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30年待たされた異世界転移  作者: 明之 想
第9章  推理篇
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第431話  信頼



「先生、どうぞ」


 あの惨劇の4時間前。

 今は午前7時20分だ。


「ああ、失礼する」


 エンノアの地下広場横に位置する居住区の一画。

 その一室、セレス様の居室に不安と期待を抱きながら足を踏み入れる。


 シアと共に廊下を抜け、居間に入ると……。


「コーキさん、おはようございます」


 笑顔のセレス様が迎えてくれた。


「……」


 時間遡行したのだから当然。

 シアにも確認したのだから、分かっていたこと。


 それでも、こうして無事な姿を目にすると込み上げてくるものが……。


 ……。


 もう何度目だ、この感慨は。

 まったく、慣れるもんじゃないな。


「……おはようございます、セレス様」


 セレス様の姿を確認し少し冷静になった頭で、室内を簡単に観察してみる。


 気になる点は……。


 ……。


「!?」


 水差しとコップが寝台横に!


 その存在に心臓がはねてしまう。

 汗が滲んでくる。


「コーキさん、こんな時間に、どうしたのですか?」


「……少し気になることがありまして」


「気になること?」


「はい。セレス様、今朝は起床されてから何か口にされました?」


「……水を少しだけ」


 やっぱり、もう口に!


 心臓が騒ぎ出す。

 背中が冷たくなる。


 もし毒を飲んでいたら……。


 いや、まだ、そうと決まったわけじゃない。


「こちらを、飲まれたのですね?」


 努めて平静に質問を。


「……ええ」


「……」


 鑑定だ!

 とにかく、鑑定を!


 結果を知るのが怖い。

 こんなに怖い鑑定なんて初めてだ!


 ……。


 ……。


 あぁぁ。

 よかったぁ!!


 コップの底に残る水と、水差しに毒は入っていない。

 毒じゃない、ただの水。


 良かった……。

 本当に……。


 ……。


 鑑定で毒を探知できない可能性も僅かには存在する。

 が、とりあえず安心してもいいだろう。


「コーキさん? 大丈夫ですか?」


「あっ、はい……。セレス様、昨夜から今朝にかけて、口にされたのはこの水だけなのですよね?」


「そうですけど……?」


 セレス様は無事。

 毒も口にしていない。


 これなら、何とかなる!

 その安堵が、恐怖と焦燥を消し去っていく。


 ……。


 ふぅぅ。

 やっと一息つけたな。


 さて。

 となると、今は。


「セレス様、少しふたりで話がしたいのですが?」


「……分かりました。シア、ディアナ、ユーフィリア」


「承知しました」


 怪訝な表情を浮かべながらも素直に部屋を後にする3人。

 彼女たちを見送り、室内にはセレス様とふたりきり。

 これで遠慮なく話ができそうだ



「何かあったのですね? コーキさん、何が起こったのです?」


 何かどころではない。

 ただ、どう説明すればいいものか?


「説明の前に……。セレス様、今朝は予知か幻視をされていませんか?」


 4時間後の世界を視ているなら話は早い。

 ただ、あの苦しみを覚えていてほしくないという思いもある。


「それは……視てないと思います」


「思う?」


「睡眠中に予知をした場合、稀に忘れてしまうこともありますので」


 そういうことか。

 けどそれなら、視ていないのと同義だな。


「それで、コーキさん?」


「はい。実は……」


「……」



 そこからの説明は、正直かなり苦労した。

 その上、上手く説明できたかどうかも分からない。

 分からないが、セレス様は一応納得してくれたようだ。


 ……。


 時間遡行の話をすれば、おそらく簡単に説明もできただろう。

 けど、今さらそんな話をしたところで何になる。

 もう時間遡行は使えないのに。

 話しても意味はない。


 ……。


 いや、違うな。

 俺が話したくないんだ。


 リセットや時間遡行なんていう超常の力。

 その力に頼ってきたこれまでの俺。

 それを話したくないだけ。


 分かってるさ。

 浅ましいやつだよ。


 けど……。




「それで、私はどうすれば良いのでしょう?」


「しばらくは、私が提供するもの以外は口に入れないでください」


「しばらくですか?」


「はい。私が良いと言うまでです」


「……分かりました。他にはありませんか?」


「なるべく私から離れないでください。それと……私以外は信用しないように」


「それは、シアたちも信用できないということですか、コーキさん!」


「念のためです。シアのことを信用できないと言っているわけじゃないです」


 こんなこと言われて、いい気はしないだろう。

 ただ、今は何も信じてはいけないんだ。

 もう失敗は許されないのだから。


「そこまで……」


「はい、細心の注意を払う必要があります」


「食べる物にも、人にも……。そこまでの危機が迫っていると? コーキさんはそう考えているのですね?」


「まあ、そういうことになります」


「すぐには信じがたい話です……。けど、コーキさんが危険だと言うのですから間違いないのでしょうね」


「……はい」


「そうですか……。分かりました! 私はコーキさんを信じます。信じるだけです」


 ありがたい。

 こんな話を信じてくれて本当にありがたい。


「ありがとうございます」


 セレス様の信頼。

 今度こそは応えよう!






「「「「「「おおぉ!」」」」」


「見事な一撃だったな」

「おう、いい剣だったぜ」

「さすが、ワディン騎士。侮れねえな」

「ああ。下手に油断したら、やられちまうぞ」


 腕試しという名の模擬試合。

 今は1試合目が終わったところ。


「セレス様、すごいですね!」


「ええ、とっても」


 冒険者連中もワディンもエンノアも皆、盛り上がっている。

 この状態は俺の記憶の中にある遡行前と変わっていない。


「次の試合は……また剣の試合みたいですよ」


「そうね。それで、シアは魔法の腕試しには出ないの?」


「はい、セレス様の傍にいます」


「参加したいなら、出ていいのよ」


「いえ、わたしはセレス様の護衛ですから」


「ふふ、ありがとう、シア」


「そんな……」


 シアが模擬試合に出ないのも前回と同じ。


「ヴァーンさんとアルは?」


「俺はまあ、どっちでもいいですね」


「おれも」


「いや、アルは出た方がいいぞ。あいつらとの戦いは勉強になりそうだからよ」


「そうかな? だったら、出てもいいかも……」



 些細な違いはあるものの、ヴァーンたちの会話もほぼ前回と同じだ。

 このまま進めば、同じような状況であの時を迎えることになるだろう。


 ならば、セレス様を護ることができる!

 そして、犯人を捕まえることもできるはず!





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― 新着の感想 ―
[良い点]  今度こそ大丈夫……?  いや、毒じゃない? なら……  というか、飲んだ時点では毒じゃないとか……  考えだしたらきりがないですね(笑)
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