第429話 交差
<エリシティア視点>
「次はウォーライルかよ」
「ああ、私が相手をしよう」
「はん、やっと本番ってわけだな」
「先程から戦っているではないか?」
「一番強えやつと戦う、それが本番ってこった」
「……なるほど」
もう5試合を戦っているというのに、元気のいいことだ。
だが、その疲れた体でウォーライル相手にどこまでやれる?
「では、一本勝負でいいかな?」
「いんや、3本勝負といこうぜ」
「体力は……と聞くのも野暮か」
「ああ、問題ねえ」
「そうか。……では、まいる!」
ふたりが木剣を構え対峙、と同時に仕掛けるギリオン。
「どりゃ!」
雷光のごとく強烈な踏み込みで、気合のこもった剣を上段から放っていく。
ガン!
「ぬっ!」
ギリオンらしい、てらいのない一撃。
重く早い一撃だが、上段からの真正直な振り下ろしならウォーライルが捌くのも難しいことではない。
それでも、ウォーライルの剣が若干押されてしまうのは、ギリオンの膂力の凄まじさゆえであろう。
「おう!」
逸らされた木剣を戻し、畳みかけるギリオン。
ガン、ガン、ガン!
一撃、二撃、そして三撃。
木剣同士のぶつかり合いなのに、火花が散るような剣交!
止まることなく剣撃が続く。
四撃、五撃。
「おおぁ!!」
さらに、六撃。
ガゴン!!
六連撃。
一息でこれだけの剣を放つとは!
「さすがだな、ギリオン殿」
「はっ、全て防いでおいて、よく言うぜ」
「紙一重だよ。一歩間違えたらやられていた」
「なら、次はその一歩を間違えさせてやらあ!」
強力な六連撃を放ちながら、さほど息も切れていない。
……。
驚きだな。
ギリオンの剣といえば、腕力に任せた豪剣を連想するもの。
が、実際にあやつの剣を支えるのはその無尽蔵とも思える体力。
人並外れた肺活量と筋力がもたらす持続力こそ、ギリオンの剣の源泉なのかもしれぬ。
そんなギリオンに対するはウォーライル。
剛と柔を兼ね備えた優良たる我が騎士。
今の六連撃を見事に防いでみせた。
ふふ。
面白い。
「いっくぜぇ!!」
体中から剣気を発しながら、木剣を両手で水平に構え突進するギリオン。
「たあぁ!!」
カン!
胸を狙って突き込んできたギリオンの木剣の軌道を左に逸らし、ウォーライルがそのまま剣を放とうとする。
そのウォーライルの動きを予測していたのか、それとも無意識の行動か?
逸らされた剣に添えていた左手を離したギリオンが、その左手の甲を目前に迫る剣腹に叩きこんだ!
ゴン!!
左手の甲で敵の剣を強引に弾き半身を回転。
右手に残る木剣を横薙ぎに払う。
腰の回転を利用した鋭い剣撃がウォーライルの脇腹に!
「っ!」
これは決まる!
そう思わせるような峻烈な一撃。
ウォーライルは……。
身を捻じるようにして跳躍、回避?
したが。
バシッ!
脇腹に浅く剣が入ってしまった。
一本か?
ウォーライルがやられたのか?
「「「「「おお!」」」」」
「「「「「決まったぞ!」」」」」
「「「「「ウォーライル様がやられた」」」」」
騎士連中からも驚きの喚声が上がっている。
「ちっ、浅え」
「いや、一本だ」
「んなのは一本じゃねえ。続けるっぜ!」
「……」
「どうした、早くしろよ」
ウォーライルが一本取られたと認めているのに、それを好しとしないか。
はは、ギリオンらしいな。
剣に正直で純粋。
脇目もふらず、ただ真っ直ぐに己の道を歩もうとする。
本当におまえは気持ちの良い男だよ、ギリオン。
「いいから、早く構えろって」
「……承知」
再び剣合わせが始まる!
そのふたりの剣気に、中庭に集まっていた騎士たちの緊張も高まっていく。
「だあぁぁ!!」
ガン、ガン!
激烈な剣交、激しい剣閃!
荒々しくも美しい。
ガン、ガン、ガン!!
息をのむほどに雄邁な光景。
一点景が周りの音を消し、色を消し、全てを凌駕していく。
だというのに……。
「大変です、エリシティア様!!」
無粋者が……。
「……何事だ? この素晴らしい時間を潰すことなのか?」
「申し訳ございません。ですが、ヒュッセ侍従が急報を!」
ヒュッセ?
陛下の側近のヒュッセが?
「文を送って来たのか?」
「いえ、今こちらに到着されました」
ヒュッセがここに?
なぜ、あやつが白都に?
……。
勇壮な剣交に昂っていた心が、急激に冷えていく。
「……通すが良い」
「はっ」
ヒュッセが我が屋敷を訪れるとは、ただ事ではあるまい。
黒都で何があった?
「おい! どうして剣を置く?」
「ギリオン殿、剣合わせは中断しよう」
「んでだよ?」
「今はそれどころではない。エリシティア様?」
「うむ……やむをえまい。ギリオン、一度剣を収めろ。剣合わせはまたあとだ」
「……」
不満はあろうが、今は収めておけ。
あとで、思う存分剣を振るわせてやるから。
さて、今はそれより。
「ヒュッセ、久しいな」
「エリシティア様、お久しぶりでございます」
中庭に入ってきたのは、侍従ヒュッセと壮年の男女、そして若い女性。
この若い女性……!?
ウィルではないか!!
ヒュッセにウィル?
この組み合わせ、いったい何なのだ?





