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30年待たされた異世界転移  作者: 明之 想
第9章  推理篇
441/701

第437話  因果 2


<セレスティーヌ視点>




「私が提供するもの以外は口にしないでください」


 いきなりの言葉に戸惑う私に。


「何があっても私が護りますから」


 頼もしく嬉しい宣言をしてくれたのが今朝のこと。

 それから今この時間まで、約束通り私の傍で護り続けてくれるコーキさん。


 本当に、本当にありがたいことだと思っている。

 私がこうして無事でいられるのもコーキさんのおかげ。

 さっきも、私の前に飛んできたアイスアローから護ってくれた。


 彼がいなかったら、私はどこかできっと……。

 それはもう否定できない事実だと思う。


 ただ、今日のコーキさんはいつもと違う。

 私がエンノアに来て以降ずっと警戒を続けてくれているコーキさんだけど、今朝の様子はこれまでに感じることがなかったほど切迫したものだった。


 模擬試合の間も、コーキさんの放つ空気が緩むことはなく。

 今も……。


 シアたちは、そんなコーキさんの緊迫感に気付いていないようだ。

 でも、私は!

 私は感じることができる!


 ここにいる誰よりも濃密な時間を一緒に過ごしてきたのだから。

 コーキさんが隠していても、私は感じ取ることができる。

 私だけが……。


 ……。


 でも、どうして?

 今日がそこまで危険な日なの?


 エンノアの地下で過ごす日々。

 昨日までと今日で何かが変わったとも思えないのに。


 私と同じ地下で過ごし、私の傍らにいるコーキさん。

 なぜ今日が危険だと思うのだろう?

 何か根拠でもある?


 分からない。


 コーキさんの切迫した雰囲気を感じ取ることはできても、今日が特別に危険だという理由が分からない。


 まさか!

 コーキさんも未来を視ることができる?

 予知が?


 そういえば、これまでもそんな風に感じたことがあったような……。


 でも、もし本当にコーキさんが予知の力を持っているのなら、私に話してくれるのでは?

 何度も予知や幻視の話をしているのだから、その時に話してくれるはずでは?


 ……。


 そんな話。

 してくれたこともないし、素振りもなかった。


 ……やっぱり、私には分からないことばかり。


 ……。


 ……。


 それでもいい!

 コーキさんを信じるって決めたから。

 何があっても、私はコーキさんを信じるだけ!



 そんなことを私が考えている間も模擬試合は進み。

 ついに最終試合。

 メルビンさんとルボルグの試合が始まった。





***********************





 冒険者のリーダーであるメルビンさんと、ワディン騎士を率いるルボルグさん。

 当初は模擬戦出場に乗り気でなかったふたりだったが、盛り上がるこの空気の中では強く拒むこともできず……。


 結局、参戦することを了承したようだ。



「お手柔らかにお願いしますよ、ルボルグさん」


「それは私の台詞です」


 穏やかな笑みを浮かべながらの言葉にも関わらず、ふたりの意気を感じてしまう。

 しかし、乗り気ではなかったはずなのに、この剣気は……。


 経緯はどうあれ、戦うからには適当にはしない。

 そういうことかな。


 カン!


 挨拶代わりに軽く木剣を合わせ、距離をとるふたり。

 試合開始だ!


「……」


「……」


 メルビンさんもルボルグさんも、正眼に剣を構えたまま動こうとしない。

 じりじりとした時間。


 ふたりを応援する冒険者の一団とワディン騎士たちも息を押し殺して見守っている。

 静かに、ただ熱だけがふたりに、ふたりの周りに集まっていく。


「……」


「……」


 その熱にあてられたように、俺の目も試合場に向いてしまう。


 ……。


 もちろん、俺としてもメルビンさんとルボルグさんの剣には興味がある。

 そんなふたりの攻防が今目の前で展開されているのだから当然。


 セレス様の護衛に集中しながらも、意識は自然と……。



「!!」


 先に動いたのはルボルグ隊長。

 一足で距離を詰め、真っ向からの一撃。

 虚飾のない純粋とも言える豪剣を叩きこむ!


 ガン!


 それをまた正面から受けるメルビンさん。

 避けることなく、躱すことなく、隊長の豪剣を堂々と受け止めた!


 お見事!!



「っ!」


「くっ!」


 数瞬のつばぜり合い。

 そして、再び距離をとるふたり。



「「「「「「「「おおぉぉ」」」」」」」」


 その攻防に観客席から漏れる感嘆の声。

 俺の口からも溜息が出そうになる。


「一撃なのに、迫力のある攻防ですね」


 セレス様も感じるものがあったようだ。


「ただの剣撃ではありませんから。力のある剣士は一撃に全てを懸けるんですよ」


「今のルボルグの一撃がそうなのですか?」


「はい、一撃必殺の剣だったと思います」


「それをメルビンさんが受け止めたと」


「彼も渾身の受剣でした」


「凄い攻防だったのですね」


「ええ」


 まさに圧巻の攻防だった

 距離を詰め正眼から放たれた剣。

 それを正面で受け、つばぜり合いの後、距離をとる。

 一見地味に映る流れ。


 ただ、この攻防には剣の全てが詰まっている。

 凝縮されている。


 そう感じさせてくれる攻防だった。

 観客もそれを感じ取ったからこその感嘆だったのだろう。


 そのふたりはまた、距離を置き対峙したまま動かない。


「……」


「……」


 静寂の中、メルビンさんとルボルグさんの剣気が溢れている。

 今にも決壊しそうなほどの剣気。


 そして。

 今度はメルビンさんが動いた。


 木剣を脇に回し跳躍!


「やあ!!」


 居合斬りのような体勢で、激烈な剣を横薙ぎに!

 対する隊長は、己の胴に放たれた剣を叩き落とすべく上段から!


「えいっ!」


 裂帛の気合と共に打ち下ろす!


 豪剣同士の激突。

 どちらの剣が勝るのか?


 バッキィィィ!!


 木剣の剣合とは思えぬ音を響かせ。

 2本の剣が中程から砕け!


 そして、2本の折れた剣先が。


 ヒュン!!

 シュン!!


 ともに貴賓席に!

 高速で回転しながら向かって来る!


 どういう力の作用なのか?

 これもまた因果律なのか?

 それとも狙い通りなのか?


 全く分からない……。


 が、斬るのみ!


 セレス様の前に踏み出し、鞘から剣を走らせる。

 そのまま斬り上げ一閃!


 バシッッ!!


 さらに、弧を描くように剣を戻し二閃!


 バシッ!!


 狙い過たず、迎撃に成功。

 2本の剣先は粉砕、落下した。






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― 新着の感想 ―
[良い点] 追いついてしまいました(笑) そしてやっぱり犯人がわからない! 続きを楽しみ待ってまーす!
[良い点]  なんと……  魔法だけでなく木剣の破片まで!?  謎が深まりますね!
[一言] こんなにセレス様に目掛けてばかり… うーん、分からない( ̄▽ ̄;)
感想一覧
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