第447話 治療 4
「私の責任だ」
「そうだな。ユーフィリア、お前の責任でもある!」
「……分かっている」
「おい、まさか、おめえらが共謀したんじゃねえだろうな?」
「そんなことは、していない!」
「ユーフィリアは無関係だ! 全て私ひとりでやった……ゴホッ……それは本当……ゴホッ!」
「あんな凶行の後に、それを信じろってか? 虫のいい話だぜ。こっちは、シアの命が危なかったんだぞ」
「……」
「ちっ! とりあえず、動機を話せ。全てはそっからだ、ディアナ!」
「……」
「黙ってねえで、さっさと喋りやがれ!」
「ゴホッ、ゴホゥ!!」
症状は緩和しているが、それでも咳は治まらない。
やはり、完全に解毒するのは難しいのか?
「ヴァーンさん、動機については私には分かっています」
「セレスさんが?」
「ええ。ですから、今は治療に専念させてください」
ディアナが動機を明かそうとしない以上、話も進まないと思っていたが。
セレス様は動機に心当たりがあると?
「……」
「詳しい話は、ディアナを助けてからです!」
「……分かりましたよ。セレスさんに、任せますよ」
「ありがとう、ヴァーンさん」
「いや、まあ……」
「ディアナ、そういうことです。なので、あなたは大人しく治療されていなさい」
「ですが……私はセレスティーヌ様を手にかけようとしました」
「そんなこと、分かっています」
「……」
「それについても、後で話しましょう」
「セレスティーヌ様……」
「……」
「……」
自分の命を狙った相手を助けるために、ひたすら祝福を続けるセレス様。
これまでのディアナとの関係があるとはいえ、この献身ぶりは……。
「ゴホッ、ゴホッ……セレスティーヌ様……」
「……」
「……申し訳ありませんでした」
「ディアナ?」
「申し訳ございませんでした、セレスティーヌ様」
祝福を受けながら頭を下げるディアナ。
「今謝るのですか?」
「……申し訳ありませんでした」
「……」
「……」
「……善悪はどうあれ、あなたも信念あってのことでしょ」
「全ては独りよがりの情念に過ぎません。それを抑えられなかったのは、私の心の弱さゆえです」
「……」
「ディアナ、それが分かっていて、どうして? どうして私に相談してくれなかった?」
「ユーフィリア……すまなかった」
「謝ってほしいんじゃない。……そんなに冷静に考えられるのに、どうして?」
「なぜか……時折、自分を制御できなくなるんだ。けど、それも言い訳だな」
「ディアナ……」
「……」
「……」
「ゴホッ!! ゴホッ、ゴホゥ、ゴホゥ!!」
これまでにない激しい咳込み。
口を抑えた手の間からはおびただしい鮮血!
また喀血が!
「ディアナ!」
「ディアナ!」
「はあ、はあ……無理みたいです」
「大丈夫、祝福で解毒しますから。それに、コーキさん、魔法薬を!」
セレス様に促されるようにして、ディアナに魔法薬を手渡す。
「飲んでくれ」
「……」
セレス様を助けることができなかった魔法薬に、どこまでの効果があるかは分からない。
ただ、祝福との相乗効果があるなら可能性も?
「ゴホッ……ニレキリの毒を大量に飲みました。だから、もう……」
「いいから飲みなさい!」
「ディアナ、飲んで!」
「……」
セレス様とユーフィリアの剣幕に押されて魔法薬を口にする。
効果は……少しはあるように見えるな。
「ディアナ、あなたの今回の凶行をすぐに許すことはできません。ですが、あなたは私の騎士です。ここで休ませるつもりはありませんよ。まだ働いてもらわねば困ります。だから、頑張るんです!!」
「セレスティーヌ様……」
「毒に負けては駄目! ディアナ!」
「……」
「……ゴホッ!」
また激しい咳が。
「ゴホッ、ゴホッ、ゴホゥ!!」
喀血も!
「私は……ゴホッ……幸せでした」
「何言ってるの、ディアナ!」
「セレスティーヌ様に……お仕えできて……私は……」
「駄目です! まだ、あなたには……」
「ゴホッ、ゴホッ!!」
「ディアナ、ディアナ!!」
「ユーフィリア……ありがとう。ユーフィリアがいてくれたから私は……」
「ディアナ、しっかりして、ディアナ!」
「そうです。祝福で治してあげますから!」
祝福で好転しかけていたディアナの容態も、今は……。
やはり、ニレキリの毒は解毒できないのか!
流れ始める陰々たる空気。
そんな重い雰囲気の中。
「コーキさん、姉さんが! 姉さんの様子がおかしい!!」
なっ!?
シアが?
無事に治療を終えていたはずなのに!
何が?





