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30年待たされた異世界転移  作者: 明之 想
第9章  推理篇
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第443話  大切なモノ


<シア視点>




「水桶を外に運んでもらえるか?」


 ディアナさんの言葉に先生が頷き、水浴び用の水桶を持って寝室の外に出て行く。

 ヴァーン、アル、ユーフィリアさんと一緒に。


 あの水桶はわたしが両手を広げてやっと持てるくらいの大きさ。

 非力な女性が運ぶのは大変なので、先生がいる時はいつも運び出してもらっている。


 だから、おかしなことなんてない。

 何もない。

 それなのに、この胸騒ぎは?

 この不安は?


 分からないけど……。


 こういう時は自分の感覚を信じるべき。

 そう、感覚を信じよう。


 人の感覚は時として知識や思考を越えていくと。

 常識では測れないほどの情報量を感覚が捉えることがあると。

 先生に教えてもらったから。


 教え通りに気を緩めず、周囲に意識を!



「……セレスティーヌ様、彼を信じているのですね」


「先ほども言ったように、信じています。信頼に値することをコーキさんはしてくれましたので」


「実績でしょうか?」


「ええ」


「それだけではありませんよね?」


「……」


 ディアナさん?

 どうしたのだろう?

 いつもと違う。


 ディアナさんがセレス様にこんな表情で話しかけるなんて。


「そんなに大事なのですか?」


「……大切な人です」


「ワディンよりも?」


「それは……比べるものではありません」


「では、ユーナス様よりも?」


 どうして、その名前を?


「っ!?」


 セレス様が驚いている。

 わたしもだ。


 だって……。


 幼い日のセレス様があにさまと呼び、誰よりも慕っていた人。

 誰よりも信頼していた人。


 そして……。


 セレス様から笑顔を奪ったあの事件で命を落とした騎士。

 セレス様の元側仕え兼護衛騎士、ユーナス様の名前なのだから。



「ユーナス様よりも大切なのですか!」


「……」


「大切なのですね」


「……そう、かもしれません」


「ユーナス様よりも…………あぁぁ!!」


 えっ?

 いきなり何?


「ああぁぁ……」


 喉を締めつけられたように漏れ出す悲痛の声。

 ディアナさん!?


「ディアナ、どうしたのです? ディアナ!」


「ぁぁ……」


 嗚咽を漏らしながら、頭をかきむしっている!

 今にも胸が張り裂け潰れそうな様子に、ディアナさんに向けていたわたしの足が止まってしまう。


「……」

「……」


 時間が止まってしまう。




「……聞きたくなかった」


「ディアナ?」


「あなたの口から、それを聞きたくなかった」


「ディアナさん?」


 本当に何があったの?


「セレスティーヌ様……あなたのことが大切だった。本当に大切だと思っていました」


「……」

「……」


「その思いに、私の心に、偽りなどなかった」


 分かっています。

 ディアナさんがセレス様を大切に思っていることは。


「……だけど、それより大切なのはユーナス兄様。私の最愛の人!」


 ユーナス様がディアナさんの兄!

 違う家門なのに?


「何より大切なお兄様を、あなたが殺した……」


「……」


「大切なあなたが、かけ替えのないものを私から奪ってしまった」


 ディアナさん、それは違う。


「あれは事故なんですよ!」


「シア、いいの。私の責任だから」


「セレス様……」


「……それでも、あなたのことが大切だった。お兄様にあなたのことを頼まれてもいた」


「……」


「何より、あなたがお兄様のことを想っていると知っていたから! だから私はこれまで……」


「ごめんなさい、ディアナ。今さらだけど、ごめんなさい」


「謝罪なんていりません」


「ディアナ……」


「ただ、そのままでいてくれたら……」


「……」


「けど、あなたは変わってしまった!」


「セレス様は変わってません! ずっと優しいセレス様のままです」


「……」


 セレス様とユーナス様、ディアナさんの間にはわたしが知らない事情がある。

 それは間違いない。


 でも、ちゃんと話せば誤解も解けるはず。


「だから、少し落ち着いてください。ねっ、ディアナさん」


「セレスティーヌ様……。あなたが選んだのはお兄様ではなく、あの冒険者。知り合って間もない冒険者だ!」


 駄目!

 わたしの声が届いていない。


「……ユーナスあにさまは私にとって大切なひとです。これまでも、これからもずっと」


「それなら、どうして彼を! 彼を選ぶのです!」


「……」


「もう駄目です。もう、私には無理ですよ」


「……」


「無理です、お兄様……」


「ディアナさん、お願い、落ち着いて!」


「あっちで謝罪してください!」


 えっ!?

 ディアナさんが剣を抜いた!


「!?」


 まさか、そんなこと!


 っ!


 セレス様が固まっている!

 わたしも、強張って……。


 強張ってるけど、動ける!

 備えていたから!


「お覚悟!!」


「セレス様、危ない!!」


 ディアナさんの突き出した剣の前に飛び出し……。


 ザン!


 鈍い音。

 重い衝撃。


「……」


 ……よかった。


 やっと護衛の仕事ができた。

 セレス様を、私の大切なひとを護ることができた。


 でも……。


 これは?


「シアぁぁ!!」


 ちょっと、これは……。


「ディアナ!!」


「……」


 治癒魔法でも無理かな。


「ディアナ、何てことを!!」


 不思議と痛くないけど……。


 すごい出血だし……。


 胸から剣も生えてるから。



「シア、シア!!」





ユーナスは「第129話セレスティーヌ 8」に登場しています。


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― 新着の感想 ―
[良い点] あー…何か抱えているのは描写されていましたが、歪んだ復讐心でしたか。 いやしかし手口が今までとは違うし、何より最初の死の時点ではディアナとコーキは面識もないし…難しい!
[良い点]  ぎゃあああ!  修羅場だ!!!
[一言] うわぁ、なんか色々予想が当たってたけど、 これはちょっと(。>ㅿ<。)
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