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30年待たされた異世界転移  作者: 明之 想
第8章  南部動乱編
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第396話  道案内



 常夜の森でダブルヘッド。

 ということは……。


「2頭のダブルヘッドが現れた、あの事件でしょうか?」


 シアとアル、ヴァーン、ギリオンを助けようと常夜の森に入ったあの時。

 結果、セレスさんと出会うきっかけになった事件。

 あれなのか?


「はい。コーキさんが岩に隠れていた私たちを助けてくれたんです」


 確かに……。

 何人かの冒険者を助けた記憶がある。


「エレナとランセルです」


 そういえば、そんな名前だったような。

 けど。


「……おふたりはオルドウで活動されているのでは?」


 タラムという冒険者と組んでいたよな。


「今はメルビンと共に活動していますので」


「メルビンさんとカーンゴルムで冒険者活動を?」


「はい」


「俺とこいつはコーキさんに2度命を助けてもらったことになるんですよ。ダブルヘッドとあの化け物からね」


「ですから、今回の助勢も当然なんです」


 なるほど。


 けど、待てよ。

 エビルズピークでは、最初俺と敵対していたよな?

 あれは、どういうことだ?


 剣姫と共に行動していたからか?

 争う意志などなく、流れでそうなっていただけとか?


「2度助けてもらってますので、まだ恩を返しきれてませんけど」


「……」


 腑に落ちないところもあるが、今回の助勢と今のこの様子なら……。


「ところで、そいつは何です? ダブルヘッドじゃないですよね」


 ん?


「クウーン」


 かわいい声を出しているものの、今のノワールは成体の姿。

 堂々たる体躯を隠すことなく俺の横に座っている。


「まさか、ダブルヘッドなんですか?」


 このふたりはダブルヘッドに襲われた経験があるからな、過剰に反応するのも頷ける。

 って、彼らを襲ったのはノワールだった!


「……ダブルヘッドではありませんよ」


 嘘じゃないぞ。

 デフォームドダブルヘッドという進化種だからな。


「ですよね。よかったぁ」


「……」


「コーキさんの従魔だとは分かってるんですけどね。どうしても、ダブルヘッドには苦手意識があるもんで」


 いや、何というか……。

 申し訳ない。


「近づいても危険はないですよね?」


「……皆さんに害をなすことはありません。心配無用ですよ」


 もう何もしないから、許してほしい。


「クウーン?」


 何だ、その目は?

 お前……このふたりを認識してるのか?


「……」


「エレナ、ランセル、これで安心しただろ」


「メルビンさん、そうですね」


「ええ」


「なら、その話は終わりだ。ということで、コーキさん。私たちは皆あなたに借りがあるんですよ。なので、感謝など必要ありません。そちらの方々に謝礼をいただくつもりもありませんから」


 ああ、そうだった。

 エンノアの謝礼の話だったな。


「と言われましても、我らとしては……」




 エンノアとメルビン、お互いに譲らないまま話が平行線を辿るのも時間の無駄。

 というか、今はそういう状況じゃない。

 それは皆も理解していることなので、いったん保留。

 とりあえず今は、事後処理を行うことに。


 やることは沢山あるんだ。

 早く進めないとな。



 そんな後片づけをしている間。

 剣姫やメルビンがなぜテポレン山にやって来たのかという話も聞くことになった。


 いわく、メルビンたち冒険者はエビルズピークの騒動後の調査依頼を受け、テポレン山、エビルズピーク、ミルト山の調査を始めるところだったらしい。イリサヴィアさんは白都キュベルリアに戻る予定が一転、急用のためオルドウに向かうことになったとのこと。


 お互いの事情を知ったふたりが、それならということで調査はテポレン山から始めることにし、イリサヴィアさんはテポレン山まで同行、そこからテポレン山越えでオルドウに向かうことになったそうだ。


 ワディン、エンノアと王軍の戦い、それに俺が関わっているということは、道中で知ったらしい。そのため、急ぎテポレン山に上り様子を窺っていたところで、さっきの現場に偶然遭遇したと。


 まあ、そういうことらしい。

 何とも都合の良い話とタイミングだとは思うが、それが事実だというのだからな。

 こっちとしては、この幸運に感謝するだけだ。


 あっ、そうそう。

 彼らが顔を隠しているのは、レザンジュ王軍に敵対する姿を見られたくないから。冒険者が王軍と争うことは禁忌ではないものの、なるべくなら避けたいという思いからとのこと。


 剣姫はそれに加え、レザンジュ王家との関係もあるらしい。

 口をつぐむ彼女の横で、メルビンがそれとなく伝えてくれた。


 と、これで彼らがここに現れた理由も分かったということで。

 今後の問題だな。


 これについても簡単に話し合った。


 まずは何と言っても、王軍対策。

 これが最重要であることに異論はないものの、今すぐ全てを決めることでもない。今後も王軍の動向を見て柔軟に対応していくしかないだろう。

 といっても、しばらくはテポレン山に進軍してくることはないと思うが……。


 次に喫緊の問題。

 剣姫とメルビンたちをエンノアの地下に迎えて良いものかどうか?


 彼らが今回の戦の功労者であることに疑いはないとはいえ、エンノアにとって異邦人であることに変わりなはい。また、エビルズピークから同行を続けているワディンの者にとっても、わだかまりの残る相手ではある。


 本来ならしっかりと話し合って結論を出すべき問題だが、すぐ近くに彼らがいる今の状況ではそうもいかない。


 答えを出せないまま、ゼミアさんフォルディさんルボルグ隊長と一緒になって頭を抱えていたところ……。



「それでは、我々はこれで失礼しようかと思います」


「……メルビン殿、今宵はテポレンで過ごすのでは?」


「まだ時間に余裕がありますので、これからオルドウに向かおうかと。Aさんも急ぎの用があるようですし」


 彼らの実力なら、問題なくテポレン山を下りることができるだろう。

 剣姫が急いでいるなら、オルドウに向かう方がいい。

 こちらとしても、地下都市を知られることなく済んで助かる。


「山の調査はいかがするおつもりで?」


「明日朝から、また山に上りますよ」


「そうですか……」


「ええ」


「よろしければ……明日ここでお会いできませんかな? 我々としても、やり残したことがありますもので」


「ああ、謝礼については不要ですから、気にしないでください」


「ですが……」


「……」


「……」


「……分かりました。では、明日こちらに伺いますよ」


「おお、それは助かります」


「いえ。では、これで」


「メルビン殿、麓までは道案内を出しましょう。幾分の時間短縮にはなりますからな」


「……お願いします」


「案内は、ミレン、それにサキュルス……」


「ゼミアさん、私が同行します」


「コーキ殿が?」


「ええ。ここからオルドウ方面への道なら、熟知していますから」


 ということで、剣姫、メルビン一行を案内して、麓に向かうことになった。





 獣道を下ること半刻(1時間)。

 順調に歩みが続いている。

 このままいけば、彼らを案内した後、余裕を持ってエンノアに戻ることができるだろう。


 身体も大丈夫。朝からの戦闘で疲れは残っているが、通い慣れたこの獣道なら心配はない。


 ただ、隣を歩く彼女が……。

 剣姫がずっと黙ったままなんだよな。



「……」


「……」


 そろそろ麓が見えてきた。

 あと、八半刻もすれば到着だな。


 と、そこで。


「アリマ、少し聞いていいか?」


 声を潜めてイリサヴィアさんが話を。


「何でしょう?」


「君の……本来の髪色は黒なのか?」


 そういえば、今は茶髪だったな。


「ええ」


「やはり……」


 しかし。


「イリサヴィアさんが、なぜそれを?」


「ん? それは……そう、メルビンに聞いたからだ」


 なるほど。

 メルビンはオルドウで俺の黒髪を見ているからな。


 で、どうして、今そんな話を?

 しかも、何を納得してるんだ?


 ……。


 分からない。


 けどまあ、彼女はたまにこんな風になるからなぁ。

 あの異界でも、ひとりで納得している姿をたまに見かけたものだ。


「それと……」


 まだ聞きたいことがある?


「……アリマはオルドウ大祭を知っているか?」





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― 新着の感想 ―
[一言] 剣姫さん!ようやく気付いた!?
[良い点]  こっちが先でしたか!  た、確かにこの問題はまだ未解決!  これ、間違たらカウントが……
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