第422話 申し込み
<ヴァーン視点>
「貴殿は今後どうしたいと言うのだ?」
「さっきから言っておろう。今しばらくはこの地にとどまり、その間に策を練るべきだと」
「だから、その策を聞いている! 我らワディンが選ぶ道をどう考える?」
「……ワディン再興を目指す」
「伯爵家再興はここにいる全ての騎士が考えていること。具体的方策を口にしてもらおうか」
「それはこの地で考える。そのために、ここに留まるのだからな。そう言うお主の考えはどうなのだ?」
「エンノアを出て、トゥレイズ奪還に動く。これしかない」
「愚かな。この少数であの城塞を落とせると思っておるのか?」
「各地に落ち延びておる同士を集め、トゥレイズ内部からも同士を募れば何とでもなる。トゥレイズには辺境伯様に心酔している者も少なくないのだからな」
「そんなものは希望的観測に基づく理想論でしかないわ。貴殿は、もっと現実を直視すべきだな」
「何だと!!」
「何だ!!」
「ふたりとも、少し落ち着け」
「ルボルグ殿!」
「ルボルグ様!」
「貴君ら双方の考えに間違いなど無いのだ。今は全てを慎重に考慮すべき時」
「「……」」
「王軍撤退の真相も伝わってきておる。それが真か否か見極め、動けば良い。拙速より巧遅。しかし、遅鈍に陥らぬようにな」
レザンジュ王軍撃破の熱狂が少しずつ冷め、今後の方針を決めるための会議が頻繁に行われるようになって2日。
今のところ、方針が定まるようには見えない。
まあ、簡単に決められるもんじゃねえから当然だけどよ。
とはいえ、問題はそう複雑でもねえんだな。
要は、いつエンノアの地を出るのか?
出た場合に、どこを目指すか?
これだけだ。
ちなみに、今の時点で優勢なのはエンノアに留まるという意見。
王軍の動向を注視しつつ慎重にという考えは、俺も妥当だと思うぜ。
レザンジュ王崩御なんていう情報も入ってきている現状なら、特にな。
で、エンノアを出た後については、トゥレイズ奪還、領都ワディナート奪還で意見が割れている。もちろん、そのためには人を集める必要があるし、根回し、下工作もかなり重要となるだろう。
が……。
困難な道ながらも、それが可能だと騎士たちは信じているみてえだ。
俺の想像以上に、南部にはワディンに心を寄せるものが多い。
王家よりワディン辺境伯家。
どうやら、そう考えている者が多いようだぜ。
「ヴァーン、わたしたちも一度外に出ましょ」
「ん? ああ」
会議は中断、休憩に入っている。
「セレスさんは……?」
「先生たちがついてるから心配いらないわ」
「だな」
コーキとディアナ、ユーフィリア、それにノワールもいる。
全く問題ねえ。
というか、過剰警護だろ。
こんだけ用心してりゃ、敵も近づけねえってな。
「ヴァーンはどう思う?」
会議場を出て、広場の外の空気で深呼吸をしたシアが尋ねてくる。
「どっちの話だ?」
「どっちもよ」
ワディンの話とセレスさんの話。
両方ということなら、まずは。
「襲撃の兆しは全くねえ。夜も問題ねえだろ?」
「ええ」
昼間、俺たちが護衛している間は何も不穏なことは起こっていない。
シア、ディアナ、ユーフィリアがそばにいる夜も同様。
とくれば……。
「本当に襲撃者が隠れているのか、あやしいな」
「……」
「シアはそう思わねえか?」
「先生がそう言ってるから」
ってことは、シアも疑っているわけだ。
「まあ、コーキがミスすることはあんまりないからな。といっても、コーキも人間だ。失敗もすりゃ、判断を間違うこともある。今回がそうかもしれねえぜ」
この件ばかりは、コーキの杞憂に過ぎない。
そう思えちまうんだが。
「でも……」
「実際、事は何も起こっていねえ。コーキが情報を掴んだと言ってるだけ。なら、誤情報の可能性だってある」
「……」
っとに、コーキへの信頼は半端ねえな。
そういう俺もあいつのことは誰より信頼してるけどよ。
ただ、ちっとばかし……。
妬いちまうぜ。
「……」
「……」
やめだ、やめ。
野郎の嫉妬ほどみっともねえモノないわな。
「まあ……警戒して問題があるわけじゃない。コーキの言う通り、このまま警護すればいいだろ」
「……うん」
ちっ、シアに気を遣わせちまった。
カッコわりい話だぜ。
「……」
話変えるか。
「で、ワディンの話だな」
「……」
「シアはどう思う?」
「……ここに残った方がいいと思う。ヴァーンは?」
「同じだ。しばらくはエンノアに留まるべきだと思うぜ。外に出て動くには早すぎる。それに、この数じゃどうしようもない。まずは味方を集めてからじゃねえか」
「……そうね」
「調略で数を増やす。今はそこに力を入れるべきだな」
「会議で、それを言えばよかったのに」
「同じようなこと言ってる騎士がいただろ。それに、そんなこたぁ、皆分かってるはずだ。今はできるだけ多くの考えを表に出している段階だかんな」
「そう……かもね」
「だいたい、俺が口を出す問題でもねえ。そもそも会議に出ること自体考えもんだわ。俺とコーキはただの冒険者だからよ」
「そんな! 誰もそんな風に思ってないわ」
「だとしてもだ。会議の場にエンノアの民はひとりもいなかったろ。もちろん、メルビンたちも」
「……」
「俺もコーキも今はワディンのために動いてる。結果も出しているし、それを皆も認めてる。けど、所詮は部外者だ。ワディンの未来に口を出す資格はねえよ」
「でも……」
俺たちは騎士じゃない。
どこまでいっても部外者なんだ。
「……」
「……」
今さら。
そう、今さらだ。
ただ……。
「俺がシアと契れば話は変わってくるけどな」
「えっ!? ち、契るって??」
「まあ……そういうことだ」
「ヴァーン……」
あ~あ、言っちまったか。
しかも、この流れで、こんな言い方で。
雰囲気も何もあったもんじゃねえ。
っとに……。
「ヴァーン?」
「……今はこんな状況だからよ。もう少し落ち着いたら、話を進めようぜ。正式にな」
そん時は、きっちり、しっかり申し込む。
絶対だ!
「……」
「……」
頬を染め俯くシアも悪くねえ。
けど、こっちを見て返事をしてくれねえか。
俺だって、不安はあるんだぜ。
「……嫌か?」
「そんなこと!!」
「一介の冒険者が貴族の娘に申し込むなんて、あり得ねえ話だからな」
「違う! 嬉しいの!!」
「……」
「わたしはもう貴族じゃないわ。冒険者よ! だから、問題なんてない」
「……そうか」
「でも、仮に貴族だったとしても、あなたについて行く!!」
「ああ」
そう言ってくれると思っていた。
けど、実際に聞くと胸が!
こう、胸が……。
ほんと、初めての感情だわ。
これまで、遊んできた女たちとは訳が違う。
やっぱり、シアは最高だな。
「ヴァーン、ありがと」
こっちのセリフだぜ。





