第39話 テポレン山 2
テポレン山に足を踏み入れるその前に。
一応。
「ステータス」
有馬 功己 (アリマ コウキ)
レベル 2
20歳 男 人間
HP 121
MP 171
STR 201
AGI 138
INT 232
<ギフト>
異世界間移動 基礎魔法 鑑定初級 エストラル語理解
セーブ&リセット 1
<所持金>
2、160メルク
<クエスト>
1、人助け 済
2、人助け 済
3、魔物討伐 済
<露見>
地球 2(点滅)/3
エストラル 0/3
大きな変動がないのは分かっている。
けれど、日々の鍛錬による影響がないか、つい確認したくなるんだよな。
まっ、今のところは鍛錬によって上昇した数値は目にしていない。
おそらく、鍛錬が足りていないのだろう。
数日鍛錬してすぐに数値が上がるわけもないか。
というように各種数値に変わりはないのだが、魔力に関して大きな変化があることに気づいたんだよ。
それは魔力の消費と回復。
魔法を使った時の魔力消費量がかなり減ったんだ。
それだけじゃなく、異世界間移動での魔力消費も減少した。
レベル2になる前は、異世界間移動を発動すると80MPの魔力が消費されていたのに、レベル2の今は異世界間移動をしても40MPの魔力しか減らない。
これはかなり助かる。
さらに嬉しいことに、魔力の回復も速くなった。
今では1時間に30MPほど回復している。
これも、非常にありがたいことだ。
ホント、レベルが2になるだけでこれだけの変化があるのだから、今後のレベル上昇が楽しみでならないな。
さてと、ステータスの確認も終わったし。
ここは……。
テポレン山に入る前に、セーブをしておいた方がいいか。
もちろん、余程のことがない限り、リセットをするつもりなどないが……。
「セーブ!」
……。
やっぱりセーブを使うと、少し後ろめたい気持ちになってしまうな。
けどまあ……割り切るしかない。
今からテポレン山という未知なる場所に分け入るんだから、前向きにいこう。
よし、今度こそ出発だ!
虫よけのスプレーを身体中に吹きかけ、草木を払うための高炭素鋼で作られた鉈ナイフ、いや、マチェットと呼んだ方がいいのかな、そんなものを手にして出発。
ひたすら目の前の雑草を払い、行く手を阻む小枝を切り捨てながら歩き続ける。
時には土魔法で道を確保しながら前進すること1時間。
「ふぅ~」
額を流れる汗をぬぐう。
この時期のオルドウは気温が高いので、肌の露出を控えた服装で山道を進むとかなり暑い。
これはもう、結構な汗をかいているな。
それにしても……。
給水のために休憩をとりながら、周りを見回す。
ここがどこなのか全く分からないような状況になってきたな。
切り払ってきた草木が小さな道のようになっている背後を除くと、周りが全て草木で覆われており、方向感覚もなくなってしまいそうだ。
オルドウでも使えることを確認済みの方位磁石と目印を木に塗るために用意した塗料がなければ、すでに迷っていたかもしれない。
まあ、魔法を使えば何とかなっただろうけど。
しかし、この依頼。
人気がないのも納得だな。
ちなみに、今回の薬草を採取する場合、俺の入山した地点から50キロ北側にある麓から続く道を進むのが常道らしい。一応道らしきものが中腹まで続いているので、そこを通って薬草の群生地帯まで足を運ぶことができるそうだ。
とはいえ、そこも道と呼べるような立派なものではないらしい。
俺の通っているこの経路より幾分ましという程度と聞いている。
それでも、ギルドの受付では当然のように北側から入山することを勧められた。
そんな情報を持ちながら、こちらの経路を選んだ理由は単に距離が短いから。
50キロも北まで行ってられないだろ。
それに、こちら側はやや標高が低い位置に薬草が生息しているらしい。
ということで、この道を選んだというわけだ。
休憩を3回はさみながら山を登ること約4時間、まだ昼前だが目的の薬草らしきものがチラホラと 目に入ってきた。おそらくこの辺りが生息地帯なのだろう。
上に向かうのをやめて、周辺を調べながら歩く。
……。
うん、間違いない。
ギルドで聞いた薬草の特徴に合致する草がそこら中に生い茂っている。
採取開始だな。
薬草を傷めないように、注意しながら刈っていく。
ゆっくりと丁寧に。
……。
採取すること数分。
あっという間に、目標とする量を確保してしまった。
ここに来るまでは大変だったが、辺り一面に茂っている薬草を採取するのは難しいことじゃない。
必要量もそれ程でもないとくれば、すぐに終わってしまうのも当然だ。
「さて、どうするか」
このまま帰ってもいいのだけれど、予定より随分早く終わったからなぁ。
魔物にもほとんど遭遇していないし、遭遇した魔物もあっさりと片付けることができた。
「うーん……」
せっかくここまで来たのだから、テポレン山を散策してみるか。
よし、もう少し上まで行ってみよう。
ということで、さっきまでと同じようにマチェット片手に登り続ける。
草を刈り枝を切り風魔法で虫を避け土魔法で道を作り、歩く、登る、進む。
……。
……。
何と言うか、面白みがないな。
周りが植物に覆われているため眺めが良くないというのもあるが、とにかく単調だ。
草木の中をただ歩いているだけ。
途中で2度魔物にも遭遇したが、魔法で一撃だったしな。
山頂まで登る気もないし。
懐中時計を見ると、12時半。
暑いし、もう帰るか。
そう思って、踵を返そうとしたまさにその瞬間。
「グロロルゥゥ」
「うわぁぁ!!」
魔物の唸り声と、男性の叫び声のようなものが静寂を切り裂いた。
声のした方向は、ここから山頂に向かって左手の方角。
先日助けた姉弟のことが頭を過ぎる。
オルドウの街の外に出るようになって、短い期間に2度目。
常夜の森に続いて、テポレン山でもなのか。
魔物に襲われている人との遭遇率が高すぎるぞ。
という思いはあるものの、することは決まっている。
その声に向かって走り出す。
登山時とは違い、強めの風魔法で目の前の草木を薙ぎ払って走る。
「来るな、来るなぁ!」
「グロォォ」
音が近づいてきた。
さらに加速して駆けると。
急に前が開けた。
視界を遮っていた高い樹々が途絶え、人の手が入ったような低木と草だけが辺りを覆っている。
その中ほど、1人の男性と狼のような魔物が対峙しているようだ。
「やめろ!」
まずいな。
男性は魔物にやられたのか、出血した脚を引きずるように逃げている。
武器は手にしていない。
魔物は抵抗できない獲物を弄ぶかのように、じりじりと間を詰めている。
もう少し耐えてくれよ。
身体中に魔力を循環させ身体能力を向上させる。
ここまでかなり魔法を使ってきたので魔力残量に不安は残るが、今はそれを心配している場合じゃない。
さらに風魔法で補助しながら最速で駆ける。
前方では、いまにも魔物が男に襲いかかろうとしている。
「グル」
こちらに気付いたか。
距離は20メートル。
ちょっと遠いが、いけるか。
「雷撃」
ここのところよく使っていたので得意魔法となりつつある雷撃を放つ。
が……。
避けたのか!?





