第401話 ひとひらの……
※ 本日2話目となります。
<和見幸奈視点(姿はセレス)>
何かは分からないけど、そこに真実がある!
……。
ずっと、わたしはそれを理解していたんだと思う。
そう、心の奥でずっと。
なのに、目を背けてきた。
頭痛がすると、すぐ逃げてきた。
……。
今の自分が気に入ったから?
この場所が居心地よかったから。
皆がわたしを思ってくれる、この温かな場所が。
……。
でも、いつまでもこのままではいられない。
わたしを苛んできた違和感が、そう告げている。
それなのに……。
いざとなると、勇気を持つことができなかった。
やっぱり逃げてしまった。
……。
自分が恥ずかしい。
こんなわたし。
神娘なんかじゃない。
そんな資格、ない!
資格はない……けど、わたしらしくありたい。
だから、今度こそ前に踏み出す!
必ず!
……。
……。
治まらぬ頭痛の中で目を開けると。
そこには薄紅の枝。
今も枕元にある一枝。
……。
この花弁を見ていると、なぜだか勇気が湧いてくる。
きっと、できる。
そう思える。
そんな決意と共に、夜を過ごしたのに。
やっぱり、コレの正体を見つけることができなかった。
……。
……。
浅い眠りの後に迎えた朝。
ワディン騎士の皆さんも、エンノアの皆さんも、みんな忙しそうにしている。
「今日も忙しくなりそうですね」
「……」
昨日に続いて戦場跡の処置、レザンジュ王軍の動向調査、次の戦いに向けての準備など。
することは沢山ある。
けれど、みんなの顔は晴れやかなもの。
横にいるシアさんもそう。
わたしは……。
「セレス様はゆっくりしてください。お顔の色も良くないですし、頭痛も治まっていないのですから」
相変わらず役に立たない。
ホント……。
でも、今日こそはきっと!
わたしは、もう逃げないから。
そう思うのに、どうしても前に進めない。
どうして?
今は強く望んでいるはずなのに。
やっぱり、心の深いところで拒絶している?
そうなの?
……。
……。
「シアさん、ちょっと出てきます」
このままじゃ駄目。
だったら、心のままに動いてみよう。
「えっ? セレス様、どちらに行かれるのですか?」
「大丈夫。すぐ近くだから、危険はないと思う」
「……お供します」
「……」
本当はひとりで向かいたかった……。
シアさんと護衛の騎士に護られて、向かった先は昨日の戦場跡。
わたしたちの本陣があった場所だ。
昨日、今日と処理をした結果、今は見違えるようになっている。
もちろん、戦いの傷跡は至る所に残っているけれど……。
「ひとりにしてもらってもいいですか?」
「セレス様?」
「シアさん、ごめんなさい。少しだけ離れてもいいかな?」
「……はい」
「騎士の皆さんも、ここで待っていてください」
「「承知しました」」
みんなから離れて1歩2歩。
大地を踏みしめ、足を進める。
……ここ。
本陣の中央。
わたしの目の前には、ベニワスレの大木。
ここで襲われたわたしを、コーキさんが救ってくれた。
「……」
ベニワスレに残る斬跡。
昨日のコーキさんの一振りでできたものだ。
その折れた枝は、今わたしの手の中に。
……。
……。
山に吹く優しい風が頬を撫でる。
ベニワスレの花弁が、ひとひらふたひらと舞っている。
目が離せない。
……。
……。
……えっ!?
何も思い出せない。
なのに……。
頬を伝っている。
自覚もないのに、温かなものが溢れてくる。
……。
懐かしい。
嬉しい。
なぜか、そんな思いが……。
……。
頬を伝うそれが止まらない。
わたしを包む柔らかな風。
風に舞うひとひらの薄紅。
まるで……。
そう、あの日の紅梅のように。
……紅梅!?
……。
……。





