第445話 治療 2
ディアナがセレス様襲撃の犯人だった。
俺が警戒していたから、これまで実行できなかった。
そういうことなのか?
「全ては嘘で、おめえは裏切り者なんだろうが!」
「違う……」
「違うなら、何か言ってみろ!」
「……」
「言えねえじぇねえか」
ただ、この様子。
口を閉ざしたディアナの様子に、嘘はないように見えてしまう。
「ディアナの忠誠心は本物。ヴァーン、それだけは私が保証する」
「どうしてお前がそんなこと言える、ユーフィリア!」
「5年以上ディアナと護衛騎士を務めてきた。そこに嘘はなかったからだ」
「全部芝居だったんだろ」
「違う」
「何が違う? そもそもお前だって疑われてんだぞ、ユーフィリア」
「ディアナも私も、セレスティーヌ様に対して二心など持っていない」
決然と言い放つユーフィリア。
彼女がここまで言うのなら、やはり……。
これは、ニレキリの毒の件も含め、詳しく話を聞く必要がありそうだな。
「二心ないやつが、こんなことすんのかよ!」
「それは……忠義とは別の話、だと思う」
「何言ってやがる」
「もういい! 今は忠義なんて関係ない! 事実として、セレス様を狙って、姉さんを傷つけたんだから!」
アルの顔は怒りに溢れている。
「その通りだ! 許せるもんじゃねえ!」
「分かってる。ただ、ディアナの忠義は本物だった」
「だから、忠義なんてどうでもいいんだよ」
「……」
「ユーフィリア、もういい。私がセレスティーヌ様を害そうとしたのは事実だから」
「ディアナ……」
「裏切り者だと認めんだな」
「……」
俯き黙り込むディアナ。
射殺さんばかりの目で睨みつけるヴァーンとアル。
……。
……。
そこにセレス様の声が。
「コーキさん、もうすぐ祝福が終わります。準備を!」
そうだ。
まずはシアの治療をしなきゃいけない。
ディアナの詰問は後でいい。
「承知しました」
セレス様の治療を受けたシア。
その顔色は……良くなっている。
祝福がかなり効いているぞ!
よし!
この祝福後に剣を抜き、魔法薬を使えば!
……と?
「ゴホッ!」
なっ!?
「ゴホッ!」
……咳だ。
「ゴホッ、ゴホッ……ゴボッ!!」
咳と……喀血!!
「おい! どうした!?」
「ディアナ!」
セレス様じゃない。
ディアナが血を!
「ゴホッ、ゴホゥ!!」
「ディアナ、お前、今度は何しやがった!」
この症状は、ニレキリの毒!
「ヴァーン、毒だ。毒を飲んだんだ」
「な、んだと! てめえ、自決のつもりか!」
「ゴホッ……もう、生きている価値も、意味も、無い……ゴホッ」
「この野郎……」
「ゴホッ、ゴホゥ!!」
このまま死なせるわけにはいかないが、ニレキリの毒に対処なんてできない。
俺の力ではどうにも……。
「コーキさん、祝福が終わりました」
このタイミングで!
けど、今はシアの治療が最優先。
「……了解です」
「コーキさん、ディアナはあの毒ですよね」
そうか。
セレス様は幻視で毒の症状を見ているんだった。
「だと思います」
「分かりました。ディアナは私に任せてください」
セレス様の祝福!
確かに、今のセレス様ならニレキリの毒を抑えることも可能かもしれない。
「コーキさんは、今はシアを!」
成否は分からないが、やることをやるだけ。
最善を尽くすのみ、だな。
「了解!」
「ゴホッ、ゴホッ……セレスティーヌ様?」
「祝福で治療します」
「ゴホッ……不要です。私はあなたを狙ったのですよ……ゴホッ!!」
「それでも治療します」
「……」
「セレスさん、いいのかよ」
「セレスティーヌ様?」
「先ほどの凶行は許せるものじゃありません。けれど、だからといって、ディアナを見捨てることもできません」
「……」
「これまでの全てが消えるわけではありませんから」
「セレスティーヌ様……ゴホッ、ゴホゥ!!」
「話は後です。今は大人しく治療されなさい」
「……」
シアを包んだ温もりと同じ温もり。
それがディアナをゆっくりと包み込んでいく。
ニレキリの毒にも対抗できる。
そう思わせてくれる温もりだ。
……。
こっちも始めよう。
「シア、始めるぞ」
「先生……お願いします」
「シア!」
ディアナをセレス様に任せたヴァーンがシアの傍らに。
シアの右手を両手で包み、励まそうとしている。
「ヴァーン……」
「必ず助けてやるからな、シア。頑張るんだ!」
「……うん、ありがと、ヴァーン」
今のシアは小康状態。
ここで剣を抜き、傷口に魔法薬をかければ出血を最小限に留めることができるだろう。
なら、助けることも可能。
そのはずだ!
「……抜くぞ!」
「はい」





