第438話 狙い?
<エレナ視点>
「今日は散々だったぜ」
「……」
「まっ、屋根の下で休めるのはありがたいけどよ」
エンノアに与えられた地下住居。
模擬試合を終えたメルビンさんとランセルと私は、その一室で休憩しているところ。
「そうね」
本来ならテポレン山で野宿しているはずが、快適な空間で身体を休めることができる。
ありがたいことだと思う。
「しっかし、メルビンさんが引き分けで、エレナまで負けるとはなぁ」
「……」
「ほんとによぉ」
今日の模擬試合の結果は、私にとっても予想外のものだった。
けど……。
「……真剣ならメルビンさんも私も勝ってたわ」
木剣が折れなければ、メルビンさんは勝っていたはず。
「メルビンさんはともかく、お前は負けんじゃねえか」
「勝てるわよ」
相変わらず失礼なことを言う男だ。
「そうかぁ?」
「私は木剣との相性が悪いの。ランセルこそ、偉そうなこと言ってたのに惨敗じゃない」
「はあ! 惨敗じゃねえ」
「あなたの相手はアルでしょ。あんな少年に負けたんだから惨敗だわ」
つい最近、オルドウで冒険者になったばかりの少年に敗れた時点で惨敗なのよ。
試合内容なんて関係ないわね。
「ちっ」
「そう言ってやるな。ランセルもあと一歩だった。相手が誰であれ、あれは惜敗だ」
「相手は子供ですよ、メルビンさん!」
「子供でも冒険者。ひとたび剣を握ったら剣士に違いはない」
「……」
メルビンさんの言うことも分かる。
でも、アルはまだ子供。
そんな相手に、散々大口を叩いていたランセルが負けたんだから。
「それに、アルも随分と成長していたじゃないか。エレナもそう感じただろ」
「ええ、まあ……」
確かに、オルドウで見たアルとは別人だった。
それは否定できない。
「ランセルが苦戦したのも仕方ないことだ。ただ、次にやれば勝てるはず。そうだな、ランセル」
「当然! 今回はちっと驚いただけですって。次は勝てる!!」
「負けたばっかりなのに、凄い自信ね」
「ホント、おめえは分かってねえなぁ。それに比べて、メルビンさんはよく分かってるぜ」
本当にあなたは……。
「……」
「しかし、アルにディアナにユーフィリアか」
コーキさんと行動を共にしている者ばかりね。
「彼の周りにいる者たちの成長には目を見張るものがあるな」
「コーキさんが教えているのかもしれませんね」
今回の模擬戦に出たのは、その3人だけど。
出場しなかったヴァーンとシアの腕もかなり上がっていると考えた方がいいのかも。
「そうだな」
「剣も魔法も凄まじいのに、指導まで上手いってか。とんでもねえことだぜ」
「驚異的な冒険者だよ、コーキ・アリマは」
「その相手をしようっていうメルビンさんも相当だと、俺は思うけど」
「正面からどうこうするつもりはないぞ」
「ってことは」
「からめ手ですよね?」
「……」
メルビンさんが、この地に来たのは偶然じゃない。
目的あってのこと。
それは私たちも分かっているけれど、具体的に何をするかは知らされていない。
ただ、コーキさんを害するつもりはないと。
それだけは聞いている。
もちろん、意図しても簡単にはできないでしょうけど。
だいたい、彼の相手をできる者なんて……。
「キュベリッツとレザンジュに何人いることか……」
「ん? 何がだ?」
「コーキさんと対等に戦える人がどれだけいるのかって話」
「そりゃ、剣姫と赤鬼ドゥベリンガーくらいだろ。魔法だと、レザンジュの宮廷魔導師エヴドキヤーナとか」
「剣で剣姫と赤鬼、魔法でエヴドキヤーナ……」
やっぱり真正のバケモノよ。
まあ、優しい人なんだけどさ。
「そのコーキさん、模擬試合に出ねえんだもんなぁ」
「凄い動きは、ふたつ見れたわよ」
「確かに! あれは見物だったぜ。特に剣技は超絶技巧ってやつだろ」
恐るべきスピードに、正確無比な魔法と剣。
本当にいいものを見せてもらった。
「ところで、あの折れた剣は狙ったんですよね、メルビンさん」
「……どうだろうな」
折れた剣先が飛んでいく方向を操るなんて、普通はできることじゃない。
しかも、2本の剣先を同時に!
でも、メルビンさんなら可能だわ。
あの力を持っているんだから。
でも、狙いは何?
何がしたかったの?
***********************
あの4時間。
その後の模擬試合。
セレス様を守りきることができた。
惨劇を回避することができた。
ただ、犯人確保には至らずじまい。
何も終わっていない。
……。
……。
一時の危機は切り抜けたものの、解決には程遠いな。
いや、むしろ、遠ざかったのか?
そうか。
そうだよな。
これからは、いつ何時誰が襲ってくるか?
分からない。
手掛かりなど何もないのだから。
その上……。
時間遡行も使えない。
……。
まいったな。
本当に大変な状況だ。
こうなるともう、僅かな時間でもセレス様のもとを離れられないな。
昼も夜も、ずっと傍で護り続けるしかない。
……できるのか?
最後まで護り抜くことが?
既に何度も失敗した俺が?
この俺が?
……。
正直、不安しかない。
いっそ、セレス様を連れて逃げるのはどうなんだ?
そうすれば、襲撃者から離れることができる。
問題なく護ることもできる。
……。
分かってるさ。
それが無理な話だということは。
ここでワディンの皆から離れるなんて、あり得ないってな。
それならもう……。
やるしかない!
この地で俺が護るしか!
「コーキさん……大丈夫ですか?」
何度目になるか分からないこの言葉。
今の俺は相当酷い顔をしているんだろう。
「……ええ、問題ありませんよ」
これも、いつもの回答。
「今後の護衛について考えていただけですから」
「ありがとうございます。……今日もありがとうございました」
「いえ。ただの護衛の仕事ですよ」
エレナさんの甘味。
ユーフィリアのアイスアロー。
メルビンさんとルボルグ隊長の剣。
どれもあやしいものだった。
ただ、偶然と言えば偶然。
全て決め手に欠けている。
そうは言っても、この4人に対する警戒を緩めるわけにはいかない。
そういうわけで、彼らにはセレス様と距離を取ってもらうことにしたんだ。
「それで、あの、今夜は……コーキさんが私と同じ寝室で?」
「ええ、ずっと護衛を続けますよ」





