第394話 テポレン山の戦い 17
西の王軍別働隊、南の魔物、そして東の王軍本隊。
剣姫とメルビンが加わった俺たちが、それぞれに戦闘を続けた結果。
まずは、剣姫たちが魔物の殲滅に成功。
続いて、剣姫が加わった西の戦闘でも王軍を退けようとしている。
残るは、東側の本隊だけ。
その東でも、俺たちが王軍を圧倒。
ここまで、かなりの敵兵を葬ってきたはずだ。
もちろん、王軍の兵力にはまだ余裕があるだろう。
が、彼らからは戦意が消え去りつつある。
勝負が決するのも近い。
と感じていたところに。
「何を怯んでいる! よく見ろ、敵は寡兵だ!!」
「「「「「……」」」」」
「常勝不敗の我らが勝てぬわけがない!」
「「「「「……」」」」」
「勝てる、勝てるぞ!!」
「「「「「おおぉ」」」」」
急速に膨れ上がる戦意。
歩兵隊員の目の色も変わっている。
あれだけ落ちていた士気が回復するとは。
やはり、扇動のスキルなのかもしれないな。
「我らの力を見せてやれぇ! 突撃ぃぃぃ!!!」
「「「「「「「「「「おう!!!」」」」」」」」」」
また王軍の猛攻が始まった。
キン、キン、カン、ガン!!
ザン、ザシュッ、ザン!!
斬っても斬っても、次から次へと現れる歩兵。
目の前で倒れた味方を踏みつけ、狂ったように剣を振るってくる。
「こいつら、どうなってんだ?」
「普通じゃねえぞ」
「ああ、おかしい」
死などまったく恐れていない狂信者の眼。
まさに、死兵だ。
キン、ギン、ガン!!
死兵の剣は早く重い。
おそらく、通常の力以上のものを出しているのだろう。
それでも……。
「グロオォォ!!」
ノワールも俺も力負けなどすることはない。
「面倒なやつらだぜ」
「でもまあ、やることは同じだろ」
「ああ、斬るだけだな」
メルビンの仲間たちの剣も大丈夫だ。
襲いかかってくる敵を屠り続けている。
ただ、ペースは落ちているな……。
おっと!
今のはちょっと危なかった。
キン、ザシュッ!!
……腕と足に疲労が溜まってきたか?
ここまで休むことなく剣を振るい続けてきたんだ。
それも当然か。
このまま戦い続けたら、思わぬミスを犯してしまう。
そんな恐れもある。
ザン、キン、ザン!!
が、問題はない。
心配は無用だ。
そうだろ。
「コーキ、加勢するぜ!」
「おれもだ!」
ヴァーン、アル!
「遅いぞ!」
お前たちがいるからな。
「何言ってやがる。疲れてんのに加勢してやるんだぜ。感謝しやがれ!」
「ああ、感謝してるさ」
心からな。
「私も手を貸そう」
そして、剣姫イリサヴィア!
傍らに立つだけで安心感が違う。
これはそう、あの異界以来の感覚だな。
シュン!!
その手から、蒼い稲妻が走る。
返す剣でさらなる閃光。
シュン、シュン!!
速さが違う、威力が違う、音が違う。
軽い一振りで3人の歩兵を葬り去る蒼剣。
頼りになる味方だよ。
「イリサヴィアさん、助かります!」
「……Aだ」
まだやるんだな、それ。
「……そうでしたね」
と、そんなことを口にしながらも、剣姫の蒼剣は止まることを知らない。
シュン、シュン、シュン!!
ひたすらに殲滅を続けている。
ホント、頼もしい。
俺も負けてられないな。
時間にして数分。
王軍を圧倒し続け……。
「コーキ、そろそろじゃねえか」
「……」
さすがに、敵歩兵隊の勢いも落ちてきたようだ。
坂を上る足も止まっている。
扇動も万能じゃないということか。
それなら。
「Aさん、ヴァーン、アル、前を任せても」
「うむ」
「ああ、コーキはあれを頼むぜ」
「了解だ」
一歩後退して、エンノアに合図を送る。
そして、俺は。
「雷波!」
「雷波!」
「雷波!」
三連撃。
「「「「「ううぅぅぅ」」」」」
さっきまでは、どれだけの攻撃にさらされても落ちることのなかった敵歩兵隊の士気。
それが、今は嘘のように消え失せている。
「撃てぇぇ!!」
そんな王軍にとどめを刺すかのように中空を飛来する魔法矢。
「「「「「ドーン!!」」」」」
「「「「「ドガーン!!」」」」」
「「「「「「「「ああぁぁぁ……」」」」」」」
「「「「「ドガン!!」」」」」
「「「「「ドゴーン!!」」」」」
「「「「「「「「ぎゃぁぁ……」」」」」」」
これで先陣はほぼ壊滅状態。
なら、駄目押しだな。
まずは、数歩前に出て距離を確認。
この辺りでと。
「雷撃!」
「雷撃!」
空を斬り裂き紫電が敵本陣へ……。
よーし、着弾した。
この距離で問題ないようだ。
「本陣まで届いたぞ。さすが、コーキさんだぜ」
こいつはいつもの雷撃とは違う。
改良型、長距離用雷撃。
この状況なら効果的だろ。
「雷撃!」
「雷撃!」
雷撃はここまで。
さあ、次はとっておきだぞ。
収納から取り出したそれを右手に持ち。
魔力を込め……投擲!
強化された俺の腕から放たれたそれが蒼天を駆け、敵本陣中央に。
ドッゴーーン!!
着弾と共に巻き起こる爆風。
「「「「「「「「うわあぁぁ!!」」」」」」」」
「「「「「「「「ああぁぁぁ!!」」」」」」」」
「なっ! 本陣がぁ!!」
爆風による砂煙の中、呆然と立ち尽くす王軍兵。
これはまた、とんでもない威力だ。
「その魔法爆弾はすげえな」
「ああ」
今投擲したのは魔法爆弾。
ただし地中設置型じゃない、投擲タイプの魔法爆弾だ。
威力増の特別製なんだが、念動力に頼る設置型と異なり爆発の仕掛けが難しいため量産はできていない。
その特製の貴重品。
使うのはここだろ。
ということで、もう一投。
ドッガーーン!!
連続の爆散。
地鳴りのようにテポレンの地に響き渡る轟音。
「「「「「「「「うわぁぁぁ!!」」」」」」」」
「本陣が、本陣がぁ!!」
「ここまで届くのかぁ!?」
逃げ惑う王軍に。
最後の一投だ。
ドッゴーーン!!
「「「「「「「「ああぁぁぁ!!」」」」」」」」
「「「「「「「「ううぅぅぅ……」」」」」」」」
「駄目だ。もう駄目だ!!」
「逃げろ!」
「逃げるんだぁ!!」
「退却だぁ!!」
本陣に受けた連続爆散で、王軍が完全に機能を停止してしまった。





