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30年待たされた異世界転移  作者: 明之 想
第8章  南部動乱編
405/701

第401話  ひとひらの……

※ 本日2話目となります。


<和見幸奈視点(姿はセレス)>




 何かは分からないけど、そこに真実がある!


 ……。


 ずっと、わたしはそれを理解していたんだと思う。

 そう、心の奥でずっと。


 なのに、目を背けてきた。

 頭痛がすると、すぐ逃げてきた。


 ……。


 今の自分が気に入ったから?

 この場所が居心地よかったから。

 皆がわたしを思ってくれる、この温かな場所が。


 ……。


 でも、いつまでもこのままではいられない。

 わたしを苛んできた違和感が、そう告げている。


 それなのに……。


 いざとなると、勇気を持つことができなかった。

 やっぱり逃げてしまった。


 ……。


 自分が恥ずかしい。

 こんなわたし。

 神娘なんかじゃない。

 そんな資格、ない!


 資格はない……けど、わたしらしくありたい。


 だから、今度こそ前に踏み出す!

 必ず!


 ……。


 ……。


 治まらぬ頭痛の中で目を開けると。

 そこには薄紅の枝。


 今も枕元にある一枝。


 ……。


 この花弁を見ていると、なぜだか勇気が湧いてくる。


 きっと、できる。

 そう思える。





 そんな決意と共に、夜を過ごしたのに。

 やっぱり、コレの正体を見つけることができなかった。


 ……。


 ……。


 浅い眠りの後に迎えた朝。

 ワディン騎士の皆さんも、エンノアの皆さんも、みんな忙しそうにしている。


「今日も忙しくなりそうですね」


「……」


 昨日に続いて戦場跡の処置、レザンジュ王軍の動向調査、次の戦いに向けての準備など。

 することは沢山ある。


 けれど、みんなの顔は晴れやかなもの。

 横にいるシアさんもそう。


 わたしは……。


「セレス様はゆっくりしてください。お顔の色も良くないですし、頭痛も治まっていないのですから」


 相変わらず役に立たない。

 ホント……。


 でも、今日こそはきっと!

 わたしは、もう逃げないから。


 そう思うのに、どうしても前に進めない。

 どうして?

 今は強く望んでいるはずなのに。


 やっぱり、心の深いところで拒絶している?

 そうなの?


 ……。


 ……。


「シアさん、ちょっと出てきます」


 このままじゃ駄目。

 だったら、心のままに動いてみよう。


「えっ? セレス様、どちらに行かれるのですか?」


「大丈夫。すぐ近くだから、危険はないと思う」


「……お供します」


「……」


 本当はひとりで向かいたかった……。





 シアさんと護衛の騎士に護られて、向かった先は昨日の戦場跡。

 わたしたちの本陣があった場所だ。


 昨日、今日と処理をした結果、今は見違えるようになっている。

 もちろん、戦いの傷跡は至る所に残っているけれど……。



「ひとりにしてもらってもいいですか?」


「セレス様?」


「シアさん、ごめんなさい。少しだけ離れてもいいかな?」


「……はい」


「騎士の皆さんも、ここで待っていてください」


「「承知しました」」


 みんなから離れて1歩2歩。

 大地を踏みしめ、足を進める。


 ……ここ。


 本陣の中央。

 わたしの目の前には、ベニワスレの大木。


 ここで襲われたわたしを、コーキさんが救ってくれた。


「……」


 ベニワスレに残る斬跡。

 昨日のコーキさんの一振りでできたものだ。


 その折れた枝は、今わたしの手の中に。


 ……。


 ……。


 山に吹く優しい風が頬を撫でる。

 ベニワスレの花弁が、ひとひらふたひらと舞っている。


 目が離せない。


 ……。


 ……。


 ……えっ!?


 何も思い出せない。

 なのに……。


 頬を伝っている。

 自覚もないのに、温かなものが溢れてくる。


 ……。


 懐かしい。

 嬉しい。

 なぜか、そんな思いが……。


 ……。


 頬を伝うそれが止まらない。


 わたしを包む柔らかな風。

 風に舞うひとひらの薄紅。


 まるで……。

 そう、あの日の紅梅のように。


 ……紅梅!?


 ……。


 ……。





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