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30年待たされた異世界転移  作者: 明之 想
第9章  推理篇
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第429話  交差


<エリシティア視点>




「次はウォーライルかよ」


「ああ、私が相手をしよう」


「はん、やっと本番ってわけだな」


「先程から戦っているではないか?」


「一番強えやつと戦う、それが本番ってこった」


「……なるほど」


 もう5試合を戦っているというのに、元気のいいことだ。

 だが、その疲れた体でウォーライル相手にどこまでやれる?


「では、一本勝負でいいかな?」


「いんや、3本勝負といこうぜ」


「体力は……と聞くのも野暮か」


「ああ、問題ねえ」


「そうか。……では、まいる!」


 ふたりが木剣を構え対峙、と同時に仕掛けるギリオン。


「どりゃ!」


 雷光のごとく強烈な踏み込みで、気合のこもった剣を上段から放っていく。


 ガン!


「ぬっ!」


 ギリオンらしい、てらいのない一撃。

 重く早い一撃だが、上段からの真正直な振り下ろしならウォーライルが捌くのも難しいことではない。


 それでも、ウォーライルの剣が若干押されてしまうのは、ギリオンの膂力の凄まじさゆえであろう。


「おう!」


 逸らされた木剣を戻し、畳みかけるギリオン。


 ガン、ガン、ガン!


 一撃、二撃、そして三撃。


 木剣同士のぶつかり合いなのに、火花が散るような剣交!

 止まることなく剣撃が続く。


 四撃、五撃。


「おおぁ!!」


 さらに、六撃。


 ガゴン!!


 六連撃。

 一息でこれだけの剣を放つとは!



「さすがだな、ギリオン殿」


「はっ、全て防いでおいて、よく言うぜ」


「紙一重だよ。一歩間違えたらやられていた」


「なら、次はその一歩を間違えさせてやらあ!」


 強力な六連撃を放ちながら、さほど息も切れていない。


 ……。


 驚きだな。


 ギリオンの剣といえば、腕力に任せた豪剣を連想するもの。

 が、実際にあやつの剣を支えるのはその無尽蔵とも思える体力。

 人並外れた肺活量と筋力がもたらす持続力こそ、ギリオンの剣の源泉なのかもしれぬ。


 そんなギリオンに対するはウォーライル。

 剛と柔を兼ね備えた優良たる我が騎士。

 今の六連撃を見事に防いでみせた。


 ふふ。

 面白い。



「いっくぜぇ!!」


 体中から剣気を発しながら、木剣を両手で水平に構え突進するギリオン。


「たあぁ!!」


 カン!


 胸を狙って突き込んできたギリオンの木剣の軌道を左に逸らし、ウォーライルがそのまま剣を放とうとする。


 そのウォーライルの動きを予測していたのか、それとも無意識の行動か?

 逸らされた剣に添えていた左手を離したギリオンが、その左手の甲を目前に迫る剣腹に叩きこんだ!


 ゴン!!


 左手の甲で敵の剣を強引に弾き半身を回転。

 右手に残る木剣を横薙ぎに払う。

 腰の回転を利用した鋭い剣撃がウォーライルの脇腹に!


「っ!」


 これは決まる!

 そう思わせるような峻烈な一撃。


 ウォーライルは……。

 身を捻じるようにして跳躍、回避?


 したが。


 バシッ!


 脇腹に浅く剣が入ってしまった。

 一本か?

 ウォーライルがやられたのか?


「「「「「おお!」」」」」

「「「「「決まったぞ!」」」」」

「「「「「ウォーライル様がやられた」」」」」


 騎士連中からも驚きの喚声が上がっている。



「ちっ、浅え」


「いや、一本だ」


「んなのは一本じゃねえ。続けるっぜ!」


「……」


「どうした、早くしろよ」


 ウォーライルが一本取られたと認めているのに、それを好しとしないか。

 はは、ギリオンらしいな。


 剣に正直で純粋。

 脇目もふらず、ただ真っ直ぐに己の道を歩もうとする。

 本当におまえは気持ちの良い男だよ、ギリオン。



「いいから、早く構えろって」


「……承知」


 再び剣合わせが始まる!

 そのふたりの剣気に、中庭に集まっていた騎士たちの緊張も高まっていく。


「だあぁぁ!!」


 ガン、ガン!


 激烈な剣交、激しい剣閃!

 荒々しくも美しい。


 ガン、ガン、ガン!!


 息をのむほどに雄邁な光景。

 一点景が周りの音を消し、色を消し、全てを凌駕していく。


 だというのに……。


「大変です、エリシティア様!!」


 無粋者が……。


「……何事だ? この素晴らしい時間を潰すことなのか?」


「申し訳ございません。ですが、ヒュッセ侍従が急報を!」


 ヒュッセ?

 陛下の側近のヒュッセが?


「文を送って来たのか?」


「いえ、今こちらに到着されました」


 ヒュッセがここに?

 なぜ、あやつが白都に?


 ……。


 勇壮な剣交に昂っていた心が、急激に冷えていく。


「……通すが良い」


「はっ」


 ヒュッセが我が屋敷を訪れるとは、ただ事ではあるまい。

 黒都で何があった?



「おい! どうして剣を置く?」


「ギリオン殿、剣合わせは中断しよう」


「んでだよ?」


「今はそれどころではない。エリシティア様?」


「うむ……やむをえまい。ギリオン、一度剣を収めろ。剣合わせはまたあとだ」


「……」


 不満はあろうが、今は収めておけ。

 あとで、思う存分剣を振るわせてやるから。


 さて、今はそれより。


「ヒュッセ、久しいな」


「エリシティア様、お久しぶりでございます」


 中庭に入ってきたのは、侍従ヒュッセと壮年の男女、そして若い女性。

 この若い女性……!?


 ウィルではないか!!


 ヒュッセにウィル?

 この組み合わせ、いったい何なのだ?





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[良い点]  ウィルさん、お久しぶりです!  しかし、ここで!?
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