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30年待たされた異世界転移  作者: 明之 想
第8章  南部動乱編
409/701

第405話  宴


<メルビン視点>




「戒厳令の王都の夜って、なんだそれ! 俺の休暇はどこいった!」


 お前はホント、どこまでも自分の欲望に忠実だな。

 いっそ、羨ましいくらいだ。


「ちっ! いつも俺だけ貧乏くじかよ」


「……そのうち落ち着くだろ。上手くいけば、お前が黒都に到着する頃には戒厳令も解かれているかもしれないぞ」


「上手くいけばだろうが。しばらく戒厳令が続くか……下手すりゃ、また戦闘だぞ」


「すぐに武力衝突が起きる可能性は低い」


 トゥレイズとワディナートから黒都に戻った王軍が王子に反旗を翻す。

 誰が音頭をとると?


「この状況で王族に歯向かう気骨のある将軍がいるか?」


 イリアルも十分理解しているはず。


「……いねえな」


「なら、問題ない。黒都も早晩落ち着く」


「……」


 まず間違いなく、王子は様々な手を打っている。

 それなら、話も早い。


「アイスタージウスはもう実権を握ってんのか?」


「おそらくな」


「ってことは、そう遅くはならねえ、か?」


「そういうことだ」


「……分かった。今度は王都で一仕事してやらあ」


「しっかりやれよ」


「当然だ。俺の仕事はいつも完璧だろうが」


「……」


 確かに。

 イリアルはいつも文句ばかり言っているものの、仕事だけは卒なくこなす。

 能力ある欲望優先主義者だからな。


「で、黒都の件にもボスは関わってんのかよ?」


「……それについては聞いていない」


 昨夜話した時は、何も言ってなかった。

 とはいえ、あの方のこと。

 何かしている可能性も……。


「そうか。で、他に新しい指示は? メルビンは昨日ボスに会ってんだろ?」


「お前の仕事はさっきの話で全てだ。あとは、臨機応変に動いてくれ」


「オーケー。じゃ、黒都の夜を楽しませてもらうぜ」


「程々にな」


「分かってる」


 これで、イリアルも黒都できっちり働いてくれるはず。

 問題はこっちだ。


「メルビンもエンノアで上手くやれよ」


「そうだな」


「あいつら厄介な力持ってんだから、油断すんじゃねえぞ」


「ああ」


 読心の異能はかなり厄介なもの。

 普通なら、かなり難易度の高い仕事になるはず。

 ただ、こちらにはボスから教わった対策がある。


 問題ないだろ。





*********************





 ベニワスレの大木の下で恥ずかしいところを見られてしまった俺と幸奈だったが、俺と違い幸奈は平然としたもので、これまで同様にセレス様を演じている。


 ……。


 いや、ホント、今まで以上に上手くセレス様をやっているよ。

 たいしたもんだ。


 それに比べ、こっちときたら。

 地下に戻る道中ずっとヴァーンに冷やかされ続け、シアには分かったような笑顔ばかり向けられ、ディアナには冷たい目で見られ……。


 ばつの悪いことこの上ない。


 ……。


 まあ、こんな時間を過ごせるのは、ありがたいことなんだけどさ。



 と、そんな状態でエンノアに戻った俺たちを待っていたのは、いつもの皆とメルビン率いる冒険者一行。


 今日からしばらくの間、メルビン、エレナ、ランセルたち冒険者はエンノアを拠点にしてテポレン山の調査をすることになったらしい。


 異邦人である彼らをエンノアの居住区である地下に迎えて良いものか?

 問題はないのか?


 これについては皆の意見も割れたのだが……。


 先の戦での彼らの助力が二心あるものとは思えないこと、恩を返す適当な手段が思いつかないこと、エンノアの読心によって彼らには害意も敵意もないと分かったこと、などを考慮してゼミアさんが断を下したらしい。


 エンノアの皆が納得しているなら、俺が言うことは何もない。

 ワディン騎士の中にあったエビルズピークの一件についてのわだかまりも、今はほとんどなくなっているようだし。


 それに……。


 今のテポレン山の状況なら、こうなるのも当然か。

 何と言っても、レザンジュ王軍の撤退が一時的なものではないと判明したのだから。


 王軍の退却は次の戦を見据えての臨時撤退。

 まだまだ緊張状態は続く。

 そう考えていたのに、今や状況は一変。


 現在のエンノアは、これまでの雰囲気とはまったく違う。

 皆、浮かれた顔をしているよ。




「さあ、今夜は昨日と違って盛大ですぞ。コーキ殿もセレスティーヌ殿も早くこちらへ」


「ありがとうございます。……セレス様、行きましょうか」


「はい」


 地下にあるエンノアの広場は、既に多くの人の笑顔で溢れかえっている。

 それもそのはず。


 王軍の完全撤退の報を受けての勝利の祝賀会、それに加えメルビンたちの歓迎という意味を持つ宴が開かれようとしているのだから。

 規模も人々の熱気も昨夜の比じゃないな。


「ささ、おふたりの席はこちらになります」


 俺と幸奈が案内されたのは、広場中央に設置された宴会場の中でも最も上席にあたる場所。

 おそらく、一番の上座なんだろう。


「コーキさん?」


「せっかくの御厚意ですから」


「……はい」


 幸奈と俺が席に座り、皆が揃ったところで。


「始めましょうぞ」


「「「「「「「「「「おお!!」」」」」」」」」」


「「「「「「「「「「宴だぁ!!」」」」」」」」」」


 エンノアにワディン、それにメルビンたちと俺たちという、今地下にいる全員参加の大宴会が始まった。




「最高だぁ!」

「ああ、俺たちはあの大軍に勝ったんだぜ」

「ワディナートの仇を取れたんだ!」

「おう!」


「エンノアの力を見せてやったぞ」

「これで我らもようやく……」

「エンノアの新たな歴史が始まるんだ!」


「今日はこんな酒まであるのか?」

「肉もたっぷりあるぞ」

「コーキさんが提供してくれたらしい」

「さすがコーキさんだぜ」


「飲め、飲め、もっと飲め!」

「おう、杯を空けろ!」

「「「乾杯!!」」」


「……」


 四半刻も経たないうちに、できあがってしまっている。

 もう席なんてあってないようなもの。


 まさに無礼講状態だな。



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― 新着の感想 ―
[良い点]  勝ち戦は祝わねば!  だけど、二人にはゆっくりした時間が必要ですね(笑)
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