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30年待たされた異世界転移  作者: 明之 想
第9章  推理篇
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第432話  変化



「それまで!」


「「「「「「うおぉぉ!!」」」」」」


「良くやったぁ!」

「1試合目の雪辱だぜ」

「ワディンの力を見せてくれたな」


 2試合目が終了。

 勝ったのはワディンの騎士。

 初戦は冒険者が勝利をおさめたから、これで1勝1敗だ。


「くそっ、惜しいぜ」

「ああ、もう一歩だったな」

「あの一撃が決まっていれば」

「次は勝つぞ!」


 腕を試すという意図で開催された今回の模擬試合。

 実際に蓋を開けてみれば、ワディン騎士対冒険者の対抗戦という様相を呈している。


 ただ、これは前回と同じ流れだ。

 問題はない。



「セレスティーヌ様、ヴィーツ水はいかがですか?」


 3試合目が始まる前の僅かな休憩時間に、声をかけてきたのはアデリナさん。

 その手にはヴィーツから作られた果実水。


 これも前回と変わりがない。


「ありがとうございます」


「とても美味しいですから、よければ飲んでくださいね」


「……はい」


 俺に視線を投げつつアデリナさんに頷くセレス様。

 そう、それでいい。


 セレス様が前回と同じ行動をしていれば、どこかで犯人がボロを出すはず。

 そこを捕まえるという単純な作戦。

 だが、最も効果的な作戦だろう。


 今は思惑通りに進んでいる。


「コーキさん?」


「打ち合わせ通りに」


 小声で囁きかけてくるセレス様にこちらも小声で返す。


「はい」


 基本的に前回と同じ流れを続けるとはいえ、セレス様が口にする物だけは別。

 どこに毒が隠されているのか分からないのだから。


 この点については、セレス様と事前に話し合いは済んでいる。


 セレス様は俺の提供する物以外は口にしない。

 ただし、受け取りは断らない。

 受け取って口にしないという行動を続けていく。


 これが、できるだけ前回の流れを踏襲するためにとる手段だ。


 ああ。

 もちろん、鑑定はその都度行う。

 今もヴィーツ水に毒が混入されていないことを鑑定で確認したところだからな。


 問題は、俺の鑑定ではニレキリの毒を探知できない可能性があるということ。

 なので、鑑定結果が白だろうと、セレス様がそれを口にすることはない。



「次は誰が出る?」


「連敗はできねえぞ」


「なら、俺が出てやるよ」


「ランセルか! お前なら大丈夫だな」


「ああ、任せとけ」


 3試合目にランセルさんが登場するのも前回と同じ。

 ワディンからは、確か……。


「アル、どうだ? オルドウにいた者同士の戦いも悪くねえぞ」


「……分かった。俺が行く!」


 なっ!

 アルが出るのか?


 それは違う!

 前回と流れが違う!


「おっ、そっちはアル坊かよ」


「ランセル……さん、よろしく頼む」


「おうよ、いい試合にしようぜ」


 前回は、ランセルと他のワディン騎士が戦ったんだ。

 なのに、今回はアルが出てきた。


 なぜだ?

 ここまでは前回と同じように進んでいたのに!

 どうして流れが変わった?


「元オルドウの冒険者同士の戦いか」

「面白えな!」

「いい試合みせてくれよ」


 盛り上がる観衆の中、戸惑っているのは俺ひとり。

 当然だ。

 俺だけが未来を知っているんだから……。


「コーキさん、どうしました?」


「……いえ、何も」


 遡行後の4時間、前回と異なっているのは俺の行動だけ。

 そのはず。

 なのに、ここで流れが変わるなんて!


 ……。


 そうか!

 俺の行動が違うから、俺の周りの動きも若干変化したと。

 ヴァーンとアルが前回と異なる動きをして、今ここでも流れが変わってしまったと。


 そういうこと、なのか?



「両者構え……はじめ!」


「行くぞ!」


「かかってこい!」



 確たる理由は分からない。

 が、事実は事実だ。

 ただ……。


 試合に変化があったからといって、大きな問題があるわけじゃない。


 俺はセレス様の横で警戒を続けるのみ。



「ヴァーン、アルは勝てるかしら?」


「分かんねえなぁ。ランセルもなかなかやるからよ」


「じゃあ、勝てないの?」


「いや、今のアルなら、勝つ可能性も十分あるだろ。少なくともいい試合はするはずだぜ」


「……」


「シア、これは模擬試合なのだから、勝敗なんて問題ではないのよ。アルがこの試合で何か得るものがあれば十分でしょ」


「……そうですね。セレス様のおっしゃる通りです」



 現在、セレス様は試合を真正面から観戦できる特設の主賓席に座り、アルの試合を観戦中。


 その両隣には俺とシア。

 さらに、ヴァーン、ディアナ、ユーフィリアがセレス様を囲むように警護している。

 とはいえ、彼らに緊張感は見られない。


 セレス様と俺だけが、気を張ってる感じだな。

 ああ、もちろん、ふたりとも警戒感を表に出さないようにはしているけれど……。




 カン、カン、カン!


 アルとランセルさんの木剣がぶつかり合う小気味よい音が響いてくる。


「「「「「おおぉ!!」」」」」


 周りからは喚声。

 どよめき。


 熱戦が続いている、みたいだ。


「……」


 アルはギリオンの弟子とはいえ、俺にとっても弟子みたいなもの。

 そんなアルの試合、じっくり観戦したいに決まっている。

 だが、今は難しい。


 ここからディアナの試合が終わるまでは……。


 ……。


 誰かが毒の入った物を持ってくるのか?

 毒をこのヴィーツ水に混入させるのか?

 それとも物理的に毒をセレス様の身体に仕込もうとするのか?


 何が起こるか分からない。

 分かっているのはこの1時間。

 この時間の中で何かが起きる!



 ふぅぅぅ。


 意識を広く周りに拡散させ、目と耳はセレス様の周囲に向け、ただ待つだけ。

 ただ待ち続けるだけ。



 カン、カン、カン!


「「「「「わあぁぁ!」」」」」


「「「「「おおぉ!!」」」」」


 カン、カン!


 ……。


 ……。


 ……。



「一本! それまで!!」


「「「「「「「「「「うおおぉぉ!!!」」」」」」」」」


 地下が揺れるような喚声!


「っ!?」


 あまりの大音響に、集中していた意識が途切れてしまう。


「「「「「いいぞ!!」」」」」

「「「「「よくやった!!」」」」」


 そこに、割れんばかりの拍手、歓声がワディン側から。


 ……アルが勝ったか。




「アル、凄いわ!」


「ああ、大したもんだぜ!」


「姉さん、ヴァーンさん、やったぞ!」


 アルが戻ってきた。

 いい顔してるな。


「本当に見事な試合でしたね」


「セレス様……ありがとうございます!」



 アルが剣でランセルさんを負かすとは。

 常夜の森で出会った時には、夢にも思わなかった成長だ。


 このことを知ったら、きっとギリオンも喜ぶぞ。

 もちろん、俺も嬉しい。


 違う状況なら、もっと祝ってやれるのにな……。


 ……。


 沸き返るワディンとは対照的に沈んだ雰囲気の冒険者の一団から、こっちに向かって歩いて来るのは……エレナさん。



「ランセルがやられちゃいましたね。ということで、どうぞ」


 木皿に入ったお菓子のようなモノを持ってきた。


「エレナさん、これは?」


「試合に負けたら甘味を勝者側に渡すというというのが、私とランセルの故郷の慣習みたいなもので……ということで、セレスティーヌ様、お受け取りください」


「……」


 そんな慣習が?


 もちろん、アルの試合からのこの流れは前回とは全く違う。

 なら、この甘味には毒は入っていない、のか?


 急いで鑑定を!


 ……。


 ……!!


 これは!?





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― 新着の感想 ―
[一言] 前回から流れが変わってるとは…… うーん、ますます分からない( ̄▽ ̄;)
[良い点]  んんん!?  まさか、これが!  げ……予想が外れたかも(笑)
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