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30年待たされた異世界転移  作者: 明之 想
第8章  南部動乱編
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第402話  ベニワスレ


<和見幸奈視点>




 紅梅?

 どうして?


 この木はベニワスレの大木。

 テポレン山で初めて知った美しい木。

 なのに、紅梅という言葉が浮かんでくる。

 その言葉が浮かんで離れない。


 そんなわたしの頭の上を。


 ……。


 ひとひら、ふたひら……。


 揺れる、揺れる、花弁が揺れる。

 はらはらと零れるように。

 薄紅が、わたしの前を舞い落ちていく。


 ……。


 風の音が消え。

 時が止まり……。


 乾いた空を紅が舞う。


 紅が舞う……。


 ……。


 ……。


 ここに存在するのは、わたしとベニワスレ。

 薄紅とわたしだけ。


 言葉は何も出てこない。

 消え去ったものもまだ……。


 ただ、頬を伝う温かな思いは絶えることを知らず。

 わたしを優しく(いざな)ってくれる。


 その先に見えるのは、たったひとつの情景。


 ……。


 ……。


 若木に老樹、あたり一面に鮮やかに咲き誇る薄紅。

 たゆたう胡蝶のように舞う淡紅の中。

 若いふたりが歩いている。


 制服を着た少年と少女。

 少し距離を置いて歩く、ぎこちないふたり。


 少年が若木の枝を折り、少女に手渡す。

 怒ったような顔の少女。

 拗ねたような顔をする少年。


 一言、二言

 溢れる思いが少女の口からこぼれ出る。


 戸惑う少年。


 少女は……。


 嬉しい。

 楽しい。

 嬉しい……。


 幸せな思いで満たされていく。


 わたしも……。


 この胸に膨れ上がる思い。

 心が身体が、ふわふわと浮かんでいく。

 幸せに抱かれて、どこまでも高く、高く……。


 ……。


 ……。


 これは夢?

 白昼夢?


 分からない。


 でも、夢なら夢でもいい。

 ただ、夢ならば醒めないで!


 この思いを感じていたい。

 もう少しだけでも。


 ……。


 ……。


 少女の言葉に、少年が言葉を返している。


 その言葉!?


 聞こえる。

 声が聞こえる!



『………………一緒に来ようね』


 音を取り戻した情景。


『……時間があったらな』


『約束だよ』


『だから、暇だったらな』



 あぁ……。


 なんて温かい。

 わたしを優しく抱きしめてくれる。


 何度も……。

 何度も聞いた声。


『そろそろ帰るか、幸奈』


『うん』



 そうだった!

 わたしは、いつもこの声に救われてきたんだ。

 寂しい時も、悲しい時も、辛い時も!


 楽しい時も、嬉しい時も、いつも聞いた声。

 聞きたかったのは、この声だけ。


 他の声じゃ駄目だった。

 この声じゃなきゃ。


 わたしは……。


 わたしは……。


 この声がいい。

 あなたがいい!


 一緒に歩くのも、話をするのも。

 傍に座るのも、手を繋ぐのも、頭を撫でてもらうのも、あなたがいい。

 笑うのも、泣くのも全部。


 あなたと一緒が!

 あなたの隣がいい!


 梅を観るのも……。


 梅を観て綺麗と伝えたいのは、あなただけ。

 あなたひとりだけ。


 ……。


 あなたがいい。

 わたしは、あなたがいい!


 ……。


 ……。


 あぁ。

 止まらない。


 頬が熱い!


 あなたを想う気持ちが止まらない。

 流れる涙を抑えられない。


 こんなにも、こんなにも……。


 なのに、忘れていた。

 わたしは……。


 ずっと呼んでいたのに、あなたの名前を。

 何度も何度もあなたのことを。


 うぅ。

 どうして!


 ……。


 ……。


 でも……。


 あなたは、こんなわたしを見つけてくれた。

 助けに来てくれた。

 守ってくれた。

 ずっとずっと傍にいてくれた。


 今だけじゃない。

 昔からずっと……。


 あなたのおかげで、わたしは自分でいられた。


 ……。


 ……。


 わたしの嫌いなわたし。

 何もかも、嫌なところばかりのわたし。

 消したい記憶だらけのわたし。


 そんなわたしを、あなたは優しく受け止めてくれた。


 汚れたわたしを見捨てることなく。

 駄目なわたしの手を取ってくれた。


 ……。


 優しさを教えてくれたのは、あなた。

 喜びを与えてくれたのは、あなた。


 辛さは、あなたが消してくれた。


 あなたさえいれば、わたしはどこにいても自分でいられた。

 あなたがいなきゃ、わたしは……。


 ……。


 だからね。

 わたしの心はあなたのもの。

 全てあなたのもの。

 あなただけのもの。


 なのに……。

 なのに、忘れて……。


 ……。


 ……。


 ああ、涙が溢れて……。


 ……。


 ……。


 ……ごめんなさい。


 ごめんなさい、功己。





※ 紅梅の話については第4話、第176話の中頃を読んでいただくことで、より楽しんでいただけるかもしれません。

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[良い点]  お帰りなさい、幸奈ちゃん。 [気になる点]  良いですね。幸奈ちゃんおめでとうですがこの先波乱ポイッです。  剣姫様のやりとりも気になりますし。  この先楽しみです。 [一言]  お…
[良い点]  幸己の存在が幸奈にとってどれだけ大切なのかが伝わります……
[一言] やっと!やっと幸奈さんが(ノД`)
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