第449話 治療 6
<セレスティーヌ視点>
「それと……シア殿に謝罪を……ゴホッ、ゴホッ! ユーフィリアお願い」
「分かった。それは分かったから。ディアナ、弱気にならないで!」
「はあ、はあ……セレスティーヌ様、ユーフィリア、私は……」
「ディアナ!」
「ゴホッ、ゴホッ!!」
っ!?
駄目。
これでは無理。
祝福だけで、ディアナを助けることができない。
それなら。
「コーキさん!」
魔法薬と治癒魔法を。
祝福と同時に使えば、まだ可能性があるはず!
ただ、シアの様子は?
「……分かりました。こっちは少し落ち着いてきましたので、ディアナの治療を手伝います」
よかった。
シアの容態が改善しているのね。
「これを飲めるか?」
ディアナの傍らで治癒魔法を発動したコーキさんが、魔法薬をディアナに手渡したけれど。
「ゴホゥ、ゴホゥ……うぅ」
ディアナの症状がそれを手に取ることを許してくれない。
「私が飲ませる」
自分で飲むことができないディアナに代わり、魔法薬を受け取ったのはユーフィリア。
「ディアナ、飲んで!」
すぐさま、ディアナの口元に運んでいる。
「……意味がない、ゴホゥ」
「意味はある。さっき、魔法薬が効いたでしょ!」
「……」
「飲んで!」
「ゴホッ……分かった」
祝福に治癒魔法に魔法薬。
3つが揃った。
この治療で何とかディアナを!
「……」
「……」
「……」
「ゴホッ、ゴホッ!」
「……」
「……」
「……」
ディアナの咳の音が不規則に時を刻む。
それ以外は、まったくの無音。
この寝室が地に沈み込むように、溶け込むように、重量を伴った静けさが私たちを押し込んでくる。
そんな中、懸命の治療を続けていく3人。
「ゴホゥ!!」
「……」
「……」
「……」
時間の感覚が消え。
時が静寂の重さに耐えきれず、沈殿していくよう。
私は……。
無を通り越し、心音が耳鳴りのように響いてくる。
「……」
「……」
「……」
そのまま色の消えた時間が過ぎ……。
「ディアナの咳が治まってきたんじゃないか。喀血も止まってるぞ!」
ヴァーンさんの声に我に返ると。
「……」
確かに、ディアナの症状に改善が見える。
「ディアナ、気分はどう?」
「……咳が止まってきました」
「よかった、ディアナ!」
「……ニレキリの毒を解毒、できる?」
楽になっているはずなのに、戸惑いの表情を見せるディアナ。
でも。
ディアナとシア、ふたりとも助かる!
希望の光が見えてきた。
やっと希望が!
暗闇が薄れ、はっきりと光を感じた瞬間。
「……魔法薬が切れました」
ユーフィリアの焦りを帯びた声。
使っていた魔法薬がなくなっただけなのに、不安を覚えてしまう。
「コーキさん、魔法薬はまだありますよね?」
「……申し訳ありません。高級魔法薬はそれで最後です。あとは、低級の薬が数本あるだけで」
「……」
不安は的中。
高級魔法薬がなくなってしまった。
「低級でも効果はあるはずです。貸してください!」
そうだ。
ユーフィリアの言う通り、低級でも効果はあるはず。
希望は消えていない。
実際、ここまで症状は改善しているのだから。
大丈夫!
だから、もっと祝福を。
強い祝福を!
そう思い力を込めた次の刹那。
「あっ!?」
何?
足下が揺れ、目の前のディアナがゆがんでいる。
頭の芯がぐるぐると回っている。
「セレスティーヌ様?」
声が細い。
上手く聞きとれない。
「セレス様!」
急激に力が抜けていく。
目の前が霞んでしまう。
あまりのことに、目を閉じて……。
これは……。
祝福の過剰使用?
スキルを使い過ぎた?
「うっ!」
ああ……。
座っていることもできない。
大事な時なのに!
「セレスティーヌ様!」
「セレス様!」
「セレスさん!」
みんなの声がくぐもって、よく聞こえない。
でも、気持ちは伝わってくる。
しっかりと強く!
「……祝福、使い過ぎ……少し、休みます」
分かってる。
今は休んでいる場合じゃない。
けど……ごめんなさい。
もうこれ以上、抵抗できそうにないから。
だから、少しだけ……。
「セレスティーヌ様!!」
「……」
誰かの叫び声が闇の中に消えていく。
そして、私は……。
意識を手放してしまった……。





