第440話 信頼 2
本日2話目になります。
「私は信じます!」
室内に響く清廉な響き。
「私はコーキさんを信頼しています! 何も問題はありません!」
室内に漂っていた重い空気を斬り裂いていく。
「同室で眠ることも……許可します」
「セレスティーヌ様……」
「セレス様……」
セレス様に、さっきまでの迷いは見えない。
そこにあるのは毅然とした態度のみ。
「セレスさん……いいのかよ」
「もちろんです!」
その勢いに皆が口をつぐんでしまう。
「ヴァーンさん、アル、ディアナ、もう忘れたのですか? 私たちがこうして無事でいられるのが誰のおかげなのか!」
「それは……」
「コーキさんです! コーキさんのおかげなのですよ!」
セレス様……。
「あなたたちも見ていたでしょ。コーキさんが、これまでどれ程のことをしてくれたかを!」
「「……」」
「「……」」
「エビルズピーク、ローンドルヌ河、トゥレイズ城塞、そしてテポレンでの王軍戦。思い出してみなさい」
「「……」」
「「……」」
「エビルズピークでは、私たちを助けるために駆けつけてくれました。そこであの恐ろしい魔物を退治して。ローンドルヌ河でも、トゥレイズ城塞でも……」
そう、だったな。
「王軍戦の直前など、コーキさんは毎日寝ずに魔法矢と魔法爆弾を作ってくれました。その上、疲労した身体で戦闘まで。ワディンとは縁も所縁もないコーキさんがです」
「「……」」
「「……」」
「ここにいる誰かひとりでも生き残れたと思いますか! コーキさんの力なしで!」
「いえ……」
「そう、無理です。もう何度も亡くなっているはずです。それなのに、私たちはみな無事に生きている。こうして不平まで口にできるんです」
「「……」」
「「……」」
「人は慣れるもの。良くも悪くも慣れるものです。ワディナート陥落以来、私はそれを痛感しながら生きてきました。ただ、それでも、慣れてはいけないものもある。……あなたたち、コーキさんの力に慣れてませんか? それが普通だと思ってませんか? コーキさんの努力、苦労、そして苦悩を考えたことありますか!」
「「……」」
「「……」」
「ないでしょうね。あなたたちはコーキさんを超人だと思っているようですから」
「っ!」
「それは……」
「……」
「その考えは良く分かりますよ。私も最初はそうでしたから。コーキさんは特別な人だと思っていましたから」
「「……」」
「「……」」
「でもね、そんな人なんていないんです。努力せず、苦労せず、苦悩せず、それで事を成し遂げる? あり得ません」
「「……」」
「「……」」
「話が逸れてしまいましたが……。そのコーキさんがここまで警戒しているのです。何を置いても私の傍で護ろうと! 確かに、説明は不足しているでしょう。けれど、それをもって、コーキさんを信じないなんて私にはできません!」
「「……」」
「「……」」
「だから、私はコーキさんを信じます! 皆が信じなくとも、私は信じます!!」
「……」
セレス様、そんなに俺のことを考えて!
信じて!!
もう……。
……。
言葉もない。
ここまで信じてもらっているのに、言葉なんて必要ない。
何も必要ない。
ただ、今は……。
込み上げる思いを顔に出さないようにするだけで……。
「……どうやら慣れちまってたようだ。コーキ、俺もお前のこと信用するぜ。まあ、できれば説明は欲しいけどよ」
「わたしはセレス様と同じように、ずっと先生のこと信じてましたよ」
「……ああ」
……セレス様のおかげだ。
「セレスティーヌ様、そこまでコーキ殿のことを信頼しているのですね」
「ええ、信じています。もちろん、ディアナも、シア、アル、ヴァーンさんのことも信頼しています。ああ、ユーフィリアもですね」
「そう、ですか……」
というわけで、夜間もセレス様の部屋で護衛ができるようになったのだが……。
やはり、若干の気まずさが残ってしまう。
いや、気まずさというか、何と言うか……。
まあ、そんな感情にとらわれている場合じゃないんだけどな。
……。
……。
ところで、セレス様の傍で護衛を続けると言っても、24時間1秒も離れず一緒にいられるわけではない。
生理現象と水浴びの時は、さすがに離れないとまずいだろ。
今夜もその時間がやって来た。
「では、少し外します。シア、ディアナ、頼んだぞ」
ヴァーンとアルは自分たちの部屋に戻っているので、今室内にいるのは俺と女性3人だけ。水浴びは、室内に運んできた水桶を使って行うことになる。
「はい」
「うむ」
寝室を離れ、音が聞こえない場所まで距離をとって待機。
とはいえ、そう離れてはいない。
走れば数秒もかからない距離だ。
……。
……。
……。
ひとり考え事をする時間も悪くないな。
特に今日みたいな日は……。
さて、そろそろ水浴びも終わる頃合いか?
そう思って足を踏み出したところで。
「きゃ……ぁぁ!!!」
悲鳴!?
いや、これは?
セレス様の声じゃない??
っ!
何だ?
どこから聞こえたんだ?
抑えていた聴覚を急いで強化!
とともに、室内へ!!





