第416話 宴 5
「凄いぞ!」
「すさまじい剣振だぜ」
「見えなかった……」
「どうなったんだ?」
「よく分からんが、すごい!!」
「さすが、コーキ殿」
騒めく観衆。
酔いも相まって、とんでもない歓声だ。
が、それより今は!
剣を片手に周囲を睥睨……。
襲撃者が隠れていないか?
さらなる襲撃はないのか?
意識を研ぎ澄ませ、気配を探る!
……。
……。
「功己、功己!」
そんな俺のシャツを掴んでくるのは幸奈。
「また、助けてくれて……」
「あ、ああ……」
その濡れた瞳に、息をのんでしまう。
「ありがとう! 功己がいなかったら、わたし……」
「幸奈をまも……セレス様を護るのが私の役目ですから、当然ですよ」
「……コーキさん、ありがとう」
お互いに今の状況を忘れそうになる。
が、ここで幸奈と気安く接するわけにはいかない。
周りの目もある。
何より、警戒を緩めるわけには!
そこに。
「セレスティーヌ様!」
舞台から降りた隊長と副隊長が駆け寄ってきた。
その後ろから補佐役のふたりも。
「「「「申し訳ございません」」」」
地に膝をつけ、深く頭を垂れる4人。
……。
彼らのミスだったのか?
俺が舞台から目を離していた僅かな隙に?
別のファイヤーボールが放たれたのではない?
本当に?
いや、まだそうと決まったわけじゃないぞ。
「許されぬ失態にございます」
「……失敗は誰にでもありますから。幸い、わたしは無事でしたし」
「しかし!」
「コーキ殿がいなければ大変なことになっていました」
「命をもって償いたいと思います」
「駄目です! 確かに失態でしょうが、だからと言ってそんな事は許可できません」
「「「……」」」
幸奈の言葉に、4人の垂れた頭がさらに深く下がる。
「コーキ、そんな怖い顔すんなって。まっ、気持ちは分かるけどよ」
「ヴァーン、そうじゃない……」
怒っているんじゃない。
犯人を探しているだけだ。
「そうじゃねえって?」
「……いや、そうか」
顔が強張っているのは事実。
……良くないな。
「何だ、それ?」
「……」
幸奈を、セレス様の身を護ることは最重要使命。
ただ、それと同じく犯人確保も重要なんだ。
ここで逃すと厄介なことになってしまう。
何としても、この宴の場で犯人を捕まえないといけない。
なのに、俺のこの様子。
犯人に警戒しろと言っているようなものだろ。
これじゃ、駄目だ。
……。
ふぅぅ。
さりげなく。
さりげなく、それとなく探っていこう!
「さあ、飲もうぜ」
「ああ、宴はここからだな」
「よーし、乾杯だ!」
「おう!」
ルボルグ隊長と騎士たちの失態を幸奈が許した後、再開された宴。
その盛り上がりは衰えることなく、地下広場は喧騒に包まれている。
……。
心からこの場を楽しんでいる幸奈。
ワディンもエンノアも幸せそうに飲んでいる。
賑やかで、心地良い宴。
ただ俺は楽しんでいられない。
問題は何も解決していないのだから。
……。
……。
さっきの騒動。
魔力が乱れたことにより操作を誤ったファイヤーボールが幸奈の前に飛んでいったと。
それが真相らしい。
俺も色々と探ってみたものの、それ以外の事実を見つけることはできなかった。
他者による襲撃、第3のファイヤーボールは確認できなかった。
単なる4人のミスで、他者の襲撃など存在しない。
それが明確な事実。
ということになる。
ただ、そうすると。
4人に対する疑心が、どうしても生まれてしまう。
さすがに、このタイミングは……。
とはいえ、あの倒れていたセレス様の身に火傷痕なんかはなかった。
それに、あの喀血。
原因がファイヤーボールだとは思えない。
なら、これは事故?
ただの偶然?
それとも、事故を装った襲撃?
……分からない。
……。
結局、犯人を見つけることができないまま、何も分からないまま、4時間が過ぎ去っていった。
12刻(24時)を過ぎたところで、幸奈とシア、ディアナ、ユーフィリアといった女性陣が部屋に戻ることに。俺とヴァーン、アルもついていく。
「セレス様……丈夫ですか?」
「えっ、はい。ちょっと眠いですけど、平気ですよ」
「そうですか……」
前回の時間軸では、この時間に既にセレス様は倒れていた。
が、今はこうして俺の前で元気な姿を見せてくれている。
前回はまだ広場にいたはずの5人もここにいる。
過去が変わり、未来も変わった。
ひとまずは、セレス様の身を護ることができた。
……。
もちろん、あの惨劇の原因も犯人も分かっていない。
解決からは程遠い。
喜んでいい状況じゃない。
厄介な状況だ。
それでも、最悪の事態を回避することはできたと。
最善とは言えないものの、今はこれで好しと考えるしかないか。
ただ、今後はどうする?
24時間ずっと幸奈のそばにいることはできないんだぞ。
なら、シアたちに事情を話して……。
「あの、先生?」
「……どうした?」
「部屋に着いたんですが」
「……」
「もう休もうかと……」
ああ、俺たちがいると休めないよな。
「コーキさん、俺たちも部屋に戻ろうぜ」
「……少し話があるんだ。みんな、聞いてもらえるか?」
その後。
幸奈、ヴァーン、シア、アル、ディアナ、ユーフィリアの6人に、セレス様の命を狙う者がこの地下にいるかもしれないという話をして注意を促したところ。
皆、半信半疑ながらも、今後はセレス様の護衛をさらに強化して警戒を強めると約束してくれた。
幸奈も軽率な行動は控え用心すると言っていた。
今はこれでいい。
この対策でいいはずだ。
あっ、魂替については、今日は中止。
明日以降、また幸奈と話し合うことになっている。
ということで、今夜はシア、ディアナ、ユーフィリア、それにノワールが幸奈の護衛として同室で休むことに決定。
俺も同室で護衛すべきかと悩んだのだが……。
まあ、このメンバーがいれば問題ないだろう。
頼りになる女性3人とノワールだからな。
あとは俺が気配を探って警戒を怠らなければ十分。
そう思って休んだ翌早朝。
「先生、先生っ!!」
シアのとんでもない気配で覚醒。
玄関で迎えたシアの顔色は蒼白どころじゃない。
その様子を前に、冷や汗が溢れ出てくる。
「先生……」





