第384話 テポレン山の戦い 7
「先生、左右の林からも攻めてきます!」
「コーキ殿、魔法矢はどうしましょう?」
「コーキさん、念動力隊は?」
シアにゼミアさんにフォルディさん、少し焦りが見えるな。
周りの皆も同様か。
「……」
敵が三方向から同時に進軍してくる可能性は当然想定していたし、対応策も考えている。
もちろん、皆とも話し合っている。
それでも、やはり……。
こうして実際に攻め寄せてくる敵兵の姿を目にすると、焦ってしまうものなんだろう。
ただ、まだまだ続くであろうこの戦闘において焦りが良い結果を生むことなどない。
この後に想定外の事態が起こった場合、自失してしまっては対処できるものもできなくなってしまう。
皆には、冷静になってもらいたいところだ。
「ゼミアさん、フォルディさん、ワディの騎士にエンノアの皆さん、落ち着いてください。この程度のことは想定内なのですから」
「「「「「「……」」」」」」
「この戦い、的確な状況判断が何より大切です。この先何が起こっても、それだけは忘れないでください」
こう口で言うのは簡単だが、実行するのは容易じゃない。
それはもちろん分かっている。
それでも、口にするしかないからな。
「そうでしたな。年甲斐もないことを……コーキ殿、申し訳ございません」
「いえ……。それで、現状は王軍が三方向からこちらに上ってきていますが、これまで同様に進軍速度は遅いままです」
「「「「「「……」」」」」」
「おそらく、敵は魔道具攻撃を警戒しているのだと思います。であれば、こちらは作戦に沿って事を進めるだけです」
「コーキの言う通りだぜ、これも想定内。なら想定通り叩けばいい!」
「そうだな」
「ああ、焦る必要はない」
「問題ないぜ!」
少しは落ちつきを取り戻してくれたかな。
「ゼミアさん、魔法矢は中央の山道にいる敵にお願いします」
「承知しました」
「ヴァーン、半数の念動力隊と共に右手の樹林の対応を任せていいか」
「ああ、了解だ」
アル、ディアナと一緒に念動力隊を護ってくれよ。
「フォルディさん、ユーフィリアさんは私と共に左方の王軍を叩きましょう」
「分かりました」
「了解」
「では、始めます!」
「魔道具隊、構え! 撃てぇ!!」
ゼミアさんの号令一下。
50のクロスボウから魔法矢が一斉に放たれた。
それを脇に見ながら、ヴァーン率いる念動力隊とこっちの念動力隊が二手に分かれ坂を下る。
といっても、樹林には足を踏み入れず、樹林に沿って山道を下るだけ。
今回は中に入って直接戦うつもりはない。
樹林の外から、あれを作動させればいい。
そう。
左右の樹林にも魔法爆弾を設置済みなんだ。
だから、こっちは念動力を使える距離まで近づけばいいだけ。
「皆さん、止まってください」
ここだな。
左手にある樹林地中の爆弾を作動させる適距離だ。
「止まれ!」
右の樹林横でヴァーンたちも待機している。
あとは、王軍がその位置に来るのを待つだけ。
「「「「「「「「「「ううぅ……」」」」」」」」」」
「「「「「「「「「「ああぁ……」」」」」」」」」」
少し先の山道上にいる王軍の兵たちは、さっきの魔法矢の斉射を受けて倒れ込んでいる。
通常の盾と魔法防壁で爆裂する矢を防ごうとしていたようだが、上手く防げなかったみたいだ。
王軍としても、それはこれまでの攻防で分かっていたことだろう。
それでも、山道を進むしかなかったと。
……。
そんな場合じゃないのは分かっている。
けれど、兵卒の悲哀を感じてしまうな。
っと!
そろそろか。
「フォルディさん、お願いします」
「了解です。皆、作動させるんだ!」
「「「「「おう!」」」」」
フォルディさんたち念動力隊がその力を行使した次の瞬間。
ドッゴーーン!!!
ドッドーン!!!
ダーーン!!!
凄まじい轟音が樹林の中を駆け巡る。
と、ほぼ同時に右方の樹林からも強烈な爆発音が響いてくる。
「「「「「「「「「「ううぅ……」」」」」」」」」」
「「「「「「「「「「ああぁ……」」」」」」」」」」
「「「「「「「「「「……」」」」」」」」」」
中央の山道、左右の樹林の中なら聞こえてくるうめき声。
三方向から聞こえる無数の悲痛な音を耳にして、エンノアの皆の足が止まっている。
「……フォルディさん、戻りましょう」
「……」
「フォルディさん、皆さん!」
「あっ、はい。皆、陣に戻るぞ」
今は陣地に戻って次に備えよう。
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<イリアル視点>
「イリアル、やつらはどれだけの魔道具を持っているのだ?」
「分かりません。ですが、こちらの予想を大幅に上回る数を保有していることは確かでしょうね」
王軍の正面からの突撃は5回以上。
多方向からの同時攻撃も既に行った。
その全てを魔道具による攻撃で防いじまうとは。
ホント、強力な魔道具を揃えられたもんだぜ。
まっ、俺にとっては悪くない展開だけどよ。
「……どうしようもないな」
「ええ、この狭い道を攻め上っている限りは」
「では、どうする? このまま魔道具が尽きるまで攻め続けるのか?」
「上の考え次第ですね。味方の損害を無視するなら、攻め続けるのもひとつの手でしょう」
「……」
「左右の樹林を上手く使いたいところですが、そこでも魔道具の餌食になりそうですし」
「やはり、魔道具が尽きるまで続けるしかない、か?」
「どうでしょ? 上の方々は東側以外からの攻撃を考えているかもしれませんよ」
「北も南も進軍は無理だ。となると、西からか?」
「ええ、テポレン山を迂回してオルドウ経由で西から攻める可能性もありますね」
「……軍議では、そのような話は出ておらぬぞ」」
「あくまでも可能性ですよ」
今からオルドウ経由で行軍させたら相当な日数が必要になる。
普通は選ばない手段だ。
けどまあ……。
「可能性、か」
「ええ、可能性です」
あらかじめ手を打っていたとしたら。
話が違ってくる。





