第415話 宴 4
「あれをやるのか?」
「セレス様に見てもらおうと思いまして。そうだ、隊長も手伝ってくださいよ」
「隊長、お願いします」
「……そうだな」
ルボルグさんが手伝う?
それなら問題ないのか?
いや、分からないぞ。
油断は禁物だ。
俺と幸奈の目の前。
ルボルグ隊長と副隊長、それに2人のワディン騎士が立ち上がり、車座から離れ何かの準備を始めた。
その様子に気付いたメルビンさんやヴァーンたちも集まってくる。
「「「なんだ、何だ?」」」
「コーキ、何か始まんのかよ?」
「……分からない」
ただ、これから毒を使うとは思えないし、呪いとも思えない。
そもそも、皆が注目しているこの状態。
衆人環視の中ですることじゃない、はず……。
「おっ、始まるみたいだぜ」
「さあさ、皆さん、御覧じあれ」
近くにあった適当な岩を舞台に見立て、その上にルボルグ隊長と副隊長が立っている。
さらに、舞台の左右には騎士がひとりずつ控えた態勢。
「隊長、始めますよ」
「ああ」
「「……それ」」
小声で詠唱を終えた左右の騎士の手から魔法!
拳サイズのファイヤーボールが飛び出した!
「えい!」
「やあ!」
舞台上のふたりが素早く剣を鞘から走らせ、それを両断。
はできなかったが、勢いよく振るわれたその剣圧でファイヤーボールが宙に!
浮かんでいる……。
「たあ!」
「やあ!」
再度振り上げられる剣。
芝居がかった発声と動きだ。
とはいえ、剣自体は鋭く精確なもの。
「えい!」
「たあ!」
剣圧と剣風で、ファイヤーボールが上空をゆっくりと漂う。
「「「「「おお!!」」」」」
「何だ、これ!!」
「こんなの、見たことないぞ!」
まるでシャボン玉のように浮遊する炎。
優雅に中空を舞っている。
「……」
ファイヤーボールで、こんなことができるなんて……。
「「それ」」
そこに、左右から新たなファイヤーボールが。
「えい!」
「やあ!」
一投目と同様に剣を振るう舞台上の隊長と副隊長。
さっきより剣勢が増した!
ふたりの騎士の頭上に浮かぶファイヤーボール。
2個ずつ計4個が宙を漂っている。
「……」
このファイヤーボールに剣さばき。
簡単じゃない。かなりのものだ。
どちらも繊細な力加減が必要なはず。
本当に素晴らしい。
「「「「「おお!!」」」」」
舞台の周りにいる観客の熱気が高まっていく。
皆、夢中で眺めている。
俺も興奮を抑えきれない。
幸奈を護らなければいけないのに。
「「「「「すげえ!!」」」」」
歓声の中、宙を舞う炎をコントロールするように、右に左に振るわれていく剣。
圧巻の光景だ。
「功己、凄いね」
傍らの幸奈が耳元で囁く声にも興奮が滲んでいる。
「とっても綺麗」
「……ああ、こういうの初めて見たな」
魔法を娯楽で使うなんて、俺は考えたこともなかった。
もちろん、見たことも……。
いや。
昔、一度だけ経験が!
そう、10歳の時、オルドウ大祭で見た大道芸だ。
内容は違うが、あれも魔法を使った娯楽芸だった。
……懐かしい。
……。
「おい、おい、3つ目だぞ」
「できるのか?」
観客の言葉通り、ルボルグ隊長と副隊長の前に3つ目のファイヤーボールが投げ入れられた!
息をのむ観衆。
「「「「「……」」」」」
「「「「「おおぉぉ!!」」」」」
「やりやがった!」
「成功だ!!」
「「「いいぞ!!」」」
「「「もっとやれぇ!!」」」
合計6つのファイヤーボールが優雅に宙を舞う。
白銀の華麗な剣線に、赤いシャボンのコントラスト。
……。
美しい……。
見惚れてしまいそうになる。
さっきまでの焦りが消えて……。
って、駄目だろ!
ここは気を許せない場面。
どう考えても危ない局面だ!
皆の意識が舞台上に釘付けの今こそ、犯人にとっては絶好機。
幸奈が狙われる可能性が高い。
が……。
逆に、こっちの好機とも考えられる。
よし!
観るのは止めだ。
観賞気分を切り替えて、意識を周りに!
何かおかしな点はないか?
あやしい動きは?
……。
……。
不審な物も人物も見当たらない。
岩舞台を取り囲んでいる皆も……ファイヤーボールから目を離せない状態。
「「「「「わあぁぁ!!」」」」」
興奮の声が響き渡っているだけ。
……。
……ここでは何も起こらない、のか?
そう思った次の瞬間。
「「「危ない!!」」」
「「「セレス様!!」」」
「「「きゃあぁ!!」」」
悲鳴に反応した身体に緊張が走る。
と!?
2つのファイヤーボールが幸奈の前に!
高速で迫っている!!
「っ!!」
即座に抜剣。
居合のごとく振り抜き。
最速で炎を斬り裂く。
シュン!
そのまま流れる剣の慣性を強引に無視して、引き戻すように剣を振るう。
シュン!
2つめのファイヤーボールも両断。
……。
魔力を帯びた俺の剣が炎の瞬殺に成功。
ファイヤーボールが消滅した。
「「「「「おおぉぉぉ……」」」」」
喧騒から緊迫の静寂へと移っていた場に、溜息にも似た歓声が漏れる。
集まる視線。
直後。
「「「「「うおおぉぉ!!」」」」」
「「「「「わあぁぁ!!」」」」」
「ブラヴィッシモ!!」
静寂から一転。
歓喜が爆発した!





