第427話 ニレキリ
「「「「「「「「セレス様ぁ!!!」」」」」」」」
「「「「「「「「セレスティーヌ様!!!」」」」」」」」
「……」
……。
……。
……。
「そんな!!」
「嘘だ!!」
「ううぅぅぅ……セレス様ぁ……」
「白が……」
「黒が健在なのに白が消えて……」
「神娘が、こんなところで……」
「どうして……」
……。
……。
……。
腕に感じるこの軽さ……。
また……。
また、俺は失ってしまった。
これで何度目?
何度目なんだよ!!
くそっ!!
俺は、俺は!!
……。
……。
けど、まだだろ!
もう、分かってる。
やり直せることを知っている。
俺は、時間遡行を使えるんだ!!
だから、今は冷静に。
感情を捨て、情動を消し去れ!
今こそ冷静に、冷徹に……。
「ふぅぅ……」
深呼吸をひとつ、ふたつ……。
……。
よし!
ここからだぞ。
ここからが勝負だ!!
まず……。
今回は俺ひとりじゃない。
時間的な余裕も少しはあるはず。
なら。
「……セレス様のこの症状に心当たりのある方はいませんか?」
直接の死因……原因を知る必要がある。
毒なのか、魔法なのか、呪いなのか?
時間遡行を使う前に、可能な限り調べるべきだ。
ただし、時間的猶予がどれほど残っているのか分からない現状では、ゆっくり調べることはできない。
「先生、それより、まだ何とか! 何とかならないんですか!?」
「そうだぜ。原因なんかより、まず蘇生だろうが!」
シアもヴァーンも。
アルも他の騎士たちも、皆が一様に冷ややかな視線を投げてくる。
そうだよな。
けど、ゆっくり説明している暇も、言い訳している時間もないんだ。
「残念ながら、もう蘇生はできないだろう。今は早急に犯人を探す必要がある。そのためにも原因を特定しなきゃならない」
「コーキ……おめえ冷てえな」
「コーキさん、分かってるのか! ここに倒れているのはセレス様なんだぞ!!」
「……」
そんなことは百も承知。
分かってるんだよ!!
「なんで、そんなことが言える! ふたりの関係はそんなもんだったのかよ!!」
「……蘇生は無理だ」
「ちっ!」
「先生……」
俺だって、助けられるなら助けたい。
けど、蘇生なんてできるわけないだろ。
俺は神様じゃないんだ。
だから……。
できることをするだけ。
誰に何と言われようと!!
「……コーキさん、これはニレキリの毒症状ではないかと思うのですが」
フォルディさん、心当たりが!
「確かに、ニレキリに似てるな」
「ああ、俺もそう思う」
「けど、どうして、神娘がニレキリの毒を?」
「誤飲したとか?」
「いや、それはないだろ」
「なら、誰かが……」
ニレキリの毒。
初めて聞いたが、数人が頷いているこの状況を見ると……。
「フォルディさん、ニレキリの毒とは、どういった物でしょう?」
「ニレキリはテポレン山に生息している珍しい植物で、その葉と根には毒があります。それを口にすると、このような症状が現れるかと……」
「それは、経口だけですか? 例えば、傷口からは?」
「そちらも毒症状は出ます。ただ、今回のような劇症となると、経口の可能性が高いです」
毒を飲んだということなんだな。
いや、でも、おかしいぞ。
この会場でセレス様が口にしたものは、全て事前に鑑定済み。
毒なんて入ってなかったのだから。
さっきセレス様が口にしていた飲料にも……やはり毒は見られない。
いったい、これは……?
まさか、鑑定ができない毒?
そんなものが存在する?
それとも……。
「……口にしてから症状が現れるまでの時間は、どれくらいなのでしょう?」
「通常は四半刻から半刻程度ですね」
30分から1時間なんだな。
もう鑑定はあてにできないが、その時間なら4時間の遡行で防ぐことができるはず。
「もちろん、濃度や量によって違いは出ますし、特殊な加工を施せば数時間ということもあり得るかと」
なっ!
数時間だって!
もし、4時間以上だったら?
時間が足りない!!
「ニレキリの毒が原因だとすれば、これは誤飲する類のものでもないですし……」
「まさか、この中に!」
「神娘にそんなことをした者が!」
犯人がこの中にいる。
セレス様に毒を飲ませた者がこの広場の中に!
「そんなやつ、いるのか?」
「本当に?」
「誰なんだ?」
フォルディさんの言葉で、場内は騒然となっている。
「コーキさん、ニレキリを所持している者がいないか今から調べましょう」
「……」
広場にいる100人以上を調べる?
そんなことしたら何時間かかるか分からない。
今も犯人が毒を所持しているとは限らないのに。
……駄目だ!
やはり、時間が足りない。
もう、ここで失敗するわけにはいかないんだ!!
……。
……。
原因がニレキリの毒と判明しただけでも良しとすべきか?
すぐに時間遡行を使うべきか?
第8章 完
8章もお付き合いいただき、ありがとうございました。





