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30年待たされた異世界転移  作者: 明之 想
第8章  南部動乱編
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第392話  テポレン山の戦い 15



 美しく風になびく濃紺の髪。

 マスク越しにも伝わる鋭い眼光。

 間違いようがない。


 あの剣姫イリサヴィアが加勢してくれるんだ!


 この難局で剣姫。

 これほど心強いことはない。


 ただ。


「イリサヴィア様、どうしてここに?」


 エビルズピークで別れた後、黒都カーンゴルムに向かったはずの剣姫。

 その後は、白都キュベルリアに帰るんじゃなかったのか?


「……何のことだ?」


 何のこと?

 いや、それこそ何のことだ?


「ですから、イリサヴィア様はカーンゴルムからキュベルリアに戻られる予定だったんじゃないのですか? どうして、テポレンにいるんです?」


「……」


 ああ、そうか。

 敬称が良くないのか。


「イリサヴィアさん?」


「……私はそのような名ではない」


「はい?」


 確かに仮面は着けてるけど、明らかに剣姫だよな。

 その蒼剣もイリサヴィアさんの愛剣、魔剣ドゥエリンガーだろ。


「私はイリサヴィアではない。ここにも偶然通りかかっただけだ」


「……」


 何を言ってる?

 さっきの言葉はどこにいった?


「待たせたな、と言いましたよね」


「……言ってない」


「加勢するとも言いましたが」


「……」


 この沈黙は何なんだ。


「コーキさん、それくらいで勘弁してもらえませんかね」


 剣姫と俺の間に割って入ってきたのは……。


「その声はメルビンさん、ですね」


「やっぱり分かりますかぁ」


 それはそうだろう。

 エビルズピークでの一件からはかなりの時間が経過しているとはいえ、あの強烈な経験は今も強く脳裏に焼き付いている。

 現場にいたメルビンに気付かないわけがない。


「とりあえず……別人ということでお願いします」


「どういうことです?」


「まあ、こっちにも都合がありまして」


「……」


 剣姫もメルビンも名乗れない。

 だから、仮面を着けていると。


「謎の冒険者AとBということで、いいですか?」


「……分かりました」


 隠したいというのなら、それでいい。

 重要なのはそこじゃないからな。


「……メルビンさんも助勢を?」


「ええ。Aさんに付き合いますよ」


「助かります!!」


「仮面の冒険者パーティー、そうですね、マスカレードが加勢します!」


 本当にありがたい。

 剣姫にはもちろん及ばないが、メルビンも相当使える冒険者だし、彼が率いる冒険者連中も並じゃない。


 この状況では、何よりありがたい貴重な戦力になる。


「っと、今はそんなこと話してる場合じゃないですね」


 突如現れた冒険者の剣の冴えを目の当たりにし、一歩退いてしまった王軍。

 が……。


「敵は数名だ。怯むなぁ!」


「一気に突き進むぞ」


「「「「「おお!!」」」」」


「騎馬隊、突撃ぃ!!」


 王軍の猛攻が再び始まった。


 キン、キン!

 カン、キン!


 ザン、ザシュッ!

 ザシュッ、ザシュッ、ザシュッ!!


 この山道の横幅は広くない。

 そこを俺とノワールと剣姫、メルビン率いる冒険者が守っているんだ。


「「「あぁぁ!!」」」

「「「くぅ!!」」」

「「「ううぅぅぅ……」」」


 結果は言うまでもない。


「「「「「ドーン!!」」」」」

「「「「「ドガーン!!」」」」」


 その上、上空を飛来した魔法矢が後続の軽装歩兵隊に着弾。


「「「「「うわぁぁ!!」」」」」


 王軍は混乱状態。

 さっきまで見せていた統率の取れた動きも高い士気もすっかり消えてしまった。


「こいつら、強すぎる!」

「無理だぁ!」

「死にたくない!」


「退くんじゃない! 突撃、突撃だぁ!!」


 目の前には、いまだ圧倒的多数のレザンジュ王軍。


「「「「「あぁぁ……」」」」」


 だというのに、歩兵隊、さらには騎馬隊までも次々とテポレンの地に沈んでいく。


「……」


 これはもう、完全に相手を圧倒しているぞ。

 むしろ、過剰とも思えるくらいの戦力だ。


 なら。


「ここはお願いしてもいいでしょうか?」


 後ろの防壁で魔物と戦っているワディン騎士。

 今にも崩れそうに見える。

 俺が行くべきだろう。


「ふむ、魔物か……そっちは私が相手しよう」


 剣姫が向かってくれる?


「良いのですか?」


「問題ない」


 そう言うや、愛剣片手に走り出す剣姫。

 一瞥だけくれて駆ける姿に迷いはない。

 相変わらず、格好いい人だ。


「Aさん、私も行きますよ」


 メルビンも後に続いた。


「……」


 防壁を襲っている魔物の数は多いが、強力な魔物といえばブラッドウルフくらいのもの。

 それも剣姫にとっては造作ない相手。

 問題ないだろう。


 で、こっちは、俺とノワールに加え6人の冒険者。

 敵は気勢をそがれた混乱状態の王軍。

 十分にやれる。


「皆さん、お願いしますよ」


「「「ああ」」」


「「「了解だ」」」





*********************


<イリアル視点>




「なっ! あいつらは何者だ!?」


 序盤から続いていた一進一退の攻防。

 その局面がこちらに傾きかけている。

 誰もがそう感じた時に現れた乱入者。


 彼らによって、戦局は一変してしまった。


「マスクなど着けて、ふざけているのか!」


「……どうでしょうね」


 派手なマスカレードマスク。

 確かに、見た目はふざけている。


 けど、そうじゃねえんだよなぁ。

 ただ正体を明かしたくないだけ、ってな。


「しかし……。ふざけた格好なのに凄まじい」


 ああ。

 驚くのも当然だわ。

 あいつもバケモンだからよ。


 俺もな、最初にメルビンから連絡を受けた時には驚いたもんだ。

 まさか、あんなやつがやって来るとはなぁ……。

 だもんで、今回も仕事が増えちまった。


 まっ、何とかなったけどよ。



「特にあの青髪の剣士! ワディン騎士には見えぬが、いったい……」


「つ、強い!」

「何だ、あの剣は!」


「駄目だ。また先鋒が押し返されるぞ」

「やばい!!」


 トゥオヴィの周りも騒いでいる。


 よーく分かるぞ、その気持ち。

 せっかく流れを掴んだと思ったら、この様なんだ。

 騒ぎたくもなるわな。


 とはいえ、俺にとっちゃ、いい塩梅なんだぜ。

 タイミングも最高だ。


 ホント、我ながらいい仕事するよな、俺は。





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― 新着の感想 ―
[良い点]  これも想定外ではないと!  ぐぬぬぬ! イリアルめ! [一言]  更新ありがとうございます!
[一言] Aさんwww イリアルの作戦ではない? 誰の指示で来たんだろう(。-`ω´-)ンー
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