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30年待たされた異世界転移  作者: 明之 想
第8章  南部動乱編
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第409話  無理


<セレスティーヌ視点(姿は幸奈)>




 日本とは異なる世界で、コーキさんは頑張ってくれています。

 今もきっと必死で。


 それが分かっているのに……。

 口に出せない。


「……」


「あいつ、何してんだ? 幼馴染をほったらかしにしてよ」


「有馬君にも事情があるの。分かってるでしょ」


「まあ、そんくらいはな」


「なら、もう黙りなさい」


 私が困った顔をしたから、古野白さんが。


「あの、私は平気なので……」


「いいのよ、武上君がしつこいだけだから」


「違うだろ、有馬がおかしいんだって。普通はよ、こんな可愛い恋人をいつまでも人任せにしねえぞ」


 可愛い恋人!

 私がコーキさんの恋人!?


 そんな!

 恥ずかしい。

 顔が熱い!


「ほんと……あなた粗忽者ね」


「……粗忽じゃねえ」


「そうかしら」


「ああ、オレは慎重で気の利くヒーローだぜ」


「……」


 ふたりとも、私の赤面した顔を見ないようにしてくれる。

 ……優しいな。


 この世界でこんな人たちに護ってもらって、私は幸せだ。



「……和見さん、携帯電話に着信じゃない?」


 えっ?

 私の携帯、振動している。


「気にせず、出ていいわよ」


「すみません」


 電話を取り出し、耳に当てると。


「コーキさ、功己!」


 またこのタイミングで、コーキさんから電話が。


「……はい。今は珈紅茶館にいます。古野白さんと武上君も一緒に。……はい、はい、分かりました」


「有馬君なのね?」


「はい。こちらに戻って来たそうです」





********************





「申し訳ありません。私の責任です」


「コーキさん……」


「私がもっと警戒していれば、あんなことには……」


「……」


「……」


 俺の目の前にいるのはセレス様。

 涙を堪えるように俯いている。


 ずっと話すことができなかったトゥレイズ城塞での辺境伯の最期。

 俺の勝手で話していなかった。

 嘘つきと呼ばれる覚悟で黙っていた。


 それを今、伝えたからだ。


 ……申し訳ない。


「……」


「……」




 つい数時間前。

 エンノアで異世界間移動を使い日本に戻ると、時刻は朝の5時だった。

 まだセレス様に会える時間ではなく、連絡を取れる時間でもない。

 なので、ひとまずシャワーを浴び仮眠をとった後にセレス様と会うことに。


 珈紅茶館で待ち合わせ、俺の部屋にふたりで戻り、そしてこれまで話せなかったことを伝えて、今。


「……」


「……コーキさんのせいじゃありません。……仕方なかったんです」


「ですが……」


「本当です。本当にそう思っています。ただ感情が……。感情を抑えることができなくて……」


「セレス様……」


 感情を抑えられない。

 そんなの当然のことだ。

 いきなり父親の訃報を知らされたのだから。


 大切な父を亡くし、その最期に立ち会うこともできなかった。

 そんな思いを、俺は……。


「……ごめんなさい。でも、少しだけ……少しだけ待ってもらえますか」


「……はい」


「……」


「……」


 ただ涙を堪えるセレス様を前にして。

 言葉なんて、俺には何もない。


 言い訳、慰め、励まし。

 今この場で口にできるわけがない。

 そんな資格もない。


 俺の注意不足で起きてしまった悲劇。

 なのに、これまでセレス様に伝えることもしなかった。


 セレス様のため?

 日本にいるセレス様は、どうすることもできないから。

 無駄に悲しませるだけだから。

 テポレンが大変な状況で、それどころじゃなかったから。


 全ては弁解。

 自己弁護に過ぎない。


 ……。


 エンノアで幸奈に言った言葉。

 セレス様は魂替の準備ができていないから発動は待てという言葉。


 違うだろ。

 準備できてなかったのは俺だろ。


 浅ましいな……。


 ……。



「コーキさん?」


「……」


「コーキさん、そんな顔しないでください。もう、私は大丈夫ですから」


「セレス様……」


「コーキさんは何も悪くないです」


「……」


「悪いどころか、沢山のことを私のためにしてくれたじゃないですか。そして、今も頑張ってくれています」


 違う。

 全て自分がしたいことをしてるだけなんだ!


 その上、それでいいと思ってた。

 覚悟もしてるつもりだった。

 今回のことも……。


「私は知っています!」


 違うんだよ。

 俺は自分のしたいことをして、その結果、辺境伯を……。


「コーキさんの苦労も努力も頑張りも、私は分かっていますから。そんな顔しないで」


「……ありがとうございます。でも、私は大丈夫ですよ」


 ただちょっと、自分の嫌なところが目に付いただけ。

 落ち込んでいるんじゃない。


「大丈夫なわけないです。そんな辛そうな顔をしているのに」


 平気だ。俺は辛くない。

 辛いのはセレス様の方だろ。


「私は知ってます。私は認めていますから」


「……」


「コーキさんが私を認めてくれたように、私もコーキさんを認めます。他の誰が認めなくても、私だけは認め続けます。だから……」


「……」


「だから、そんな顔しなくていいんです! これからも……私と一緒に……」


「……」


「……」


 はは……。


 浅ましいだけじゃない、か。

 情けない男だよ。

 今さら偽善に嫌悪だって、救えないな。


 その上、さっきまで悲しんでいたセレス様に、逆に励ましてもらうなんて。


 40年も生きてきたのに。

 ほんと、かっこ悪い。


 けど……それが俺か。

 なら、かっこ悪いなりに、格好つけないとな。


「ありがとうございます」


「……大丈夫、ですか?」


「私は最初から問題ありませんよ。それより、セレス様こそ無理してませんか?」


「実は、ちょっと無理しています。でも、コーキさんも無理してますから、お互い様ですよね」


 そう言って、微笑みを向けてくれる。

 敵わないよな。


「では、お互い少し無理をして前に進みましょうか。もちろん、一緒に」


「はい!」


 その強さ、その優しさ、その清廉さ。

 セレス様、あなたこそ真の神娘ですよ。






「何も起きませんね、コーキさん」


 セレス様と色々と打ち合わせをして待機すること数時間。

 もう午後5時になろうとしている。

 つまり、俺が日本に戻ってから12時間、あっちの世界では4時間が経過しているってことだが……。


「これで魂替が発動しないとなると、原因はペンダントの魔力ではないのかもしれません」


 既にペンダントには魔力充填済み。

 幸奈と約束した時間ももうすぐ終了する。


 ということは、魂替不発の原因は他にあると。

 そういうことになるのか。


「今日は替われそうにないですね」


「……ええ、おそらく」


「……でしたら、私はそろそろ和見の家に戻ろうと思います。壬生家の動きもあやしいですし」


 こっちはこっちで、また問題が起こりそうな状況。

 厄介なことだ。


「分かりました。家まで送りま……セレス様?」


 小さく痙攣したセレス様!


 意識を失っている!?

 これは……魂替?


 と!


「はあ、はあ……」


「幸奈、なのか?」


 魂替が発動した?


「うぅ……ここは……?」


「大丈夫か? って、幸奈なんだよな?」


「わたし……どうして? 功己? あっ、魂替!?」


 何を言ってる?

 それしかないだろ。


「そうだ、時間がない! 功己、今すぐ戻って!」


「今すぐ?」


「説明してる時間ないから。すぐにあっちに行って。セレスさんのもとに行って」






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― 新着の感想 ―
[良い点]  なっ! なにぃ!?  現世側ではなく、異世界側で事件!?
[一言] えぇぇ!一体何が!?Σ(゜д゜;)
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