第442話 予知 2
「結局、シアの悲鳴が問題だったわけだ」
「そうそう。姉さんが叫ばなけりゃ、誰も気づかなかったって」
「……わたしの声、そんなに大きかったの?」
「そりゃもう、俺たちの部屋まで届いたんだから相当だぜ」
「……」
「恥ずかしがる必要はねえだろ。セレスさんを大切に思っている証だからよ」
「でも……」
「そうそう、セレス様を思ってのことだしさ」
「アル……」
「まあ、姉さんの声がうるさいのは昔からだけど」
「アル!」
説明を聞いた騎士たちが大人しく自室に戻っていく中、この部屋に残った者が3人。
ヴァーン、アル、そしてユーフィリアだ。
ユーフィリアについては、模擬試合での魔法の件があるので自室に戻るように言ったのだが、セレス様の意識が戻るまではということで寝室に残っている。
「わたしは、うるさくないわよ!」
「だから、その声がでかいし、うるさいんだって」
「うるさくない!」
「ほんと、騎士のおっさん並みだぜ」
「ア~ル~!!」
「シア、アル、静かにしないとセレス様の予知の邪魔になるぞ」
「あっ、ごめんなさい、先生」
「……悪い」
セレス様の無事を確認できて安心したんだろうが。
賑やかなやつらだ。
「コーキの言う通りだぜ。お前らの声でセレスさん、目を覚ましそうじゃねえか」
「ヴァーンも同罪よ」
「俺は小声で話してんだろ」
「そんなわけないでしょ。さっきまで騒いでたのに」
「そうだぜ。ヴァーンさんの声が一番通るんだからさ」
「お前らほどじゃねえわ」
こいつらは……。
そんなことで、よく騒げるな。
今はセレス様が狙われている状況下での予知中だというのに。
まあ、襲撃の件については俺から話を聞いただけだし。
実感もないだろうから仕方ないとはいえ……。
ほんと、その気楽さが羨ましいよ。
「ん、んん……」
おっ、セレス様が覚醒したようだ。
「……シア、シア!」
「セレス様!」
セレス様がシアの手を取り、シアがそれを握り返す。
さっきまで騒いでいた表情とは全く違うな。
「予知……? 予知だったのね……」
「セレス様?」
「セレスティーヌ様」
まだ完全に覚醒を終えていないセレス様が横たわる寝台の傍らにシアとディアナ。
ユーフィリアは遠慮しているのか、少し離れた位置に座っている。
「シア、ディアナ、アル、ヴァーンさん、コーキさん、ユーフィリアまで……」
「セレス様、大丈夫ですか? 予知を視られたのですか?」
「ええ……予知は無事に終わったわ」
「お身体の方は?」
「……大丈夫よ」
そう言って起き上がるセレス様の表情は曇っている。
予知で何を視たんだ?
「シア、ディアナ……。コーキさんに話があるの」
「はい」
「コーキさんとふたりにしてもらってもいい?」
俺だけに話が。
本当に何を視たんだ?
「あっ、分かりました。外で待ってます」
「セレスティーヌ様、予知の話でしょうか?」
「……ええ」
「その話、シア殿や私が聞いてはいけないのですか」
「あなたたちには後で話します」
「ワディンに関わることですよね」
「そう、かもしれません」
「でしたら、まず我らに話してください」
「それは駄目です」
「先にコーキ殿に話すのですね。彼を選ぶのですね」
「そういう内容だから、コーキさんに話をするのです。ディアナは不服なのですか!」
「……」
「ディアナさん、外に行きましょ」
「……」
「あとで、聞きましょ。ねっ、ディアナさん」
「……分かった」
ワディン騎士より俺を優先すると言われると、ディアナとしても気分は良くないだろうな。
「外で待とう。……コーキ殿、話の前にその水桶を外に運んでもらえるか?」
水浴び用の水桶か。
「水は捨てても?」
「外に捨ててもらえると助かる」
「了解」
水桶を両手で持ち、ヴァーン、アル、ユーフィリアと外へ。
「セレスさんのあの表情。良くない予知なんじゃねえか」
「ああ」
そうかもしれない。
「しっかり、話を聞いてやれよ」
「もちろんだ」
「まっ、お前がいりゃ、何とかなんだろ。大抵のことはな」
だといいが。
「ってことで、セレスさんが許してくれんなら、後で話を聞かせてくれよな、コーキ」
「分かった」
「よーし、アル、ユーフィリア、俺たちはここで待ってようぜ」
相変わらず賑やかなヴァーンとは対照的に、ユーフィリアは口を開きもしない。
元々無口なユーフィリアとはいえ、ここまで喋らないとは。
俺がセレス様から遠ざけたからだろうな。
このユーフィリアといいディアナといい……。
ちょっと申し訳ない気持ちになってくる。
「……」
「で、シアとディアナは何してんだ?」
「姉さん、早く出てこいよ」
「シアとディアナは俺が部屋に戻るまでの護衛だ」
「あっ、そうか」
僅かな時間でもセレス様をひとりにしない。
それが護衛の基本だぞ、アル。
「それじゃあ、話を聞いてくる」
「おう、行ってこい」
ヴァーンとアルに送り出されたその瞬間。
「セレス様、危ない!!」
「シアぁぁ!!」
「ディアナ!!」
穏やかだった空気を斬り裂くような叫び声!?
絶叫!!
その叫びに反射するかのように飛び込んだ寝室。
俺の目に入ってきたのは……。
「シア!!」
悲痛な声をあげるセレス様。
そしてシア……。
「シア、シア!!」
真っ赤に染まったシアの姿だった。





