第406話 宴 2
「こんな楽しい酒は久しぶりだぜ」
「ああ、生きててよかったぁ」
「美味い、美味いぞ!」
「酒だぁ、酒をくれえ!」
エンノアの民は酒に慣れていないし、ワディン騎士たちにとっても久しぶりの酒。
早く酔いが回るのも納得できるが、それでも宴は始まったばかりだというのに。
「アル、お前も飲めぇ! ほろ、もっといけんだろ!」
「おう! 今日は飲むぞぉ!!」
酒に強いはずのヴァーンまで……。
アルは程々にしとけよ。
「いい飲みっぷりだぜ!」
「ふ~。あったりまえだ!」
「おっ、シアももっと飲んでいいぞ。セレスさんも!」
「ヴァーンさん、わたしも飲みますよ!」
「セレス様……」
幸奈も飲むのかよ。
「ヴァーンさん、これ、美味しいわ!」
「そうそう、この酒いけるんだよな」
「エンノアのお酒って美味しいんだ……」
いや、違うぞ。
それ、俺が提供した日本の酒だからな。
「セレス様、無理しないでください」
「シアさん、大丈夫よ。今日は素敵な日なんですから、一緒に飲みましょ」
「ほら、シアも飲めって」
「そうだぜ、姉さん」
「ヴァーン、アルも……」
シアが助けを求めるように俺に視線を投げてきた。
が、悪い。
「シアも楽しんだらいいぞ」
「先生……」
そっちは任せるわ。
まっ、楽しければ、それでいいよな。
特に今夜は特別なんだからさ。
飲み過ぎても、治癒魔法と回復薬があれば何とかなる。
さて、他の皆はというと。
少し離れた席にいるディアナとユーフィリアは……。
「……」
「……」
静かに飲んでいるんだな。
彼女たちらしい。
ゼミアさんやルボルグ隊長はメルビンたち冒険者と飲んでいる。
フォルディさんもエンノアの皆と笑顔で過ごしている。
……悪くない宴会だ。
さて俺は。
酒はそこそこにしてと。
これからのことを考えないとな。
問題は山積みなんだ。
……。
何よりも優先すべきは、幸奈とセレス様の入れ替わり。
とにかく、ふたりの魂を元に戻さないといけない。
幸奈の異能も今なら発動可能なはず。
あとは入れ替わりのタイミングが問題となるだけ。
そのタイミングを計るためにも、ふたりと話をする必要があるんだが……。
ヴァーンたちと一緒に宴を心から楽しんでいる幸奈の邪魔はしたくない。
こんなに楽しそうな幸奈を見るのは、この世界では初めてのことなんだから。
ただ、このまま飲み続ければ、今夜話をするのは難しいだろう。
となると、先に日本に戻ってセレス様と話をした方がいいか?
セレス様の様子も気になるし、伝えることもたくさんある。
よし。
今日の深夜にでも日本に戻るとしよう。
それまでの時間は……諸々の確認だな。
まずは俺のステータスから。
……。
……これは!?
ありがたい。
本当にありがたい。
けど、俺だけがこんな恩恵を被っていいのか?
申し訳ない気持ちがどうしても生まれてしまう。
……。
今さらか。
そうだよな。
この世界に足を踏み入れて以来、多くの恩恵のおかげでここまでやって来れたんだから。
いただけるものは、喜んでいただいておこう。
で、そのステータスはというと。
まずは、レベルアップ。
いつの何が影響してレベルが上がったのか分からないが、とにかくまたレベルアップしている。
それにより各数値が上昇し、さらに今回は異世界間移動に関する恩恵までいただけたようだ。
その恩恵は時間についてのもの。
これまでは1/2だった移動先の時間経過が1/3になると。
つまり、こっちで24時間過ごして日本に戻った際、日本では8時間しか経過していない。
そうなるわけだ。
1/2でも十分ありがたかったのに、これは有用過ぎる。
ほんと、神様には感謝しかないな。
しかし……。
俺の肉体の老化についてはどうなるんだ?
まだ大きな問題はないものの、こんな活動を10年、20年と続けたら影響も出るはず。
俺の老化は……それも1/3になるとか?
……。
今考えることでもないか。
なら、次は。
<露見>
地球 1/3
エストラル 1/3
点滅ではなく、確定が1つずつ。
これはもう仕方ない。
セレス様と幸奈に知られているんだから。
ん?
ちょっと、待て。
地球の露見は以前から確定1だったぞ。
あの壬生との戦いの後に、露見確定していたんだ。
それなら、今は2/3になるのでは?
どういうことだ?
壬生に何かあったのか?
それとも、幸奈の露見がまだ未確定なのか?
分からない。
分からないけど……。
これは悪いことではない、よな。
……。
とりあえず、今はこの事実をありがたく受け入れておこう。
さて次。
これが問題、というか驚きなんだが。
<クエスト>
1、人助け 済
2、人助け 済
3、魔物討伐 済
4、少数民族救済 済
5、貴族令嬢救出 済
6、兇神討伐 済
7、神山守護 済
神山守護とは、今回の戦いのことだと思う。
他に思い当たる節はないからさ。
それで、このクエストの報酬が。
<ギフト>
異世界間移動 基礎魔法 鑑定改 多言語理解 アイテム収納
時間遡行(2刻)2
なんと、時間遡行が2つも手に入っているんだ!
しかも、これまでの1刻遡行ではなく、2刻(4時間)の遡行。
1度のクエスト達成で2つの報酬?
しかも2刻の時間遡行。
喜んでいただくと言っても、これはやっぱりなぁ。
本当にいいのか?
トトメリウス様には、セーブ&リセットを禁じられたというのに?
……。
……。
「コーキ殿、コーキ殿?」
「……メルビンさん?」
目の前にはメルビンとエレナ。
いや、もう今の関係なら、頭の中でもメルビンさんとエレナさんと呼ぶべきかな。
「どうしました?」
「皆、話がしたいと言ってるんですよ。こちらで飲みませんか?」
「私とですか?」
「他に誰がいるんです。コーキさん、こっちに来てください」
そう言って俺の手を取るエレナさん。
「……良いのですか?」
今の彼らは仲間同士で盛り上がっている。
そこに俺が入っても?
「もちろんです。皆喜びますよ」
「……それなら、少しだけ」
酒は控えるつもりだったが、彼らと話すなら少しはいいか。
と思って立ち上がったところで。
「コーキさん、こっちにも来てくださいよぉ」
ユーリアさんとアデリナさん。
ふたりともかなり酔っているように見えるぞ。
「まずは弟子と飲むべきでしょ」
「そうですよ。一緒に飲んでください」
ブラッドウルフの襲撃から護ることができたユーリアさん。
自己流の治療で何とか命を救うことができたアデリナさん。
ふたりに請われて何度か魔法を教えたことから、弟子を名乗っているんだよな。
「先生、弟子って何の話です! わたしが一番弟子じゃなかったんですか?」
シア、お前はヴァーンたちと飲んでいたんじゃ……。
「ちょっと、何ですか?」
「そちらこそ!」
「……」
みんな酒に飲まれ過ぎだ。
「はは、コーキ殿は大人気ですねぇ」
笑ってないで助けてくれ、メルビンさん。





