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30年待たされた異世界転移  作者: 明之 想
第9章  推理篇
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第435話  咳音



 ディアナの試合が終わっても、セレス様に異常は見られない。

 この4時間を乗り切ることができた。

 そう思って安堵した矢先に!


「コホッ」


 咳の音!?

 ディアナを迎えるべく試合会場に向けていた目線の横。

 すぐ横から耳に入ってくるその音!


「!?」


 反射のように戦慄が体を突き抜けていく。

 固まってしまう。

 横に顔を向けることができない。


「……」


 嘘だろ。

 嘘だよな。


 セレス様は何も口にしていない。

 誰もその身体に接触していない。

 この腕試しが始まってから、何もあやしい動きはないんだ。


 なのに……。


「コホッ」


 っ!?


 凍りつく背筋、鳩尾からせり上がって来る恐怖。

 体が言うことを聞かない!


 けど。

 もしそうなら。

 あの症状が現れたのなら魔落に!

 今すぐ魔落へ!


 その一念が身体を覆っていた呪縛を断ち切る。

 必死の思いで、頭を横に、目線をセレス様へ。



「よくやったぞ、ディアナ」

「いい試合だったぜ」

「お疲れさん」


「みんな……」


「見事です、ディアナ」


 ……。


 これは……笑顔で迎えている!


 セレス様がディアナに言葉をかけている。


 咳は……ない。

 顔色も悪くない。


 いったい??


「セレスティーヌ様……ありがとうございます」


「本当に素晴らしい戦いでした。私も誇らしいですよ」


「……恐悦至極に存じます」



 どこにも異常は見られない。

 いたって普通の状態にしか……。


「コーキさん?」


 俺に向ける眼にも問題などない。

 なら……。


「セレス様、身体に異常はありませんか?」


「えっ、はい?」


「咳は?」


「……?」


「少し咳かれてましたよね?」


「あっ……アレではないと思います」


 あの症状じゃない。

 ただの咳?


 ……。


 確かに、セレス様の様子に体調の悪さは感じない。

 今のところ劇症の兆候も見られない。


 とはいえ、このタイミングなんだぞ?


「心配要りませんよ」


「……」


 ただの咳だったのか?

 この場面で?


「ほんとに何ともありませんから」


 試合終了のタイミングでの咳。

 どうしても不審に思えてしまうが……。


 幻視であの症状を知覚した経験のあるセレス様本人がそう言うのだから、信じても?


「……」


 問題はない。

 そう思っていいんだよな。


「ちょっと咳込んだだけです」


「そう……でしたか」


 肝が冷えた。

 ホント、目の前が真っ暗になるところだった。


 けど、何ともなくて良かった。

 本当に。


 本当に良かった。


 ……。


 ……。


 とはいえ、ゆっくり安心していられる場面でもない。

 まだまだ予断を許さない状況!

 さっきの咳があの前兆でないとは言い切れないし、この後も何が起こるか分からないのだから。


 そんな安心と危惧の中、試合は進んでいく。





 剣の模擬戦、そして魔法の試合。

 特に問題が起きることもなく、過熱を続ける腕試し。


「「「「「「「「わあぁぁ!!」」」」」」」」


「「「「「「「「おおぉぉ!!」」」」」」」」


 ワディンもエンノアも冒険者も、時に喚声を上げ、時に固唾をのんで観戦している。

 同僚を応援し、相手の技量に拍手を送り、喜び、笑い、悔しがる一体感と臨場感はちょっと他では感じることができないほどだ。


 ひたすらに白熱する時間。


 ……。


 何の不安もなければ、きっと俺も楽しめたんだろう。

 けど、今の俺はセレス様の護衛に徹するのみ。

 周りがどれだけ熱を帯びようが関係ない。


 ただし、もう既視の時間は終了し、新たな展開が繰り広げられている状況。

 模擬試合も無視はできない。

 ある程度は注視せざるを得ない。

 特に魔法戦は、流れ弾など不測の事態が起こる可能性も高いのだから。



「魔法の模擬戦も悪くないな」

「ああ、なかなか見応えがある」


「で、次は誰が出るんだ?」

「ユーフィリアだ。ユーフィリアが出るぞ」

「沈黙の魔術士か」

「こいつぁ、楽しみだぜ」


 アル、ディアナに続いてユーフィリアも出場するのか。

 彼女は模擬戦に興味などないと思っていたが。

 しかも、沈黙の魔術師って……。



「では、先攻はユーフィリアで、はじめ!」


 剣の腕試しとは異なり、魔法の模擬戦は実戦形式では行われない。

 攻撃魔法と防御魔法の強度を争う形で進められる。

 防御壁を破壊できれば攻撃側の勝利。攻撃魔法を防ぎきれば防御側の勝利。

 そんな魔法攻防を3回繰り返し、勝敗を争う。


 もちろん、これは安全性を考慮してのもの。

 実戦形式で攻撃魔法が体に直撃したらただじゃ済まないだろうから当然だな。



「ストーンウォール!」


 まずは防御の展開。

 次いで。


「アイスアロー!」


 攻撃魔法が放たれる。


 ガン!


 ユーフィリアの氷の矢が石壁に激突するも、破壊には失敗。

 壁下に落下する。

 壁の表面は……少し傷がついている程度。


「先勝は防手! 続いて、2本目はじめ!」


 今度はユーフィリアが防御だ。


「アイスウォール!」


「ストーンボール!」


 ドン!


 2本目も防御側の勝利に終わった。


 と、こんな形で進んでいく魔法の模擬戦。

 剣の試合に比べて地味であることは否定できないものの、これはこれで興味深いものがある。


 そういえば、以前ウィルさんと訪れた王都でエリシティア様の館に招待された時。

 宮廷魔術士リリニュスさんの提案で行われた魔術試しも、こんな形式だったか。


 懐かしい。

 それほど月日が経っているわけでもないのに、遠い昔のように感じられるな。

 ほんと、あれから色々と……。


 って、何を考えているんだ。

 感慨にふけっている場合じゃないぞ!


 あの4時間を無事に切り抜けて、気が緩んでる?

 間違いない。

 緩んでる!


 これじゃ駄目だ。

 もう一度、気を張って警戒を!


 そう思った、まさにその瞬間。


 ザシュッ!


 防壁によって進行を逸らされた魔法攻撃が貴賓席に!


「「「「「危ない!!」」」」」

「「「「「きゃあぁ!!」」」」」


 高速のアイスアローがセレス様に向かって!





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― 新着の感想 ―
[良い点]  毒じゃなくて魔法!?  そりゃ、コーキだって不眠不休で警戒し続けることは出来ないですよね……
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