異世界転移  作者: 明之 想
第9章  推理篇
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第452話  治療 9



 寝台に横たわるディアナ。

 その顔は、ニレキリの毒で亡くなったとは思えないほど穏やかなもの。

 今にも起き出してきそうなほど。


 けれど、もう起きることはない。

 動いてはくれない。

 永遠に……。


 その傍らで、沈黙だけが流れていく。


「……」


「……」


「……」


「……」


 俺は……。


 気が緩んでいたのか?

 何度も危機を乗り越えて、警戒感が薄れていた?

 だから、防ぐことができなかった。


 ……。


 あの時、水桶を持って寝室を出なければこんなことにならなかったのに。

 もっと注意していれば、ディアナの微妙な変化に気付けたはずなのに。

 今はもう時間遡行で戻ることはできないのに。


 次から次へと後悔が押し寄せてくる。

 慚愧の念が膨れ上がっていく。


 セレス様、ユーフィリア。

 ディアナと共にいたふたりも……。


 ……。


 ……。


 動くこともできず過ぎた時間はどれくらいだっただろう。

 5分か10分か?

 分からない……。


 どこまでも続くと思ってしまうほどの重い沈黙。

 それが破られたのは。


「っ!? 姉さん!!」


 アルの叫び声。


「姉さん、姉さん!!」


 その声に皆の視線がシアへと向かう。


「「シア!」」


 顔面蒼白で息も荒い。

 容態がまた悪化している!


「コーキ、治癒だ。治癒魔法を頼む!」


「ああ」


 分かってる。

 もう発動済みだ。


「はあ、はあ……」


「シア、しっかりして、シア! あなたまで、そんな……」


 悲壮な表情を見せるセレス様。

 アルもヴァーンも尋常じゃない。


 今はディアナを失ったばかり。

 最悪の事態が頭を過るのも当然。


 けど、そんなことは起こさせない。

 必ず防いでやる。


「はあ、はあ……さむい……」


「シア、シア!」


 今のシアの状態が大量の失血によるものなら、俺の治癒魔法ですぐに完治させることはできないだろう。

 が、症状を和らげることはできるはず。


 ただ、その和らいだ症状も時間が経てばまた悪化するかもしれない。


 ……。


 だから、どうだというんだ!

 繰り返せばいい。

 何度でも治癒魔法を使えばいい!


 それに今は使えないセレス様の祝福も使えるようになる。

 そうすれば、きっと!


「シア、おまえは絶対いかせねえぞ。コーキ、魔法薬も頼む」


「少し落ち着いてから、飲ますんだ」


 収納から取り出した低級魔法薬をヴァーンに。


「分かってらあ」


 そうだな。

 シアの症状はさっきと同じ。

 それは、ヴァーンも分かっているんだろう。


「……ごめんなさい。まだ祝福は使えそうにありません」


 セレス様。

 それは想定済みですよ。


「大丈夫です。ここは任せてください」


「コーキさん……」


「ですが、使えるようになったらお願いします」


「はい! もちろんです」


 よし。

 なら、今は治癒魔法に集中するのみ。


 さっきと同様に最高、最良の魔法を。

 いや、それ以上の魔法治療を!


 ……。


 ……。



「はあ、はあ……」


「シア」

「姉さん」


「……セ、レス様。アル」


 苦しそうに呼吸を続けるシア。

 ただ、その目には力強い光が見える。

 この状態なら。


「シア、魔法薬だ。飲めるか?」


「う、うん」


 魔法薬も口にした。

 治癒魔法も万全。


 問題はない。

 大丈夫だ。




 この後、治癒を続けることで今回の症状悪化は無事に治まったのだが……。

 俺の想像通り、悪化と回復を繰り返すことに。


 そんなシアを治癒魔法と低級魔法薬、そして回復したセレス様の祝福で断続的に治療すること6刻(12時間)。



 翌日の昼には、症状が悪化することもなくなってきた。


 何がどう作用して、シアの身体の中で何が起こったのか分からないが、出血性ショックによる影響も治まったと考えていいんじゃないだろうか。


 血色の良い顔で安らかな寝息を立てるシアを見ていると、そう思えてくる。


「コーキ、もう大丈夫だよな」


「断言はできないが、ここから悪化することはないと思う」


「そうか……」


「よかった、シア」


 徹夜で疲れた皆の顔に安堵が浮かんでいる。

 もちろん、俺もそうだ。


「コーキさん、セレス様、姉さんを助けてくれてありがとう。感謝します」


「俺からも礼を言わせてくれ。セレスさん、コーキ、本当に感謝している」


 ずっとシアの傍についていたアルとヴァーン。

 緊張が解けたような様子で、これでもかというくらい頭を下げている。


「シアを助けたい気持ちは、皆一緒ですよ」


「でも……感謝していますから」


「いいのよ、アル。そうでしょ、コーキさん」


「もちろんです。アル、ヴァーン、今は皆で喜べばいい」


「ああ……そうだな」


 昨夜の凶行からずっと続いていた張りつめたような空気。

 それが緩和していく中。


「うぅ……」


「シア、目が覚めたのか?」


 ずっと眠っていたシアが覚醒した。


「ヴァーン……?」


「どうした、調子が悪いのか?」


「大丈夫、身体はもう平気。でも……」


「なんだ?」


「見えない……」


「何?」


「何も見えない。目が見えないの!!」





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― 新着の感想 ―
[良い点]  な、何ぃ!?   シアの視力は戻るのでしょうか……心配
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