第444話 治療
「シアぁぁ!!」
セレス様の絶叫を耳にして飛び込んだ寝室。
目に入ってきたのは、信じがたい惨状だった。
「シア!!」
蒼白な顔で悲痛な声をあげるセレス様、そして……。
「シア、シア!!」
真っ赤に染まったシアの姿!
「セレス様……無事で良かった」
溢れ出る鮮血の中、その胸には剣が突き立っている。
その剣はディアナの愛剣?
「させ、ません!」
「くっ!」
剣を胸から引き抜こうとするディアナに抗うように、 剣身に両手を添え離そうとしない……。
シアとディアナと、セレス様……。
現実とは思えない眺めに思考が麻痺していく。
「なっ!? シア!!」
「姉さん!?」
「!?」
俺に続いて寝室に駆け込んできた3人。
驚愕の光景を前に凍りついて……。
俺も……。
「ディアナ、何てことを!!」
ディアナ……!
そうだ。
ディアナが!!
セレス様の声に、その事実に、麻痺が消え思考が戻ってくる。
「ディアナ、お前……」
どうして彼女が?
なぜ、こんなことを?
いや、それより。
「っ!!」
治療だ。
今は、すぐに治療を!
「セレス様、祝福の準備を。ヴァーン、ディアナを取り押さえろ」
「「!!」」
俺の声に弾かれたように動き出すヴァーンとアル。
ユーフィリアもディアナの前に。
剣から手を放し呆然と立ち尽くすディアナを3人が拘束。
俺はシアを抱え、治癒魔法を!
「コーキ、シアを! 頼む、助けてくれ!!」
「早く姉さんを!!」
ああ。
もう発動済みだ。
けど、これは……。
剣が胸を貫通した状態。
内臓の損傷は免れない。
「コーキさん、大丈夫ですよね! シアは助かりますよね!」
シアの傍らには俺とセレス様。
「……ええ」
かなり危ない状況だが……。
最善を尽くすしかない。
「必ず助けましょう!」
幸いなことに今は治癒魔法と魔法薬に加え、セレス様の力が使える。
セレス様がニレキリの毒に害された時とは、そこが大きく違う。
「セレス様、祝福の準備はできていますか」
「はい。いつでも使えます。でも、剣を抜かなくても?」
「……」
そう、問題はそれだ。
けど、今は。
「……治療を進めながら抜きますので」
剣を抜くと、大量の出血は避けられない。
大量の失血は命に直結する。
とはいえ、剣が刺さった状態で治療を終えることも不可能。
とにかく慎重に!
細心の注意を払いながら進めなければ!
「では、このまま治療を?」
「はい。お願いします」
俺の中途半端な治癒の知識では、正直何が正解かは分からないんだ。
だから、治療しながら失血を防げるタイミングを見計らって抜くしかない。
「分かりました。治癒魔法が終わったら、教えてください」
「承知しました」
こうして喋りながらも発動を続けている治癒魔法。
それも、もうすぐ完了する。
そこで、セレス様が祝福を使い、魔法薬を!
頑張ってくれ、シア。
「セレス、さま……」
「シア、大丈夫ですよ。必ず助けますから! 今から祝福を使いますから!」
「ありが、とう……ございます」
「無理して喋らなくていいの。あなたは休んでいればいいから」
「はい……」
儚げな笑みを浮かべるシアの顔色は……良くない。
傷口は少しずつ塞がってきているのに。
やはり、内臓の損傷と失血の量が!
「シア……」
この世界では定かじゃないが、一般的に人は血液の20%程度失うと失血性ショックで危険な状態に陥る。
シアの体重から考えると、1リットルの失血でも危ないはず。
今は既にかなりの量の血を失っている状態……。
とにかく、出血を止めないと!
魔法や薬で血を補うことなどできないのだから。
「……セレス様、祝福をお願いします」
「はい」
祝福発動!
と同時に、シアの体の周りの空気が優しい色を帯び……。
空気が舞い踊って……。
これは……祝福の力が上がったのか?
いいぞ!
ついてる!
「セレス様……あたたかい……」
これまでに見たことのないような優しく温かい空気。
間違いない。
最高の祝福だろう。
「……」
暖色の空気に覆われるシア。
まるで祝福という繭にくるまれているよう。
このまま進めば上手くいく。
剣を抜き、そこに魔法薬を使えば何とかなる!
そう思えるほどの祝福の力強い温かさ。
その中でゆっくりと着実に治療が進んでいき……。
……。
……。
「コーキ、シアは大丈夫だよな!?」
ディアナを抑えたままのヴァーン。
その顔は,シア以上に色を失っている。
「……セレス様が祝福で治療中だ」
「だから、助かるんだよな?」
「コーキさん、姉さんは?」
「……助けてみせる!」
「そうか……」
「ああ」
ただ、今はセレス様に任せるしかない。
「シア殿は?」
ヴァーン、アル、ユーフィリアに拘束されたディアナ。
「シア殿は助かるのか?」
「どの口が言う! おめえが、やったんだろうが!」
「……すまない。シア殿を傷つけるつもりはなかった」
「どういうことだ?」
「……本当に申し訳ない」
「だから、どういうつもりなんだと聞いてる!」
「……」
「ディアナさん、教えてくれ」
「シア殿が……セレスティーヌ様の身代わりに……」
やはり……。
ディアナが……。
「おめえ、セレスさんを狙ったのか!」
「……」
「襲撃者はお前だったんだな、ディアナ」
「それは……」
「ちっ! おめえが汚ねえ裏切り者だったとはな。これまでのことは全て嘘だったのかよ」
「違う! それは違う……」
「何が違うんだ」
「……」





