第399話 凶報 2 (※現状図)
・現時点での主要人物の所在地
〇白都キュベルリア 〇黒都カーンゴルム
キュベリッツ王 レザンジュ王
王女エリシティア 第一王子アイスタージウス
ギリオン ウィル、ヴァルター(コルヌ家)
レイリューク 憂鬱な薔薇
レント(ヴァルター弟子)
ジンク
バシモス(レンヌ家)
〇ワディナート
駐留王軍
〇オルドウ
オズ
リーナ(剣姫)
メルビン
〇テポレン
エンノア × 王軍、イリアル
コーキ一行
〇トゥレイズ
駐留王軍
<リーナ視点(剣姫イリサヴィア)>
「そうなの」
「ああ。まだ悪い話があるんだよ」
いったい何?
「今話したように、僕がここに来た理由はコーキの存在を耳にしたから。でも、それだけじゃない」
「そうよね。今のあなたがそんな簡単にオルドウに来れるわけないから」
「悲しいことにね。で、その理由はレザンジュの要請を受けたからなんだ」
「あの国から要請を?」
「そう、要請だね。リーナも知っての通り、ワディンの騒乱はまだ続いている。そして今。オルドウの東にあるテポレン山でレザンジュの王軍がワディンと争っているんだよ」
戦いはさっき終わったけれど、確かに騒擾は続いているわね。
「それで?」
「逃亡したワディンの残党がテポレン山を越えてオルドウに向かう可能性がある。その捕縛を頼まれたってこと。それと、場合によってはオルドウからテポレン山への援軍も」
「オズがわざわざ出向くことじゃないでしょ」
「いやいや、兵を出すなら僕が来てもおかしくないさ。事後の交渉もあるし……」
「おかしいわよ。あなたは一国の王太子なんだから」
「……」
「レザンジュの要請にかこつけてコーキの確認にやって来たってわけね」
「リーナ、それは考えようってやつ」
「まあ、いいわ。でも、それだと悪い話になってないじゃない?」
「もちろん、続きがある」
「何かしら?」
「信じがたいことなんだけど、そのレザンジュ軍が敗れたらしい」
「……」
「リーナ、驚かないのかい? 1万の軍が少数のワディンに敗れたんだよ」
「ええ。……知っていたから」
「知ってる!? 最新情報をどうして?」
「それは、さっきまで近くにいたからよ」
「ん? んん? それはどういうことだい?」
「オルドウにはテポレンを越えてやって来たの」
「戦場の近くを通って来たと?」
「そういうこと」
近くを通ったどころじゃないけど。
「危険は? 大丈夫なのか、リーナ?」
「誰に聞いているの?」
「いや、そうだけど。僕だって心配くらいするさ。相手がリーナなら特にね」
「……」
オズに心配してもらうのは嬉しい。
ただ、面と向かって言われると……。
「無事ならいいんだよ」
「……ありがと。で?」
「ああ、それで正式に援軍の要請があるかもしれない。これが数刻前までの話だね」
「援軍を出すつもり?」
それは駄目。
ワディンにはコーキがいるのだから。
何とか止めないと!
でも、ひとりの冒険者のことで国軍を動かすのは……。
「い~や、もう出す必要はない」
「どういうこと?」
「……ここからが悪い話だ」
「……」
「テポレン山のレザンジュ王軍は黒都カーンゴルムまで撤退するらしい」
本当に?
さっきの敗戦で懲りたからって、黒都まで撤退するの?
「撤退の理由は敗戦じゃないんだよ」
「……」
オズの顔つきが変わっている!
滅多に見せることのない真剣な表情。
「……レザンジュ王が亡くなった」
えっ?
黒都にいるレザンジュ王が崩御された?
健康だと聞いていたのに。
「病気だったの?」
「違う。これは今入ったばかりの情報で、詳細は分からないが……」
まさか?
「弑逆の可能性が高い」
そんな!
大国レザンジュの王が!?
「……いったい誰に?」
「それも定かじゃない。ただ、おそらくは……第一王子アイスタージウス」
「王子による謀反?」
「その線が濃厚だな」
第一王子の良くない噂は耳にしている。
王との不仲説も。
けど、弑逆だなんて!
「それが本当だとしたら……」
「ああ」
「……王族による謀反、弑逆。最悪だわ」
「最悪だ。けど、まだあるぞ」
「……」
「白都キュベルリアに滞在中のエリシティア殿に召喚令状が出されたらしい」
「王女にそんな酷い扱いを?」
「酷いどころじゃ済まないさ」
「……そういうことなの?」
「弑逆の前に出していた召喚令状だ。おそらくはそういうことだろうね」
あの王子、妹まで手にかけるつもり!
「それで、キュベリッツはどうするの? 陛下の御意向は?」
「まだ聞けていない。ただ友好国レザンジュとは……内政不干渉が原則だ」
「それなら、引き渡すと?」
「いや、まだ続きがある」
「何なの? 全部話して!」
「……レザンジュ国内から玉璽が消えた。そして、その玉璽は今エリシティア殿の手許にある」
王権の象徴である玉璽が王女の手に!
「……レザンジュの王権は、エリシティア様が握っているということ?」
「そうなるな」
だったら。
「キュベリッツはアイスタージウス王子より、エリシティア様を優先するのね?」
「それが、微妙なところだ」
「……」
「玉璽を持つ王女と、王都を支配下に置き実権を握る王子。厄介だろ」
「……そうね」
「で、その玉璽。どうやってエリシティア殿の手許に届いたと思う?」
「王女の配下の者が手配したんでしょ?」
「そうじゃないから頭が痛いんだよ」
「どういうこと?」
「レザンジュから玉璽を持ち出しエリシティア殿に届けたのは王女の配下ではなく……幻影だ」
えっ?
「師匠が?」
「そう、幻影のヴァルターがエリシティア殿に玉璽を届けたらしい」
どうしてここで師匠の名前が?
レザンジュの玉璽とは何の関係もないのに?
「今は冒険者ギルドの教官をやっている幻影の正体は、凄腕の元風根衆。王国の暗部だ。そんな彼なら可能なのかもしれないが……」
信じられない。
「……カーンゴルムで、キュベルリアで何が起こっているの?」
「それが分からないから急ぎ戻る必要がある。陛下からもすぐに白都に戻るよう指示があった」
すぐに王都に戻る!?
当然。
そう、この状況なのだから当然だけど……。
「キュベルリアにはいつ?」
「明日の朝一番で出発する。もちろん、リーナも一緒にね」
「……」
そんな……。
だったら、明日は……。
分かってる。
私用で、私情で動いていい状況じゃないことは。
でも……。
「そんな顔してどうしたんだい? 問題でも?」
「……」
話そう。
オズにこれまでの経緯を話して、全てはそれから。





