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30年待たされた異世界転移  作者: 明之 想
第8章  南部動乱編
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第415話  宴 4



「あれをやるのか?」


「セレス様に見てもらおうと思いまして。そうだ、隊長も手伝ってくださいよ」


「隊長、お願いします」


「……そうだな」


 ルボルグさんが手伝う?

 それなら問題ないのか?


 いや、分からないぞ。

 油断は禁物だ。


 俺と幸奈の目の前。

 ルボルグ隊長と副隊長、それに2人のワディン騎士が立ち上がり、車座から離れ何かの準備を始めた。


 その様子に気付いたメルビンさんやヴァーンたちも集まってくる。


「「「なんだ、何だ?」」」


「コーキ、何か始まんのかよ?」


「……分からない」


 ただ、これから毒を使うとは思えないし、呪いとも思えない。

 そもそも、皆が注目しているこの状態。

 衆人環視の中ですることじゃない、はず……。


「おっ、始まるみたいだぜ」




「さあさ、皆さん、御覧じあれ」


 近くにあった適当な岩を舞台に見立て、その上にルボルグ隊長と副隊長が立っている。

 さらに、舞台の左右には騎士がひとりずつ控えた態勢。


「隊長、始めますよ」


「ああ」


「「……それ」」


 小声で詠唱を終えた左右の騎士の手から魔法!

 拳サイズのファイヤーボールが飛び出した!


「えい!」

「やあ!」


 舞台上のふたりが素早く剣を鞘から走らせ、それを両断。

 はできなかったが、勢いよく振るわれたその剣圧でファイヤーボールが宙に!

 浮かんでいる……。


「たあ!」

「やあ!」


 再度振り上げられる剣。

 芝居がかった発声と動きだ。

 とはいえ、剣自体は鋭く精確なもの。


「えい!」

「たあ!」


 剣圧と剣風で、ファイヤーボールが上空をゆっくりと漂う。


「「「「「おお!!」」」」」


「何だ、これ!!」

「こんなの、見たことないぞ!」


 まるでシャボン玉のように浮遊する炎。

 優雅に中空を舞っている。


「……」


 ファイヤーボールで、こんなことができるなんて……。


「「それ」」


 そこに、左右から新たなファイヤーボールが。


「えい!」

「やあ!」


 一投目と同様に剣を振るう舞台上の隊長と副隊長。

 さっきより剣勢が増した!


 ふたりの騎士の頭上に浮かぶファイヤーボール。

 2個ずつ計4個が宙を漂っている。


「……」


 このファイヤーボールに剣さばき。

 簡単じゃない。かなりのものだ。

 どちらも繊細な力加減が必要なはず。


 本当に素晴らしい。


「「「「「おお!!」」」」」


 舞台の周りにいる観客の熱気が高まっていく。

 皆、夢中で眺めている。


 俺も興奮を抑えきれない。

 幸奈を護らなければいけないのに。


「「「「「すげえ!!」」」」」


 歓声の中、宙を舞う炎をコントロールするように、右に左に振るわれていく剣。

 圧巻の光景だ。



「功己、凄いね」


 傍らの幸奈が耳元で囁く声にも興奮が滲んでいる。


「とっても綺麗」


「……ああ、こういうの初めて見たな」


 魔法を娯楽で使うなんて、俺は考えたこともなかった。

 もちろん、見たことも……。


 いや。

 昔、一度だけ経験が!


 そう、10歳の時、オルドウ大祭で見た大道芸だ。

 内容は違うが、あれも魔法を使った娯楽芸だった。


 ……懐かしい。


 ……。



「おい、おい、3つ目だぞ」


「できるのか?」


 観客の言葉通り、ルボルグ隊長と副隊長の前に3つ目のファイヤーボールが投げ入れられた!


 息をのむ観衆。


「「「「「……」」」」」


「「「「「おおぉぉ!!」」」」」


「やりやがった!」

「成功だ!!」


「「「いいぞ!!」」」

「「「もっとやれぇ!!」」」


 合計6つのファイヤーボールが優雅に宙を舞う。

 白銀の華麗な剣線に、赤いシャボンのコントラスト。


 ……。


 美しい……。

 見惚れてしまいそうになる。


 さっきまでの焦りが消えて……。


 って、駄目だろ!


 ここは気を許せない場面。

 どう考えても危ない局面だ!


 皆の意識が舞台上に釘付けの今こそ、犯人にとっては絶好機。

 幸奈が狙われる可能性が高い。


 が……。


 逆に、こっちの好機とも考えられる。


 よし!

 観るのは止めだ。


 観賞気分を切り替えて、意識を周りに!


 何かおかしな点はないか?

 あやしい動きは?


 ……。


 ……。


 不審な物も人物も見当たらない。

 岩舞台を取り囲んでいる皆も……ファイヤーボールから目を離せない状態。


「「「「「わあぁぁ!!」」」」」


 興奮の声が響き渡っているだけ。


 ……。


 ……ここでは何も起こらない、のか?


 そう思った次の瞬間。


「「「危ない!!」」」

「「「セレス様!!」」」

「「「きゃあぁ!!」」」


 悲鳴に反応した身体に緊張が走る。


 と!?


 2つのファイヤーボールが幸奈の前に!

 高速で迫っている!!


「っ!!」


 即座に抜剣。

 居合のごとく振り抜き。

 最速で炎を斬り裂く。


 シュン!


 そのまま流れる剣の慣性を強引に無視して、引き戻すように剣を振るう。


 シュン!


 2つめのファイヤーボールも両断。


 ……。


 魔力を帯びた俺の剣が炎の瞬殺に成功。

 ファイヤーボールが消滅した。



「「「「「おおぉぉぉ……」」」」」


 喧騒から緊迫の静寂へと移っていた場に、溜息にも似た歓声が漏れる。

 集まる視線。


 直後。


「「「「「うおおぉぉ!!」」」」」

「「「「「わあぁぁ!!」」」」」

「ブラヴィッシモ!!」


 静寂から一転。

 歓喜が爆発した!






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― 新着の感想 ―
[良い点]  流石コーキ! 期せずしておいしいとこを持っていった!  幸奈は胸キュンですかね(笑)
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