第397話 あの日……
オルドウ大祭?
もちろん、知っている。
忘れるわけがない。
10歳の頃に見たあの美しい眺めを!
「年に1回オルドウで行われる祭りなのだが?」
「ええ、知ってます」
「では、魔球合戦は?」
「それも知っています。参加したこともありますから」
「っ! 子供向けの魔球合戦にか?」
そう。
オズとリーナに誘われて参加したんだ。
オルドウ大祭の魔球合戦に!
……。
あの試合、あの1球!
3人で喜び合ったあの瞬間!
30年経った今も目を閉じれば浮かんでくる。
俺をこの世界に誘ってくれた輝かしい光を。
甘く優しい時間を……。
胸の中、美しい断片だけが凝縮して。
ずっと彷徨っている。
この手に掴もうとすれば消えていく泡のように……。
「アリマ?」
ああ……。
油断すると、すぐこうなってしまう。
しっかりしろよ、ホント。
「ええ、子供の頃、参加しました」
「……」
「イリサヴィアさんも参加したことがあるのですか?」
「う、うむ」
イリサヴィアさんの年齢は俺に近いはず。
同じ年の大会に出ていたという可能性も。
って、そんな偶然はないか。
彼女のように凛とした雰囲気を持つ少女に出会っていたら、簡単に忘れることはないだろうし。
しかし……。
朱色に輝く髪を持つリーナと鮮やかな濃紺の髪のイリサヴィアさん。
ふたりが並んだら、人目を引くどころじゃないよな。
「で、その、結果は?」
「優勝しましたよ。仲間のおかげなんですけどね」
懐かしい。
本当にいい思い出。
いい仲間だった。
オズとリーナ。
あのふたりに会いたくて、オルドウに戻ってきた当初は毎日のようにふたりを探したもんだ。
残念ながら、消息はつかめなかったけれど……。
「優勝、したのだな?」
「ええ」
こだわるな。
やっぱり、彼女も同じ大会に参加していたのか?
俺が覚えていないだけで……。
「仲間の名前は……オズとリーナか?」
「!?」
今、オズとリーナって言ったよな?
どうして、その名前を?
剣姫があのふたりを知っている?
「違うのか?」
これまで、どこで誰に聞いても見つけることができなかった手掛かり。
ふたりへと繋がる糸口。
それを剣姫が!
「そうです! オズとリーナです!」
「そうか! ……そうだったんだな」
「ええ! イリサヴィアさん、ふたりを知っているんですよね? ふたりは元気なんですか?」
「……知っている」
剣姫がふたりのことを知っている!!
ああぁ。
こんなところで手掛かりを得られるなんて。
何という幸運!
何てありがたい!
「ふたりとも元気だ」
「……よかったぁ」
思いもかけなかった幸運に、震えそうになる。
「その、ふたりは、アリマが良かったと思えるような相手なのか?」
「はい! 大切な友人なので」
「!!」
「それで……それで、ふたりは今どこにいるのでしょう?」
「……王都だ。白都キュベルリアにいる」
王都か。
やっぱり、オルドウには住んでいなかったんだな。
でも、これで会える!
やっと会うことができる!
……。
会いに行こう。
今の問題が片付いたら、必ず。
「イリサヴィアさん、私がキュベルリアに行けば紹介してもらえるでしょうか? いや、ぜひ紹介してください」
「あ、ああ。そうだな。紹介する。約束しよう」
「ありがとうございます!!」
「……うむ」
「しばらくは無理ですが、必ず王都に行きますので。よろしくお願いします!」
「……分かった」
よし!
これで、夢が叶う。
あのふたりに、オズとリーナに会うことができるんだ。
「アリマ、コーキ……実はな……」
「はい?」
「実は……いや、ここでは……それに時間が……」
彼女のこの様子?
何が言いたいんだ?
「何でもない」
とても、そうは思えないが……。
「……」
「……」
「おふたりとも、盛り上がるのはいいですけど麓に着きましたよ」
っと、そうだ。
今は案内中だったんだ。
イリサヴィアさんは……また機会があれば話してくれるだろう。
「すみません」
「いえいえ。話が盛り上がるのは良いことですから」
「……」
少し落ち着こう。
そう、今はまだすることが沢山あるんだからな。
「……メルビンさん、麓からオルドウまでの道は問題ありませんよね?」
「それは大丈夫です。私もオルドウで冒険者をしていましたから」
「では、ここで別れましょうか。私とミレンさんは山に戻りますので」
「そうですね。コーキさん、ミレンさん、案内ありがとうございました」
「いえ、ではまた明日会いましょう」
「ええ、また明日」
「イリサヴィアさん、必ず連絡しますので」
「……私はAだ。イリサヴィアには伝えておこう」
さっきは否定しなかったのに、またその設定を?
「……」
まあ、どうでもいいか。
「よろしくお願いします、Aさん」
「うむ」
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<イリアル視点>
「上手くやったみてえだな」
「無論だ」
「なら、こっからはお前の仕事だぜ。しっかりやれよ」
「いわれるまでもない」
テポレン山進攻までは俺の仕事。
ここからはメルビンの仕事ってな。
はあ~、やっと楽ができるわ。
「で、エンノアには入れるのかよ?」
「おそらくは……。まだ許可は得ていないがな」
「はっ、ミスってんじゃねえか」
「……問題ない。こちらのことより、自分の心配をした方がいいぞ」
「俺が何の心配すんだ?」
「黒都でも問題が起こっている。お前は、そっちの担当だ」





