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30年待たされた異世界転移  作者: 明之 想
第9章  推理篇
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第449話  治療 6


<セレスティーヌ視点>




「それと……シア殿に謝罪を……ゴホッ、ゴホッ! ユーフィリアお願い」


「分かった。それは分かったから。ディアナ、弱気にならないで!」


「はあ、はあ……セレスティーヌ様、ユーフィリア、私は……」


「ディアナ!」


「ゴホッ、ゴホッ!!」


 っ!?


 駄目。

 これでは無理。

 祝福だけで、ディアナを助けることができない。


 それなら。


「コーキさん!」


 魔法薬と治癒魔法を。

 祝福と同時に使えば、まだ可能性があるはず!


 ただ、シアの様子は?


「……分かりました。こっちは少し落ち着いてきましたので、ディアナの治療を手伝います」


 よかった。

 シアの容態が改善しているのね。



「これを飲めるか?」


 ディアナの傍らで治癒魔法を発動したコーキさんが、魔法薬をディアナに手渡したけれど。


「ゴホゥ、ゴホゥ……うぅ」


 ディアナの症状がそれを手に取ることを許してくれない。


「私が飲ませる」


 自分で飲むことができないディアナに代わり、魔法薬を受け取ったのはユーフィリア。


「ディアナ、飲んで!」


 すぐさま、ディアナの口元に運んでいる。


「……意味がない、ゴホゥ」


「意味はある。さっき、魔法薬が効いたでしょ!」


「……」


「飲んで!」


「ゴホッ……分かった」


 祝福に治癒魔法に魔法薬。

 3つが揃った。


 この治療で何とかディアナを!


「……」

「……」

「……」


「ゴホッ、ゴホッ!」


「……」

「……」

「……」


 ディアナの咳の音が不規則に時を刻む。

 それ以外は、まったくの無音。


 この寝室が地に沈み込むように、溶け込むように、重量を伴った静けさが私たちを押し込んでくる。


 そんな中、懸命の治療を続けていく3人。


「ゴホゥ!!」


「……」

「……」

「……」


 時間の感覚が消え。

 時が静寂の重さに耐えきれず、沈殿していくよう。


 私は……。

 無を通り越し、心音が耳鳴りのように響いてくる。


「……」

「……」

「……」


 そのまま色の消えた時間が過ぎ……。




「ディアナの咳が治まってきたんじゃないか。喀血も止まってるぞ!」


 ヴァーンさんの声に我に返ると。


「……」


 確かに、ディアナの症状に改善が見える。


「ディアナ、気分はどう?」


「……咳が止まってきました」


「よかった、ディアナ!」


「……ニレキリの毒を解毒、できる?」


 楽になっているはずなのに、戸惑いの表情を見せるディアナ。


 でも。

 ディアナとシア、ふたりとも助かる!

 希望の光が見えてきた。


 やっと希望が!


 暗闇が薄れ、はっきりと光を感じた瞬間。


「……魔法薬が切れました」


 ユーフィリアの焦りを帯びた声。

 使っていた魔法薬がなくなっただけなのに、不安を覚えてしまう。


「コーキさん、魔法薬はまだありますよね?」


「……申し訳ありません。高級魔法薬はそれで最後です。あとは、低級の薬が数本あるだけで」


「……」


 不安は的中。

 高級魔法薬がなくなってしまった。


「低級でも効果はあるはずです。貸してください!」


 そうだ。

 ユーフィリアの言う通り、低級でも効果はあるはず。

 希望は消えていない。


 実際、ここまで症状は改善しているのだから。

 大丈夫!


 だから、もっと祝福を。

 強い祝福を!


 そう思い力を込めた次の刹那。


「あっ!?」


 何?


 足下が揺れ、目の前のディアナがゆがんでいる。

 頭の芯がぐるぐると回っている。


「セレスティーヌ様?」


 声が細い。

 上手く聞きとれない。


「セレス様!」


 急激に力が抜けていく。

 目の前が霞んでしまう。


 あまりのことに、目を閉じて……。


 これは……。


 祝福の過剰使用?

 スキルを使い過ぎた?


「うっ!」


 ああ……。

 座っていることもできない。

 大事な時なのに!


「セレスティーヌ様!」

「セレス様!」

「セレスさん!」


 みんなの声がくぐもって、よく聞こえない。

 でも、気持ちは伝わってくる。

 しっかりと強く!


「……祝福、使い過ぎ……少し、休みます」


 分かってる。

 今は休んでいる場合じゃない。


 けど……ごめんなさい。

 もうこれ以上、抵抗できそうにないから。


 だから、少しだけ……。


「セレスティーヌ様!!」


「……」


 誰かの叫び声が闇の中に消えていく。

 そして、私は……。


 意識を手放してしまった……。






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[良い点]  セレス様が起きた時にはどうなっているのか…… [一言]  更新お疲れ様です!
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