第409話 無理
<セレスティーヌ視点(姿は幸奈)>
日本とは異なる世界で、コーキさんは頑張ってくれています。
今もきっと必死で。
それが分かっているのに……。
口に出せない。
「……」
「あいつ、何してんだ? 幼馴染をほったらかしにしてよ」
「有馬君にも事情があるの。分かってるでしょ」
「まあ、そんくらいはな」
「なら、もう黙りなさい」
私が困った顔をしたから、古野白さんが。
「あの、私は平気なので……」
「いいのよ、武上君がしつこいだけだから」
「違うだろ、有馬がおかしいんだって。普通はよ、こんな可愛い恋人をいつまでも人任せにしねえぞ」
可愛い恋人!
私がコーキさんの恋人!?
そんな!
恥ずかしい。
顔が熱い!
「ほんと……あなた粗忽者ね」
「……粗忽じゃねえ」
「そうかしら」
「ああ、オレは慎重で気の利くヒーローだぜ」
「……」
ふたりとも、私の赤面した顔を見ないようにしてくれる。
……優しいな。
この世界でこんな人たちに護ってもらって、私は幸せだ。
「……和見さん、携帯電話に着信じゃない?」
えっ?
私の携帯、振動している。
「気にせず、出ていいわよ」
「すみません」
電話を取り出し、耳に当てると。
「コーキさ、功己!」
またこのタイミングで、コーキさんから電話が。
「……はい。今は珈紅茶館にいます。古野白さんと武上君も一緒に。……はい、はい、分かりました」
「有馬君なのね?」
「はい。こちらに戻って来たそうです」
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「申し訳ありません。私の責任です」
「コーキさん……」
「私がもっと警戒していれば、あんなことには……」
「……」
「……」
俺の目の前にいるのはセレス様。
涙を堪えるように俯いている。
ずっと話すことができなかったトゥレイズ城塞での辺境伯の最期。
俺の勝手で話していなかった。
嘘つきと呼ばれる覚悟で黙っていた。
それを今、伝えたからだ。
……申し訳ない。
「……」
「……」
つい数時間前。
エンノアで異世界間移動を使い日本に戻ると、時刻は朝の5時だった。
まだセレス様に会える時間ではなく、連絡を取れる時間でもない。
なので、ひとまずシャワーを浴び仮眠をとった後にセレス様と会うことに。
珈紅茶館で待ち合わせ、俺の部屋にふたりで戻り、そしてこれまで話せなかったことを伝えて、今。
「……」
「……コーキさんのせいじゃありません。……仕方なかったんです」
「ですが……」
「本当です。本当にそう思っています。ただ感情が……。感情を抑えることができなくて……」
「セレス様……」
感情を抑えられない。
そんなの当然のことだ。
いきなり父親の訃報を知らされたのだから。
大切な父を亡くし、その最期に立ち会うこともできなかった。
そんな思いを、俺は……。
「……ごめんなさい。でも、少しだけ……少しだけ待ってもらえますか」
「……はい」
「……」
「……」
ただ涙を堪えるセレス様を前にして。
言葉なんて、俺には何もない。
言い訳、慰め、励まし。
今この場で口にできるわけがない。
そんな資格もない。
俺の注意不足で起きてしまった悲劇。
なのに、これまでセレス様に伝えることもしなかった。
セレス様のため?
日本にいるセレス様は、どうすることもできないから。
無駄に悲しませるだけだから。
テポレンが大変な状況で、それどころじゃなかったから。
全ては弁解。
自己弁護に過ぎない。
……。
エンノアで幸奈に言った言葉。
セレス様は魂替の準備ができていないから発動は待てという言葉。
違うだろ。
準備できてなかったのは俺だろ。
浅ましいな……。
……。
「コーキさん?」
「……」
「コーキさん、そんな顔しないでください。もう、私は大丈夫ですから」
「セレス様……」
「コーキさんは何も悪くないです」
「……」
「悪いどころか、沢山のことを私のためにしてくれたじゃないですか。そして、今も頑張ってくれています」
違う。
全て自分がしたいことをしてるだけなんだ!
その上、それでいいと思ってた。
覚悟もしてるつもりだった。
今回のことも……。
「私は知っています!」
違うんだよ。
俺は自分のしたいことをして、その結果、辺境伯を……。
「コーキさんの苦労も努力も頑張りも、私は分かっていますから。そんな顔しないで」
「……ありがとうございます。でも、私は大丈夫ですよ」
ただちょっと、自分の嫌なところが目に付いただけ。
落ち込んでいるんじゃない。
「大丈夫なわけないです。そんな辛そうな顔をしているのに」
平気だ。俺は辛くない。
辛いのはセレス様の方だろ。
「私は知ってます。私は認めていますから」
「……」
「コーキさんが私を認めてくれたように、私もコーキさんを認めます。他の誰が認めなくても、私だけは認め続けます。だから……」
「……」
「だから、そんな顔しなくていいんです! これからも……私と一緒に……」
「……」
「……」
はは……。
浅ましいだけじゃない、か。
情けない男だよ。
今さら偽善に嫌悪だって、救えないな。
その上、さっきまで悲しんでいたセレス様に、逆に励ましてもらうなんて。
40年も生きてきたのに。
ほんと、かっこ悪い。
けど……それが俺か。
なら、かっこ悪いなりに、格好つけないとな。
「ありがとうございます」
「……大丈夫、ですか?」
「私は最初から問題ありませんよ。それより、セレス様こそ無理してませんか?」
「実は、ちょっと無理しています。でも、コーキさんも無理してますから、お互い様ですよね」
そう言って、微笑みを向けてくれる。
敵わないよな。
「では、お互い少し無理をして前に進みましょうか。もちろん、一緒に」
「はい!」
その強さ、その優しさ、その清廉さ。
セレス様、あなたこそ真の神娘ですよ。
「何も起きませんね、コーキさん」
セレス様と色々と打ち合わせをして待機すること数時間。
もう午後5時になろうとしている。
つまり、俺が日本に戻ってから12時間、あっちの世界では4時間が経過しているってことだが……。
「これで魂替が発動しないとなると、原因はペンダントの魔力ではないのかもしれません」
既にペンダントには魔力充填済み。
幸奈と約束した時間ももうすぐ終了する。
ということは、魂替不発の原因は他にあると。
そういうことになるのか。
「今日は替われそうにないですね」
「……ええ、おそらく」
「……でしたら、私はそろそろ和見の家に戻ろうと思います。壬生家の動きもあやしいですし」
こっちはこっちで、また問題が起こりそうな状況。
厄介なことだ。
「分かりました。家まで送りま……セレス様?」
小さく痙攣したセレス様!
意識を失っている!?
これは……魂替?
と!
「はあ、はあ……」
「幸奈、なのか?」
魂替が発動した?
「うぅ……ここは……?」
「大丈夫か? って、幸奈なんだよな?」
「わたし……どうして? 功己? あっ、魂替!?」
何を言ってる?
それしかないだろ。
「そうだ、時間がない! 功己、今すぐ戻って!」
「今すぐ?」
「説明してる時間ないから。すぐにあっちに行って。セレスさんのもとに行って」





